住民の皆さんに新しい始まりを届ける「仮設きずな新聞」[みちのく仕事]

震災以降立ち上がった東北の団体のリーダーの元に、若手経営人材「右腕」を3年間で約200人派遣してきた「右腕派遣プログラム」。東北で活躍する「右腕」とリーダーのインタビューを紹介します。

宮城県内の応急仮設住宅(プレハブ住宅)の入居者数は約37,000人(2014年11月末時点・宮城県保健福祉部震災援護室発表)、そのうち約13,000人が、石巻市内にある131の仮設住宅団地で今も暮らしている。

緊急支援から活動を続けるピースボート災害ボランティアセンターでは、石巻市内で「仮設住宅での暮らしに役立つ情報を発信する・ココロが元気になる」仮設きずな新聞を月2回発行、住民さんに手渡しで配布を行うことで、見守り活動に繋げている。編集長の岩元暁子さんに、新聞づくりの醍醐味と募集中の右腕についてお話を聞いた。【ピースボート災害ボランティアセンター・岩元暁子さん】

01

-月2回・7000部の新聞発行を継続することは、苦労の連続だと思うのですが、どんな心持ちで新聞をつくっているのか聞かせてください。

仮設きずな新聞を待ってくれている住民さんが、驚くほどいらっしゃるんです。私は、取材など他の業務もあるので毎日新聞を配れるわけじゃないけれど、配るたびに全部新聞を保管している、毎号隅から隅まで読んでいる、という住民さんに出会います。徹夜して書くこともあるなんて言えないけど、皆さんがちゃんと読んでくれているんだ、という事実にいつも勇気づけられています。

また、きずな新聞を読んで、住民さんに行動が起きているという手応えも持っています。たとえば震災から1年目の2012年3月11日、石巻市内各地で多くの追悼行事が行なわれました。しかし、事前にそれらの情報はどこにも集約されず、住民の皆さんがどこでどう過ごしていいのか戸惑い、不安に思っていらっしゃるように感じました。編集部内では、きずな新聞で震災特集をする必要はないのではという意見もありましたが、議論の末、追悼行事をまとめた別紙を特別に作成、通常の新聞に折り込んで、そうした情報が負担になると思われる住民さんにはお渡ししないように、配達ボランティアに委ねました。
そして3月11日当日、ある行事の場に取材で訪問していると、きずな新聞を手に参加している住民さんに出会ったんです。記事を読んで行動してくれる人が本当にいるんだ!と感動して、思わず話しかけてしまいました。

私は、メディアの使命って、世の中が変わることだと思うんです。たとえ5人や10人でも、新聞によって行動が起こった結果、新しい出会いや久しぶりの再会によって、その人の人生の起点になるかもしれない。そういうことをイメージしながら、新聞をつくっています。

02

-仮設きずな新聞をこれからも持続可能的に地域で継続していくために、地元の住民さんの中から記者ボランティア・配達ボランティアを募っていきたいとのこと、そのためにどんなことを始めているのですか。

まず、2015年2月から外部の講師を招いて5回の文章講座を開催する予定です。
住民さんの中には、震災の体験を文章で書き残したい、出会ったボランティアと手紙のやりとりをしたいというニーズを持つ方たちもいます。講座を通じて文章を書くことの楽しみを感じてもらい、もっと書きたいと思えれば記者ボランティアとして今後関わってくれるといいなと思っています。現在は、いくつかの市内団体と連携して編集部を結成、分担して毎号の記事を作成しています。

また、地元の住民さんが配達ボランティアとして参画してもらえる仕組みづくりも、少しずつ始めつつあります。震災後にいろんな支援をしてもらって落ち着いてきたので、そろそろ自分も恩返ししたい、何か地域に役に立てることをしたい、という気持ちを持っている住民の方は少なくありません。先日、何か手伝うことある?と声をかけてくださった住民さんが近所の方を誘って配達ボランティアに参加してくださり、「ずっと何かをしなきゃと思っていたので、こういう機会があって本当に嬉しい」、と伝えてくれました。本当は機会があれば社会のためになりたいというニーズは、住民さん一人ひとりの心にあるのかもしれない、と思っています。募集中の右腕には、そういう地元の方がボランティアとして携わるための体制づくりとコミュニティ化を推進してもらいたいです。また、個人だけでなく、若者支援や高齢者の居場所づくりを行っている市内の団体と連携して配達できる関係づくりを始めています。

-どんな右腕に参画してもらいたいですか?

スキルよりは、人と関わるセンスや態度を大切にしたいと思っています。たとえば、住民さんに寄り添う感覚と、一歩先を見る・行く感覚の両方をバランスよく持てる方がいいですね。今もなお、震災当日で時計が止まってしまっている住民さんも、少なからずいます。そうした方たちを甘えていると切り捨てず、それだけの経験をしたということに寄り添う感覚も持ちながら、住民さんご自身で何かしらのアクションを起こせるようになるには、私たちはどんな関わりをすべきかが一緒に考えられる人を募集しています。また、地元の方が関わりたいと思ってもらえるようなチームの雰囲気作りも一緒に取り組んでいきたいです。

03

-岩元さんは、住民さんに対して、どんな態度で関わっていますか。

私自身は、普段人の話を聴くのは、苦手なんです。でも仮設住宅の訪問や取材の時は、“聴くスイッチ”をパチンと入れています。その人の話したいことをたっぷりと話してもらう中で、私と相手の信頼関係が少しずつできあがってくると、ご近所同士では話せなかった悩み事や愚痴、困っていることがぽろぽろ出てくる。「やっと話せてすっきりした」、と言ってもらえることは意味があるのかなと思っています。また、純粋に震災時の体験や今、その方が考えていることを知りたい、という興味があります。同じ震災の中でも、一人ひとりは全く違う体験をしています。同じ時代に生きている者として、どんなことを体験して今何を考えているのかを記録し、次の世代に伝えることは私の使命だと思うんです。聴いてあげているというよりかは、お話を聴かせてもらって嬉しい、嬉しいというのも少しおこがましい気がするけれど、有り難い機会だと思っています。
お話を聴いて、無理に元気づけようとは、一切思いません。たくさんの住民さんと接する機会にこれまで恵まれたということはありますが、何かを言ってあげなきゃ、元気づけなきゃ、という焦りはない。自分の気持ちを楽にするための言葉を相手に伝えても、住民さんはハッピーにならないなと思っています。

-住民の方たちに寄り添いながら、自分としてどんな関わり方ができるかを問い続けている岩元さんならではの、潔いわきまえだな、と思います。ありがとうございました。

右腕に興味のある方は、ぜひ一度、仮設きずな新聞の配達ボランティアを体験してみてください。
仮設きずな新聞 配達ボランティア詳細ページ

聞き手・文:辰巳 真理子(ETIC.コーディネーター)

記事提供:みちのく仕事(NPO法人ETIC.)