「ウェブサイト制作 はじめの一歩」と題されたセミナーが、5月20日、気仙沼市唐桑町の「つなかん蔵」で開催された。
震災以降に唐桑町へ移住した若い人達を中心に10人が参加し、HTMLの初歩の構文や使用法を約1時間半にわたり学んだ。このセミナーの特徴は、講師だけでなく、ウェブデザイナーや、エンジニア、カメラマンも参加しており、セミナー後の懇親会で、さまざまなウェブ制作業界のプロの話が聞けることだ。
主催した気仙沼ワークス株式会社代表取締役の佐藤涼一氏は、「気仙沼で共に事業活動を続けていく上で必要な地元の人達のITリテラシー向上への貢献と自社のプロモーションのため、定期的に無料セミナーを開催しています。有料セミナーもおこなっていますが、この無料セミナーは自分たちが何者なのかを知ってもらい、理解者や仲間を増やすための投資だと考えているのです。」と話す。
気仙沼ワークスは、株式会社BOLBOP(本社:東京都新宿区)の関連会社として気仙沼の地に2014年7月に誕生した。
現在、気仙沼ワークスを含むBOLBOPグループは、首都圏での人材育成・コンサルティング事業や、被災地以外の地域における地域活性化事業を事業収益の基盤としている。
今後は、その事業収益のもと、収益化が難しいとされる被災地での事業展開を強化していく。その最初が気仙沼ワークスの設立であり、首都圏企業の合宿セミナーを中心とした事業で交流人口を拡大し、地元企業のコンサルティング事業や、情報発信のコンテンツ制作事業の拡大をはかるという。
この中心事業となる首都圏の企業のリーダー層向けの「被災地で震災復興に奮闘するリーダーたちの志に触れる」という合宿研修は、企業側にとっては震災後の被災地の現状を知る好機であり、受入先の気仙沼でも交流人口の拡大につながると好評だ。また、この事業による講師料や宿泊費、イベント実施費、お土産の購入なども、被災地の経済に貢献している。
気仙沼の地元事業者とのコラボレーション事業も生まれている。今回のセミナー会場となった民宿「つなかん」を営む牡蠣養殖会社「盛屋水産」の牡蠣の販路開拓を気仙沼ワークスとBOLBOPがサポートすることにより、雇用の創出にも貢献することができたという。
この他にも、「人のつながり」から生まれた気仙沼ワークスが関わるプロジェクトがある。NHKメディアテクノロジーが制作したドキュメンタリー映画「大津波 3.11 未来への記憶」のDVD化だ。販売を気仙沼ワークスが担当し、気仙沼から商品が発送されるという形式をとっている。
きっかけは、セミナー会場となった民宿「つなかん」での本作品の総合プロデューサー智片通博氏との出会い。作品を記録として残すだけではなく、被災地に還元できる方法を模索していた智片氏と、気仙沼ワークスの気仙沼での雇用を創出したいという両者の思いが合致し、作品のDVD販売と、気仙沼からの商品発送業務へとつながったという。
そしてもうひとつ、佐藤氏はこのDVD販売を「特別なもの」にするため、地元企業とのコラボレーションを企画した。DVDのパッケージ制作を、デニムメーカーとして世界的に有名な気仙沼のオイカワデニムに依頼したのである。パッケージの縁には震災後発見された「大漁旗」が使用され、ひとつとして同じデザインがないデニム素材のスペシャルパッケージとなっている。
気仙沼ワークスが介在することにより、地域人材の雇用や事業領域の拡大につながっている。
セミナー終了後には、懇親会がおこなわれた。時間がたつにつれ、仕事を終えた地元住民や、民宿に宿泊する人達が集まってくる。そして、そこには復興を担う人達のたくさんの笑顔があった。
佐藤氏は言う。「気仙沼ワークスは、人のつながりを大事にして、気仙沼の未来に貢献する人と事業を増やしていきたいんです」。BOLBOPグループである気仙沼ワークスの強みは、ウェブ、経営、人材育成など様々な分野のプロフェッショナルなビジネス人材との接点を創出できること。このつながりによって今後、どのような事業と人材が気仙沼に生まれるか、楽しみだ。
文/河田由規
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