震災以降立ち上がった東北の団体のリーダーの元に、若手経営人材「右腕」を3年間で約200人派遣してきた「右腕派遣プログラム」。東北で活躍する「右腕」とリーダーのインタビューを紹介します。
2011年3月21日から宮城県石巻市で子どもたちの居場所・遊び場づくりに取り組むNPO法人にじいろクレヨン。代表の柴田滋紀さんが、震災当日からの約1年について綴った著書「にじいろクレヨンが描いた軌跡」の文中に、“絵を描くというのは、そこに立ち止まり、じっくりと対面する時間を持つということだ。”という一節があります。画家であり、剣道の先生でもある柴田さんは、誰かや何かが目の前に現れた時、自ずから相手と対峙する態度で在るように思います。そんな柴田さんに、右腕募集に際してお話を伺いました。【NPO法人にじいろクレヨン・柴田滋紀さん】
ー2011年3月11日当日、柴田さんは、主催するお絵かき教室「ゴコッカン」の準備中に被災、消防団として数日救助活動をサポートなさった後、避難していた石巻高校の避難所の一画で、にじいろクレヨンの前身となる「石巻こども避難所クラブ」を始められたとのこと。その頃のことを教えて下さい。
最初の活動は、2011年3月21日でした。避難所の中でひっそりと我慢して過ごしている子どもたちを見て、自分に何かできることはなんだろう、と考えたのがきっかけです。感受性が豊かな彼らの苦しさや悲しみ、つらさを少しでも軽減できる居場所と遊び場をつくろうと動き始めました。避難所のリーダーと相談して時間を決め、同じ避難所にいた保育士の先生にも声がけして、手遊びや本の読み聞かせ、ダンス、紙飛行機などで遊んでいるうちに、だんだんと子どものほうから鬼ごっこがしたい、などと声がでてくるようになりました。
一週間後には、他の避難所でも活動を開始しました。同様の子どもたちは他にもいるだろうと思ったことと、当時私たちの他に子どもの支援に取り組んでいる人たちがいなかったからです。ボランティアセンター経由や東京の友人に頼んで作成したブログを見て、多い時には一日20人くらいのボランティアが参加してくださり、彼らを3チームに編成し、7ヶ所の避難所に派遣していました。にじいろクレヨンという名前で活動を始めたのは、4月上旬のことです。
ー任意グループの活動からNPO法人として組織化することは、いつ頃から考えていらっしゃったのですか?
3月21日に活動を始めた時点で、NPO法人化したいなと思っていました。そのほうが、たくさんの人たちに応援してもらえるだろうと思ったからです。私自身は、震災前の仕事も何もなくなり、何の縛りもなかったので、この活動はまず10年やるぞと決めていました。
自分以外の人を雇用し始めたのが、2011年9月頃からで、その頃に私自身もきちんとお給料をとるようにしました。寄附や助成金をいただいて活動できていることを有り難く思う一方、どこかで寄りかかっている感じが気持ち悪く、8月に、にじいろクレヨンの事業として、お絵かき教室(ゴコッカン事業)を再開しました。教室から自分のお給料をもらっているという形にすれば、自分なりに胸を張って生きられる感覚があったんです。
ーその後、活動場所を避難所から仮設住宅に移し、市内数カ所の仮設住宅の住民さんたちと関係を築きながら、子どもたちの居場所づくり事業(にじいろクレヨン活動事業。以下、にじいろ活動)を今まで継続してこられました。子どもたちと関わる中で、どんなことを大事にしているか聞かせて下さい。
大人が、子ども一人ひとりと向き合っているというのは、お絵かき教室でもにじいろ活動でも一緒ですが、にじいろ活動はどちらかというと、子どもたちの中にあいている穴を埋める取り組みです。安心・安全な場所で、のびのび遊ぶ経験がないと、子どもたちの情緒は安定しません。我慢せずに思いっきり遊ぶことを通じて、やりたいことをやっていいんだよ、あなたはあなたのままでいいんだよ、無理しなくていいんだよと、子どもたちのありのままを認める場をつくっています。
たとえば、学校内の子どもたちの間には、関係性のポジションがあったりします。でも、にじいろ活動では、そうしたことから解放される。もしかしたら、関わる大人にとってもそうかもしれません。見栄をはったり、かっこつけたりする必要ない場があることで、子どもたちは自分自身を出せる土台をつくっていきます。
お絵かき教室では、絵や造形物を通じて、その自分を表現します。上手下手ということではなくて、自分が感じたものをありのままに出していいんだよ、という環境づくりをしています。自分をさらけ出した個性的な作品ができると、子どもたちはどんどん自信がつき、心が豊かになっていく。上手に描けないから、私は描かないと言っていたような子どもが、だんだん教室の雰囲気を味わって自分を解放していくことで、自分を出していいんだと変化する循環があります。そうした子どもたちの様子を見ているのは気持ちがいいし、私自身もお絵かき教室が楽しくてしょうがないんです。準備は大変だけども、子どもたちのものすごい集中力から生まれる作品をそばで見られることに、本当に幸せを感じます。
ー現在のにじいろクレヨンは、何名体制で運営しているのですか?
2014年度は、6人のスタッフ(フルタイム4人、パート2人)です。私を含めた3人が現場の事業を担当、残りの3人が事務局を担当しています。既存事業に加えて、2015年4月以降には児童館と子育て支援センターとなる拠点を持つため、1月から4人増えて、右腕含めてあと数名さらに採用予定です。
ー新しいチームで大事にしていきたいと思っていることは何かありますか?
今までは、全部の事業に私が関与していましたが、今後はスタッフに各事業のリーダーを任せたいと思っています。にじいろクレヨンの理念やゴールについて、スタッフと共有を深め、一人ひとりが目指すゴールを達成するためにはどう行動すればよいか考えられるような組織にするのが今年の目標です。
ーこれからの展望と、現在募集している右腕について聞かせて下さい。
3年後には、石巻市内に点在している子ども支援団体と、関係する行政機関とのネットワークを構築したいと考えています。そのために2015年度は、旧石巻市(2005年に1市6町が広域合併)圏内でまず繋がりを持ち、3年かけて合併後の石巻市に拡大していく予定です。私たちが直接的に関わりを持つコミュニティ以外の場所では、私たちが培ってきたノウハウやスキルをその場所で活動する他団体に活用してもらい、社会に還元したいと思っています。
そうしたネットワークを築くうえで、まずはそれを支えるにじいろクレヨンの組織基盤をもっと強くしなければいけないという問題意識があります。事務局の仕事は、単に事務作業をするというよりは、組織の抱える課題を解決するための仕事をつくり、仕組み化することです。そこを私と一緒に取り組む人材に右腕として参画してほしいと思っています。個々の事業に関わるというよりは、各事業がうまくまわるように進捗管理などの仕組み化を手伝う、私と今後の戦略を考えるような本部機能の仕事です。たとえば、ある事業で人手が足りないときに、どういう人をどのように採用したらいいかということを、私と一緒に考えてもらいたいのです。
同時進行で、同じように子ども支援に取り組む他団体とのコミュニティ形成を目指します。私たちが活動の一つのモデルケースをつくり、必要としている場所にそれを拡めていきます。
にじいろクレヨンの理念は、「未来の社会を担う子どもたちの健全育成を通して心豊かな明るい社会づくりに貢献します。」というものです。この理念にどのように近づけるかを考えたときに、今の活動を他地域に拡めなければと思っています。これまでの活動を通して、子どもも大人も心が豊かになっていると感じているので、その輪を石巻市全体、いずれは社会全体に拡げられるように尽力します。
ーにじいろクレヨンの活動を続けることで、子どもも大人も心豊かになると確信を持つようになったきっかけや、これまでのご経験を聞かせてください。
第一に、自分が心豊かになった一人目だという自信があります。私は震災前から子どもたちに救われ、生きられています。子どものため、人のためにと思って動いてきたことによって、自分自身が心の豊かさをいただいている。もちろん、子どもたちも直接的支援を受けて寄り添われ、変化している部分がたくさんあります。震災後しばらく乱暴だった子どもが落ち着きはじめ、安定して子どもたち同士の関わりを持てるようになっています。そして、にじいろクレヨンに関わってきたスタッフやボランティア、手伝ってくださる仮設住宅の住民さんにも、子どもたちとの出会いによって、心豊かに変化している様子が見えます。子どものためを思って始めたにじいろクレヨンが、大人にとっても社会参画のきっかけになり始めています。
ーあらためて、にじいろクレヨンの「右腕」を検討している方へ、メッセージをお願いします。
私の右腕として経営者的な視点を持っていただきたいので、できればこれまでに何らかのプロジェクトでマネジメントを経験して、数名でもチームを率いたことがある方が心強いと思っています。高校や大学時代にそのような経験をなさった方でもOKです。また、これからご自身でNPOを立ち上げてみたいという方がいらっしゃれば、にじいろクレヨンでの経験は、そのためのステップになりえると思います。まだ形になりきっていない組織を一緒につくりあげられるプロセスは、またとないチャンスです。
また、心豊かな明るい社会づくりを目指しているので、絵や音楽など、豊かな心を育てるご自身なりの何かを持っている方を歓迎します。困難な状況でも明るく楽しんで一緒に仕事できるような仲間に出会えることを楽しみにしています。
ーありがとうございました。
聴き手から補足を少し。子ども関係のお仕事の経験は、必須ではないとのことでした。ただし、子どもたちの「やりたい」を待てずに、教えたがる人はNGとのこと。無条件に子どもたちの可能性を信じられる姿勢のことをおっしゃっているのだろうと聴きました。冒頭にもご紹介した柴田さんの著書の中から、再び引用してインタビューの前編を終えたいと思います。
“帰るべき居場所のある人間は、さまざまな困難と直面してもへこたれない。どうしてもつらくてイヤになってしまったとしても、逃げこむ場所を持っている。仮設住宅はあくまで仮の住まいでしかないが、僅かな期間であれ、そこにしっかりとした居場所が作られることは大きな意義を持つはずだ。それに、居場所というのは心のなかに築かれるものだ。子どもたちの心のなかににじいろの架け橋がかかり、どんな困難があっても立ち返れる場所になれば、きっと強く生きていける。”
聴き手・文:辰巳 真理子(ETIC.コーディネーター)
記事提供:みちのく仕事(NPO法人ETIC.)
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