6月14日、宮城県女川町に水産体験施設「あがいんステーション」がオープンした。津波で流された旧JR女川駅舎を再現した施設内では、地元名産品の購入や水産物の加工体験などが可能。3月の駅舎開通に引き続き、新しいまちづくりが始まっている女川の新しい拠点になると期待されている。
オープニング当日、女川フューチャーセンター「Camass(カマス)」にて、パネルディスカッションとトークセッションが開催された。第一部のパネルディスカッション「民間活力を活かした復興まちづくり」に続いて行われた第二部「女川町 次の一手!」トークセッションをレポートする。
まちづくり成功の秘訣は、『冷静な距離感』
女川は、復興だけでなく、地方創生の面からも注目されている。まちづくり成功の秘訣について各登壇者が話し合う中で、内閣府大臣政務官・復興大臣政務官の小泉新次郎氏が口にしたのは、「冷静な距離感」という言葉だった。
「民間がまちづくりに乗り出すと、なぜか悪者扱いされることがある。民間に任せて大丈夫か、お金が儲からないと思ったらすぐに引き上げてしまうのではないか、と。金儲けは決して悪いことではない。女川で感じたのは、『企業の皆さん、ぜひここで儲けてください』という『冷静な距離感』。商売人は商売になるところで商売をする、それで良いというスタンスが、民間企業の地方進出にとって大切ではないだろうか」。
また、「冷静な距離感」という言葉には、自治体や町が企業に対し、過度な思い入れを求めないという意味合いも含まれている。その土地への愛着や被災地支援といった感情さえあれば、まちづくりが成功するわけではない。小泉氏は「時に、地域貢献の押し付けが企業進出の邪魔をする」とも話した。
小泉氏の発言を受けて、トークセッションは、その地域で稼ぐ仕組み作りの話題に。全国各地で地域再生に携わる一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事の木下斉氏は、「こと地方に関して、駅前は町の中心地ではない」と指摘した。まちづくりはまず駅前からという発想をしがちだが、地方は車社会であるため、地域の人が必ずしも駅を利用するわけではない。「町で一番地代が高い場所は、一番稼ぐ場所でなくてはいけない」と、木下氏は持論を展開した。
「民にゆだねる覚悟はありますか?」商売人が稼げるエリアづくり
補助金に頼らないまちづくりの成功事例として注目を集める岩手県紫波町の「オガールプロジェクト」を展開するCRA合同会社代表社員の岡崎正信氏が、自身の経験から官民連携のあるべき姿について話を進めた。氏は、紫波町長から相談をうけた際、『民にゆだねる覚悟はありますか?』と聞いたと言う。「それなら、私も行政に頼らない覚悟を持つので、一緒に頑張りましょうと言いました」。
「国から交付金をもらって、町中の一等地に立派な公共施設を建てているのをよく見るが、人口が増加し続けている時代はそれでもよかった。けれど人口減少に歯止めがかからない現在、その地域の一等地は、一番お金を稼いで税金を納める場所でなくてはならない」と、岡崎氏は木下氏に賛同した。そこで暮らす人にとっては、運営が官なのか民なのかはあまり関係がない。「敷地に価値なし、エリアに価値あり」というキーワードを挙げ、人が集まるエリアで商売人が稼げるようにすることが町おこしにつながると続けた。
岡崎氏の発言に、「稼ぐのが民間なら、その環境を整えるのが行政。儲けたお金で企業が税金を納めることで、行政から自治体へのより良いサービス提供にもつながる」と、小泉氏も同意した。
多様性を持った「オール女川」を
「女川町が今こうして地方創生で成功しつつある陰には、地元の若い人達が自発に始めたことを、地域の人達や年配者が暖かく見守りサポートした事実を忘れてはいけない」と、小泉氏は口にした。モデレーターの一般社団法人RFC復興支援チーム代表理事の藤沢烈氏も、「よく『うちの町には良いリーダーがいない』と嘆く声が聞かれるが、面白いことをやろうとしている人はいるのに、つぶされてしまっているのが現実だと感じる。若い人が新しいことを始めようとしていたら、経験ある年長者たちはサポートに徹してほしい」と語った。
続いて木下氏は、何か新しいことをしようとする時に大切なのは、全員の合意をゴールにしないことだと指摘した。「たとえば10人の人間が半々で違うことをしたがっているなら、5:5のチームに分かれて動けばいい。それを無理に一つにしようとするから、いざ折衷案ができた時、誰もやりたがらない」。
女川町は「オール女川」の精神を大切にしているが、「『オール女川』は全員が同じことを考えているということではなく、多様な人が様々なことを考えながらも、志を共にして一緒にがんばっているという意味だと解釈している」と木下氏は語った。
まちづくり成功事例を作り出してきたパネラー達から厳しい指摘も続いたが、成功へのキーワードが連発し、会場からは大きな頷きがいくつも見られたトークセッションとなった。
文/宮澤泉
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