被災地を単に元の状態に復旧するのではなく、復興を契機に人口減少・高齢化・産業の空洞化などの課題を解決し、他地域のモデルとなることを目指す復興庁の「新しい東北」事業。その先導モデル事例をご紹介します。
テーマ:コミュニティづくり
地域:岩手県大槌町
取り組み主体:東京大学高齢社会総合研究機構
事業名:次世代型コミュニティ・サポートセンターのプロトタイプの開発
背景:
高齢者のQOLを上げるコミュニティモデルが無い
高齢化が進み単身高齢者の孤立や地域のつながりの弱まりなどが課題になる中、高齢者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上が大きなテーマになっている。人が集える集会所やカフェといった交流空間の有効性は確認されている一方、さらにその先にある地域コミュニティの共助による生活支援等も含めた「コミュニティサポート」については、汎用性のあるモデルが確立されていない。
取り組みのポイント:
●交流・学び・実践をワンストップで提供
●互助・共助活動にリソースを割り当てる
●コミュニティ活動は形の見えるアウトプットを
地域住民が主体的に社会活動に取り組むとともに、高齢者の社会参加が促進される。そんな地域社会の実現へ向けた地域全体としての「コミュニティ・サポート」の仕組みを、汎用的なモデルとして確立するための取り組みが岩手県大槌町で行われている。
新しい地域コミュニティ拠点をつくる
「医・食・住。この 3つの要素が、これからの高齢社会のキーワードです」。そう話すのは、この取り組みを進める東京大学高齢社会総合研究機構の後藤純工学博士だ。安心安全の住環境をベースとしながら、適切な医療や介護の環境、そして食卓を囲む団らんの場などを始めとした社会参加環境。これらの環境を住民が納得する形で適切につくっていくことが、高齢者が生き生きと暮らせる地域社会の基盤となると言う。
そのために必要な地域の仕組みとして岩手県大槌町でモデル化が進められているのが、「コミュニティ・サポートセンター」だ。多目的集会所のような施設の整備に加え、自治組織の立ち上げ・運営支援やコミュニティビジネスといったソフト面での施策がトータルに運営される地域コミュニティの拠点。「従来の福祉は、働けない人の生活を働いている人が支えるという考えでしたが、限界を迎えようとしています。地域において社会事業や健康ケアの役割を担うコミュニティ・サポートセンターは、高齢者が支えられるだけの存在から地域と財産へと変わっていくための、新しく、そしてポジティブな福祉制度にもなりうるでしょう」後藤さんはその狙いを話す。
互助・共助を仕組みで取り戻す
では、具体的にコミュニティ・サポートセンターはどのように機能するのか。 2013年に始まったこの取り組みにおいては、町内自治組織の立ち上げ支援が行われるとともに、東京大学を中心に町や地元の NPO等の団体により構成される運営協議会が設置された。そこで約半年間のワークショップ等を通じて取りまとめられた機能は、次の 4つとなる。
1つ目は「住民が気軽に集まれる場」。2つ目は、体操教室や生活支援講座など、生活の質を向上させるための「知識習得の場」。続いて、高齢者自身による「活動の実践の場」。最後に「コミュニティ活動の立ち上げ支援・コーディネートの場」と続く。気軽に集まれるだけでなく、学びや健康、社交につながる様々なコンテンツが提供され、さらに自ら何か活動を行う際の支援もしてくれる、そんな暖かくも頼れる地域の新しい場所が、コミュニティ・サポートセンターだ。
コミュニティ・サポートセンターの意義について、後藤さんは「地域の互助と共助を、人工的に取り戻すこと」と説明する。地域づくりや高齢者ケアの構成要素としては、自助(自らが自らを支える)・互助(ボランティアや近隣の助け合いなど住民主体の相互扶助)・共助(介護保険など制度化された相互扶助)・公助(行政による支援)の4つに整理されることが多い。互助・共助については、公共性の観点から直接的な行政支援が難しい側面があったが、活用されていないだけで、使える予算が無い訳では無い。コミュニティ・サポートセンターという仕組みを会することで、互助と共助の活動が促進されていく。高齢化が進行する中で、公助の負担を減らす為にもそうした仕組みが必要なのだと、後藤さんは強調する。
プロセスに価値が生まれるコミュニティ活動
住民によるコミュニティ活動に対しての資金面、運営面における「出前型」と呼ばれる支援も行われている。2013年度には13、2014年度には10活動を対象に、物資支援や専門家派遣による運営支援が実施された。活動の内容は、地域交流会の開催、伝統芸能継承のための人形制作、地域資源マップの作成、観光客津波避難マップの作成、など様々だ。
重要なのは、形に見えるアウトプットをつくるプロセスの中で価値が生まれることだ。そう話すのは、大槌町に1年間常駐しながらこの取り組みを推進していきた、東京大学高齢社会総合研究機構の伊藤夏樹さんだ。「今までどんなことを考えて生きてきたのか。地域に対する思い。これからどうしたいのか。人形づくりの合間に淡々と交わされる会話の中に、大切なものが沢山ありました」。つくられた人形やマップにいくらの価値がある、と計ることは難しい。しかし活動を通じて生まれる住民同士のつながり、そしてコミュニティへの再認識にこそ価値があるのだと言う。
コミュニティ・サポートセンター拠点は2015年3月に開設予定。町の復興計画においても重点プロジェクトの中に正式に位置づけられている。各地域におけるコミュニティ活動の他にも、拠点をベースに高齢者などが自ら主催者・講師となって勉強会等を行う「教室型」と呼ばれるプログラム開発にも取り組んでいる。来年度以降は、これらの取り組みをノウハウとして確立させるとともに、持続的な運営へ向けた体制や制度を行政とも連携しながら構築していく。さらに平成28年度には、交流活動から高齢者主体のコミュニティビジネスの実践へと取り組みの範囲を拡大していく予定だ。
記事提供:復興庁「新しい東北」
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