石ノ森萬画館
宮城県石巻市に立地する宮城県出身の漫画家・石ノ森章太郎の記念館、「石ノ森萬画館」。
漫画館ではなく、「萬画館」と称するのは、石ノ森氏の提唱した「マンガ」の新たな呼称「萬画」(万人のための画)からきているそうです。
「マンガによる町おこし」のため、2001年7月に開館。初代館長は「ドカベン」「あぶさん」の作者である漫画家の水島新司氏。
東日本大震災の被害で1年8ヶ月の休館を経て、2012年11月17日に再オープンし、観光客だけでなく、地元のリピーターも足繁く通う石ノ森萬画の聖地です。
石ノ森ワールド満載の「石ノ森萬画館」
入口正面に、懐かしいロボコンのオブジェ。そして中に入ると接客する女性スタッフの衣装は、サイボーグ009の紅一点、003=フランソワーズ。そして外観は、宇宙船をイメージさせる独創的なフォルム。そんな石ノ森ワールド満載の「石ノ森萬画館」を訪れました。
生まれも育ちも石巻というスタッフの本郷由華さんが、震災当時の様子を話してくださいました。
津波の直撃を受けた萬画館
「地震発生時は、10名ほどのスタッフと数名のお客さまが施設の中にいました。ひどい揺れがおさまってから、すぐにお客さまを避難誘導しました。」
立地的に津波が来ると考えられたので、本郷さん達スタッフも、すぐに萬画館から離れて避難をしました。
当時の防火管理者の課長は、建物の状態確認のため、ひとりで施設に残り、ひびなどの破損状況を調べていました。ちょっと一息ついたところへ轟音とともに黒い波がどーっと押し寄せます。それは地震発生から、およそ一時間後のことでした。
「石巻はチリ津波地震の時は、北上川の底が見えるくらい水が引いたと聞いていました。でも3.11の震災時はそんなに水がひいてなかったので、すごい波がくるとは思っていなかったみたいです。」
しかし、またたくまに轟音とともに津波が襲ってきて、2分足らずで6~7メートルくらいある1階の天井付近まで一気に水が押し寄せます。
課長は急いで上の階へ逃げたため難を逃れますが、萬画館は中州に建てられていたため、孤立してしまいました。
しかし、彼がそこにいたおかげで、のちに、ここでおよそ40名と犬1匹の命を救うことにつながります。
ふたつの奇跡
このエリアでは、実はふたつの奇跡が起きていました。
一点目は、「石ノ森萬画館」は大きな津波を直接受けたにも関わらず、建物が残ったこと。
それは、宇宙船をイメージした独特な流線型の建物のデザインが大きく影響しているといわれています。
直線的な面であったら、おそらく津波の衝撃をまともに受け流されていたでしょうが、その流線型の建物デザインが津波からの衝撃を分散したため、「石ノ森萬画館」は一部分の展示物の流出はあったものの建物は残りました。そのおかげで、最初の津波がひいたあと付近に残された人々は、「石ノ森萬画館」に避難することができたのです。
二点目は、「石ノ森萬画館」の近くに橋があったということ。津波の引き波で住宅の屋根や車に乗って流されてきた人が橋でせき止められました。「先に避難された方々と協力しあい、流れてくる方々を一晩中かけて救出しました。のちに40人と犬一匹、五日間ほど孤立することにはなりましたが、ここに避難することができました」と本郷さんは当時を振り返ります。
再開の意味と復興のはじまり
「石ノ森萬画館」は、震災から1年8ヶ月後の2012年11月に再オープンをします。
また津波がくるかもしれないこのエリアで再開した意味と、再開までの様子を本郷さんは、話してくれました。
「この土地にはいろいろなストーリーや歴史があって、多くの命を守ったこの宇宙船は、やはりここにあった方が良いなと思いました。」
「震災後に、スタッフは全員解雇になりました。でも萬画館が心配なので、それぞれができることをやろうと、泥かきや、あと片付けをしました。」
「館内は貴重な原画が当時約9万枚ありました。2Fの展示室は、津波が来る事もある程度想定した上での高さとなっており、石ノ森先生の原画はそこに保存していました。そういった貴重なものがあるので、館内は我々スタッフの手で泥かきをして、外は全国のボランティアの皆様にも手伝って頂き、一ヶ月くらいでなんとか見られる形になったんです。」
マンガッタン祭りの復活
ちょうど、片付けが一段落つき、先が見えたころ、
「マンガッタン祭りを、またはじめよう」とと誰からともなく声があがりました。
もちろん不安もありました。「全国的にもお祭りって自粛していましたよね?やってもいいのかなあ、こんな時期に。 でも、被災地のここでやることに意味があるんだって、みんながいい始めたんです。」
ご当地ヒーローとして地元で有名な「シージェッター海斗」ショーや、子供達へのおもちゃのプレゼント、炊き出しなど、地域内外からのボランティアの方々の協力を得て準備をすすめました。
そしてイベント当日。みんなが来てくれるのか、直前まで不安でしたが、ふたを開けてみれば、予想以上の来場者の数。
「やってみたら、6000人の方が来たんですよ!やっぱりそのときの子供たちの笑顔が忘れられないというか・・・。やはりここが子供たちの笑顔を作る場所なんだろう」と改めて気づきました。「大人は子どもの笑顔を見ると元気になるし、生きる勇気をもらえる。笑顔が必要なのだと、そのときに確信しました。その日から再オープンに向けての決意が強くなったんです。」
萬画館の再オープン
このようにして、2012年の11月。石巻の文化施設では一番早い再オープンを果たします。
しかし、そのときもやはり不安が大きかったと本郷さんはいいます。
「石巻市内は被災状況が広範囲にわたってひどく、被害を受けた方も多いです。行政でも他に手をかけるべき所があるなか、一文化施設がオープンしていいのかな?っていう葛藤がありました。」
しかし、再オープンに詰めかけた来場者は、なんと4000人!
「萬画館は館内に700人くらいしか入れないので入館制限をして並んでいただきました。途中雨が降ってきましたが、みんな濡れながらも並んでくださっていたんです。館内に入られる方が、おめでとー!待っていたよ!と声をかけてくださって。そのときは本当に、再オープンしてよかったなと思いました。また皆さんの笑顔がここで見られると思うとうれしくて・・・。」
子供から大人まで楽しめる萬画館
「石ノ森萬画館」の館内には、さまざまな展示物があります。
仮面ライダーがいてツーショット写真が撮れるようになっているベンチ。サイボーグ009の等身大オブジェがあるコーナーや、1号ライダーからのマスクがずらりと並ぶ仮面ライダーコーナー。
また、仮面ライダーや平成ライダーに変身できるCGコーナーや、とても完成度の高いシージェッター海斗のミニシアターなど、子供から大人まで幅広い年齢の方が楽しめるようになっています。特に70年代に少年期を過ごした方であれば、懐かしいヒーロー達にテンションがあがること間違いなしの場所です。
石巻の魅力をマンガで発信
石ノ森萬画館は、仮設住宅が公園に建ってしまったため遊ぶところがなくなった子供達に使ってもらえる無料ゾーンを備えており、今や、観光客だけではない、地元の方のリピーターも多い施設となっています。
また、震災後にたちあげた震災復興マガジン「マンガッタン」も3ヶ月に1号の割合で発刊しています。
石巻の現状や今を漫画で発信しているマガジンで、漫画家が石巻で取材したおいしいお店を紹介する等、石巻をマンガで知る情報誌となっています。
ぜひ一度、震災復興マガジン「マンガッタン」を片手に石ノ森萬画館や石巻の街を散策してみてください。
石ノ森萬画館
住所:宮城県石巻市中瀬2-7
電話:0225-96-5055
URL:http://www.man-bow.com/manga/
記事提供:NTTdocomo「笑顔の架け橋Rainbowプロジェクト」
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