今治と女川の挑む「スポーツを通じた地方創生」

岡田武史氏、人を呼ぶための差別化ブランディングを提唱

9月5日、元サッカー日本代表監督でFC今治オーナーの岡田武史氏が宮城県女川町を訪れた。理事を務める一般社団法人グリーフケアパートナーの主催で、地元のアマチュアサッカーチーム、コバルトーレ女川の近江弘一氏との対談と、サッカー教室を開催した。

FC今治オーナーの岡田武史氏(左)とコバルトーレ女川GM兼社長の近江弘一氏

FC今治オーナーの岡田武史氏(左)とコバルトーレ女川GM兼社長の近江弘一氏

岡田氏は現在、愛媛県今治市に本拠を置くFC今治のオーナとして、サッカー、スポーツを通じた地方創生に取り組んでいる。「岡田メソッド」と呼ぶ、育成年代からトップチームまで一貫した「型」を重視するチームづくりの考え方を軸に世界で勝てるサッカーを目指すと同時に、今治のまちの活性化にも心を砕く。
FC今治と同じくJ1(Jリーグ1部)から数えて5部に当たる地域リーグに所属するコバルトーレ女川も、「女川スポーツコミュニティー構想」を掲げてサッカー、スポーツによる町の活性化を目指しており、今回、両チームを率いるトップ同士の対談が実現した。

両氏が今治と女川で取り組む、サッカー、スポーツを通じた地域づくり ※クリックで拡大

両氏が今治と女川で取り組む、サッカー、スポーツを通じた地域づくり ※クリックで拡大

対談の中で岡田氏は、「今治も女川も、東京、大阪、福岡などに比べたら小さなまちで、そこに『行ってみたい』と思わせる仕組みが必要。それは、考え方次第で実現することができる。例えばシリコンバレーは元々何もないところだが、ITによって『起業するならシリコンバレー』となった。僕は教育において体験学習が一番大切だと思っているが、女川には素晴らしい海、自然、そして水産業があり、体験という差別化ができる。広くあまねく来てもらうのではなく、興味をもつ人が全国から集まってくるブランディングをすることが得策ではないか」と持論を展開した。
岡田氏自身がFC今治において、「外から人と金が入ってくるビジネスモデルの構築」を掲げ、スタジアムを中心とした「スポーツ健康」のまちづくりを構想している。8年後に1万5千人規模の複合型スタジアムを建て、トレーニングジムやスポーツデータ分析のできる施設、ホテルを併設し、トップアスリートがトレーニングや治療を行うとともに、一般の人が健康管理に利用する拠点にし、人が集まる仕組みを作りたいという。
近江氏は「女川は、スポーツや体験学習でもてなすには、ちょうどいいサイズのまち。町全体が事業性を持って取り組めたら、交流人口を増やすことができる」と意欲を見せた。

教育において体験が最も重要だという岡田氏は、今回のイベントに合わせて、首都圏で活動するCP(脳性まひ)サッカーチームの選手14名を女川へ招待。対談の終了後に地元の小学生を交え「年齢や障がいの有無を越えて交流する機会を」とサッカー教室を行い、翌日は女川の海や水産業に触れる機会を設けた。

岡田氏は数年先に目指す今治の姿をこう表現する。「FC今治が強くなり、チームに入りたいという選手が外部から来る。勉強したいという指導者がアジアからも来る。そういう人が地元にホームステイし、おじいちゃんおばあちゃんが料理や英会話を勉強しはじめる。気がついたら妙に外国人が多くなっていて、まちの人が生き生きしている」。

「広くあまねく」ではなく、一点突破のブランディング。アートの世界では「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」などの先行事例があり、スポーツの分野でも成功事例が現れることが期待される。
日本代表監督として世界を舞台に戦った岡田氏が提起する小さな町に人と金を呼ぶ仕組みは、東北の地域づくりにもヒントを与えてくれるだろう。