震災以降立ち上がった東北の団体のリーダーの元に、若手経営人材「右腕」を3年間で約200人派遣してきた「右腕派遣プログラム」。東北で活躍する「右腕」とリーダーのインタビューを紹介します。
株式会社プラットフォーム閖上(宮城県名取市) 右腕:鈴谷彰堂さん
津波で全ての都市機能を失った宮城県名取市閖上地区で毎週開かれている「ゆりあげ港朝市」。地域雇用の創出と新たな街づくりを目指し活動されています。現在こちらで地域の方々をサポートされている鈴谷彰堂さんにお話を伺ってきました。
― こちらで働く前は何をされていましたか?
震災後はまず南三陸町に入り、約一年半の間ボランティアとして活動していました。被災状況や復興していく様子を映像に収めて発信したり、ボランティア募集のCMをつくったりしていたので、その経験を生かし、東京で映像関係の仕事に就きました。企画を立てていくなかで「震災の話は古い。視聴者は求めてない。」と言われることもありました。本当にそうなのだろうかとフラストレーションがたまり、やはり東北で働きたいと考えるようになりました。次はボランティアとしてではなく、仕事がしたいと探していたときに、知人の紹介でここに来ました。最初はボランティアとして働いていましたが、前任の右腕の方が帰られるということで、僕が次の右腕としてプロジェクトに参加することになりました。昨年の九月末から右腕になり、半年以上が経過しました。
― 震災前はどちらにいらしたのでしょうか?
長崎県の居酒屋でアルバイトをしていました。スタディツアーや植林活動などで海外に行ったりもしていて、震災があった時はちょうどニューヨークから帰国したところでした。家に帰ってから一週間くらいは何が起こったのか分からず、ある時テレビを見ていたら、たまたま震災関連の番組が流れ、初めて事の重大さを知りました。当時、長崎では大変そうな空気も無く、正直実感が湧きませんでした。そんな中、知人からとにかく現地に来てみないかと誘われ、仕事を辞めて南三陸町に向かいました。
― 実際に現地に入ってみてどうでしたか?
僕は震災前の街並みを知らないので、何が起こったのかよく分かりませんでした。自分たちの常識を覆すような風景が広がっていて、元々あまり建物がなかった地域なのかとさえ思いました。はじめは現状を見るだけのつもりで現地に入りましたが、僕たちの想像を遥かに超えた状況の中、それに耐えながら地元に残っている方々に出会ったことで、この人たちの役に立ちたいと思うようになりました。
― こちらの施設にはどういったお店が入っているのでしょうか?
平日も営業しているメイプル館という建物には、物産の販売コーナーや喫茶店などが入っています。朝市が行われる方の建物には、鮮魚や野菜、お菓子、パンなどを販売するお店の他、中華、和食、洋食などの飲食店も入っています。50店舗中約15店舗がもともと閖上にあったお店で、それ以外は宮城県内や東北各地から集まったお店です。
― 朝市が開かれている時間を教えてください。
毎週日曜、祝日の朝六時から午後一時までになります。 平均して一万人前後のお客様に来て頂いており、昔から朝市にいらしているお客様だけでなく、震災後に朝市の存在を知り、よく来てくださるようになったお客様もいます。県外からのお客様もかなり多いですね。
― 現在どのような仕事を担当されているのでしょうか?
事務全般ですね。Facebookやホームページの更新、雑誌への掲載文やイベントのポスター作成などの広報業務もしますし、プレゼンテーション用に映像編集をすることもあります。あとはこちらの施設管理や、毎週実施する朝市においては場内清掃や消耗品補充、イベントの企画から当日準備まで幅広く行っています。これまでやったことが無い仕事ばかりで最初は馴染めず、不安に思うこともありましたが今はなんとか頑張っています。
―「右腕」というのは、どんな存在だと想像されていましたか?
最初はリーダーの秘書のような役割なのかと思っていました。でも実際には一から十まで全てをこなさなければならない仕事だと思います。僕の場合に限って言えば、前任者の姿を見ていたのでその辺りの想定はできていました。他の団体に派遣されている右腕の方からも事前に話を聞いていて、大変そうだけど楽しそうだし、やりがいがある仕事だなと思っていました。
― 右腕として働く中で、自分にとって勉強になったことを教えてください。
社会人経験が全く無いままやってきた自分にとって、ここで働くことの全てが勉強になりました。その中でも、ここまで朝市を復興させてきたリーダーの考え方から学ぶことがとても多かったです。自分たち本位の考え方で物事を判断せず、何事においてもなぜできないのか、どうずればできるのかを追求し、もっと楽しくするには、もっと喜ばれるためには、ということを常に考えて行動する姿勢を間近で見させて頂けたことが何よりも勉強になったと思っています。
― ここに来て良かったなと思ったことはなんでしょう?
一番良かったと思ったことは、自分の甘さが目に見えて分かったということです。ボランティアとして活動していた頃はたくさんの方々にお世話になって、他人にも甘えていたし、自分にも甘えていた気がします。今まで自立できていなかったので、しっかりしなければと思うようになりました。あとは、ここで働いている方々から色んな話を聞かせて頂いて、それぞれの想いがあってこの朝市が成り立っているのだと感じ、一人ひとりの存在の大きさに感動しました。
― 最後にこれから右腕に応募しようと考えている方にメッセージをお願いします。
東北になんの繋がりも無いまま来る方も多いと思います。僕も友達すらいない状況の中で、全てをひとりで抱え込んでいました。でも、思い切って悩みを相談してみると、色んな人が味方になってくれました。自分のリーダーだけでなく、普段一緒に働いている人たちに相談してみるのもいいと思います。僕の場合は、悩みを相談したことでみなさんとの関係が深まった気がします。ひとりだと思って抱え込み過ぎないようにしないとパンクしてしまいますし、担当のコーディネーターさんと密に話すことで的確なアドバイスを貰うこともできると思います。
どうしようか悩んでいても、取り敢えず現場に行ってみないと分からないです。考えたら不安も出てくるけれど、必ず楽しいことはあるはずです。それを見つけられるかは自分次第だと思いますので、ぜひチャレンジしてみてください。
十代の頃から被災地に入り、戸惑いながらも自分なりに活動を続けてこられた鈴谷さん。東北で過ごす時間も残り僅か。これまでの反省を生かしながら、後悔の無いように力を尽くしたいと話してくださいました。朝市の翌日でお疲れのところ有難うございました。
聞き手・文:中村真菜美(本稿は一般社団法人APバンク様より寄稿頂きました)
記事提供:みちのく仕事(NPO法人ETIC.)
Tweet