社内では経験できない環境での学びと成長機会を作る

「WORK FOR 東北」は、被災地の自治体等への民間企業による社員派遣、個人による就業を支援し、人材の面から復興を後押しするプロジェクトです。
復興の現場に社員を派遣している企業、および、赴任した方々のインタビューを紹介します。

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宮城県女川町「あがいんステーション」オープンに伴い開催されたパネルディスカッションにて、パネリストとして、「WORK FOR 東北」を通じて社員を女川町の「復幸まちづくり株式会社」へ派遣しているTOTO株式会社の平野氏貞上席執行役員・人財本部長が登壇されました。ここでは社員派遣の事例としてパネルディスカッションの内容を掲載します。なお当日は平野氏の他、小泉進次郎内閣府大臣政務官・復興大臣政務官などが登壇し、熱いトークが繰り広げられました。

小泉進次郎復興大臣政務官・TOTO株式会社人財本部長らによるパネルディスカッション

左から、一般社団法人RCF復興支援チーム代表理事 藤沢烈氏・内閣府大臣政務官・復興大臣政務官 小泉進次郎氏・キリン株式会社執行役員 林田昌也氏・TOTO株式会社上席執行役員・人財本部長 平野氏貞氏・復幸まちづくり女川合同会社代表社員 阿部喜英氏

左から、一般社団法人RCF復興支援チーム代表理事 藤沢烈氏・内閣府大臣政務官・復興大臣政務官 小泉進次郎氏・キリン株式会社執行役員 林田昌也氏・TOTO株式会社上席執行役員・人財本部長 平野氏貞氏・復幸まちづくり女川合同会社代表社員 阿部喜英氏

2015年6月14日、宮城県女川町の駅前商業エリアに、水産業体験施設「あがいんステーション」がオープンした。
地元名産品の購入と水産物の加工体験が可能で、様々な形で女川の魅力を体感してもらうことにより、「小さくても常に人が滞留している空間」を目指すとともに、次世代の担い手である子供達に漁業の魅力を知ってもらうのがねらい。
町民達に親しみと懐かしさを感じてもらおうと、建物の外観は津波で流された旧JR女川駅舎を再現した。3月の駅舎開通に引き続き、新しいまちづくりが始まっている女川の、新しい拠点となりそうだ。

午前中には落成式と水産業体験デモンストレーション、午後は観覧自由のパネルディスカッションが行われた。

「外から入ってきた人間を受け入れる、女川の文化」

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今回オープンした「あがいんステーション」は、「キリン絆プロジェクト」の助成を受け、地元のまちづくり会社である「復幸まちづくり女川合同会社」の、新しいプロジェクトとして建設されたものだ。

「復幸まちづくり女川合同会社」は、町内で店や会社を営む若き経営者たちが業種を越え連携して設立した。これまで水産物のブランド化や、水産体験プログラムなどの企画運営をしてきたが、それぞれ本業を持つメンバーであったため、活動には限界があった。

そこで、日本財団「WORK FOR東北」(以下WFT)の紹介を受け、TOTO株式会社から女川町に派遣されたのが、松田豪氏である。松田氏は合同会社の専任の社員として、地元漁業者との交渉や、女川水産物のブランディング、PR活動などに尽力してきた。落成式後の水産物試食会では、自らも法被(はっぴ)を着て、スタッフとともにホタテを焼く姿が見られた。

「復幸まちづくり女川合同会社」を代表してパネルディスカッションに登壇した阿部氏は、「松田さんが加わることで、『あがいんステーション』プロジェクトは一気に推進・加速した」と語る。

小泉進次郎氏は、こうした外部の人間を受け入れる姿勢は、女川という町の良い特徴・文化ではないかと分析した。
「女川には数え切れないほど足を運んでいるが、若手に託し、外部の人間を受け入れるという文化を強く感じる。これは、頭では分かっていてもなかなかできないこと。民間企業を受け入れるというのも、決して当たり前にできることではない」と小泉氏は語った。

「同質の人間が集まっているだけでは、新しいものは生み出せない」

TOTO株式会社で人事部門を統括する平野氏は、自社員を派遣する理由の一つとして、「同質の人間が集まっているだけでは、新しいものは生み出せない」ということを挙げた。
もともとTOTOグループでは、「会社にも世の中と同じように多様な人材が在籍しているべき」というポリシーのもと、例えば障がい者雇用に関しては、特例子会社を作って積極的に推し進めている。

柔軟で創造的な人材が求められる現代社会において、社内だけでの育成には限界があると考える平野氏にとって、WFTの仕組みを活用した人材派遣は、願ってもないことだった。社内での検討に際しては、特に抵抗もなく、すんなり進んだという。
TOTOグループでは現在、女川を含めた三ヶ所の被災地に社員を派遣している。各自が会社からの募集に自ら手を挙げ、さらに応募者の中から選ばれた者たちだ。

被災地としては他所より有能な人材を迎えることで新しい化学反応を起こすことができ、派遣元の会社としては伸びしろのある人材を全く新しい地に投げ込むことで、さらなる成長を見込める。社内にいては絶対に経験できない環境で学び、成長できるまたとない機会になる。
「他流試合は糧になる」と、具体的で短期的な成果として目に見えるものではないが、社員が他所での経験を持ち帰ってくることが、会社としては人材育成への大きな投資となると強調した。

また、たとえ出向している社員と面識がなかったとしても、他の社員たちも被災地を身近に感じられるという効果もある。
TOTOグループでは、より気軽に、より継続して社員が被災地支援できるような取り組みの一環として、任意の募金額を給料から天引きするという募金システムを持っている。

震災から4年3ヶ月経った今、被災地から離れた土地で震災のことを想い続けることは難しいが、2014年度の募金額は2013年度を上回ったと言う。
平野氏いわく、「そこにはやはり、自分たちの仲間が被災地で働いていることによる心理的効果が働いているのではないでしょうか」。

東日本大震災を風化させない、他人事にしない社員教育の一つとしても、今回の社員派遣は大きな意味があったようだ。

記事提供:日本財団「WORK FOR 東北」