2015年9月19日に、釜石市が事務局と会長を務める「岩手県沿岸市町村復興期成同盟会」から、三陸沿岸地域における広域連携を目指す「共同声明」をリリースしました。同盟会は岩手県内の被災13市町村によって構成され、これまでも国や県などの関係機関との面的なコミュニケーションの場として機能してきました(注1)。共同声明の中では、厳しい人口減少に直面する三陸沿岸地域の中でヒト・モノ・カネの奪い合いに終始することなく、多様な分野で政策連携を進めていく必要性を率直に表現するとともに、3つの重点分野をモデルケース的に推進していく意思表明をしています。
重点分野の中には、今年7月にユネスコ世界遺産登録が決定した「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」に含まれる橋野鉄鉱山を生かした広域観光ルート開発や、2019年に開催されるラグビーワールドカップを見据えた連携など、釜石を基軸とする取組みが含まれています。
“言うは易し、行う事は難し”とも言われる、自治体間の政策連携に本腰を入れて取り組んでいくにあたり、議会や商工、漁業や医療など、実務レベルで機能分担を考えていく際に重要となる関係者には構想段階から議論に参画して頂くことを想定し、戦略の立案・実行を担う協議体の設立とともに、首長のコミットメントを明記しました。復興プロセスを通じて培ってきた多様な社会関係資本を生かし、三陸・釜石から広域連携の可能性を探求していきたいと思います。全文を記載しますのでぜひお読みください。
共 同 声 明
1.岩手県沿岸市町村復興期成同盟会の活動の意義
岩手県沿岸市町村復興期成同盟会(以下「同盟会」という。)は、東日本大震災津波において甚大な被害を受けた岩手県沿岸被災市町村の迅速な復旧及び一日も早い復興を図るため、被災13市町村が連携して、国、県をはじめとする関係機関(以下「国等」という。)への働きかけを行うことを目的として、平成23年4月に組織された。
これまで、各市町村における復旧・復興事業や被災者の生活再建に取り組む過程で直面した様々な課題を共有し、一丸となって働きかけを行うことにより、国等における復興施策の見直しや充実に大きな役割を果たしてきた。また、国等との協議における窓口的な役割を担うことを通じ、国等と被災地の実態を共有し、協働を図るための基礎的な枠組みとしても機能してきた。
東日本大震災津波から4年半が経過し、各市町村における復興事業の進捗に差はあるものの、今なお復興の途上にある被災地の現状に鑑みれば、同盟会の活動の意義及び果たすべき役割は引き続き極めて重要である。
2.人口動態及び社会経済環境の変化
岩手県三陸沿岸地域(以下「三陸沿岸地域」という。)においては、東日本大震災津波以降、2010年における総人口(約28万人)の1割に相当する約3万人が減少しており、厳しい人口減少に拍車がかかっている。こうした傾向は県全体を大きく上回るペースで続くことが見込まれており、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2040年までの30年間で、約4割に当たる12万人もの人口が減少することが想定されている。
人口構成においても、総人口が急速に縮小していくなか、高齢化の進展と若年世代の減少が加速度的に深刻さを増していく。同推計によれば、2040年には、総人口の約半数(45%)を高齢世代が占める一方、地域の経済活動を担う生産年齢人口(15歳以上65歳未満)は、2010年の約16万人から半減することが見込まれる。
三陸沿岸地域の将来を考えるに当たっては、こうした極めて厳しい人口動態を前提とする必要がある。
また、近い将来、三陸沿岸道路をはじめとする復興道路・復興支援道路の整備及び三陸鉄道によるJR山田線を含む鉄道路線の一元化により、地域の交通ネットワーク機能が飛躍的に向上し、主要都市間の移動時間が大幅に短縮することを通じ、物流や観光等の分野における地域経済への大きな波及効果が期待されることから、この機会を逃さず、三陸沿岸地域の振興につなげていくことが急務である。
他方、これらのインフラ整備に伴い、三陸沿岸地域は従来になかった機能的な「近接性」を備えることにより、中長期的に見れば、経済的な活動領域や日常生活圏域の捉え方にも大きな変化が訪れることが想定される。即ち、各自治体を単位に実施されてきた産業、観光、医療、防災その他様々な政策分野において、周辺自治体との協調・協働がなければ十分な政策効果を発揮し得ず、結果的に自治体間の「ヒト・モノ・カネ」の奪い合いに終始するおそれもある。
したがって、各自治体においては、人口動態はもとより、三陸沿岸地域の社会経済環境の変化を十分に踏まえ、より広域的な視座に立ち、将来の持続可能性に配慮した「協働による課題解決・地域振興」を図ることが従来にも増して求められる。
3.広域的な連携・課題解決の機運の高まり
会員市町村においては、東日本大震災津波以前から、三陸沿岸都市会議や三陸地方拠点都市地域推進協議会等を設置し、広域的な観点から、道路等の交通基盤、河川・港湾等の社会資本整備、防災対策の推進、地域医療体制の整備や広域観光の振興など三陸沿岸地域の振興に係る様々な取組みを進めてきた。
これらの取組みの過程で、会員市町村は、単独では解決できない広域的な課題に対し、市町村の区域を超えた広域的な連携を図りながら、一体となって地域振興に取り組むことの重要性への共通認識を深めてきた。また、こうして培われてきた、市町村間の「ゆるやかな繋がり」や、首長どうしの「顔の見える関係」が、東日本大震災津波後の同盟会での活動や、がれきの共同処理や支援物資の調達等における連携を大いに促すこととなった。
三陸沿岸地域全体を「広域圏域」と考え、協働による課題解決を目指す機運の高まりは、このように、決して一過性のものではなく、長い時間をかけて醸成されてきたものである。
東日本大震災津波の発災から4年半を経て、復興と地方創生の狭間にある今、同盟会においては、こうした機運を更に発展させ、深刻な人口動態や外的環境の変化に伴う困難に真摯に向き合い、持続可能な三陸沿岸地域を創るための協働の取組みを推進することに合意した。
4.当面の重点取組項目
当面は、次の項目について、県と連携を図りながら、重点的に取り組むこととする。
(1) 三陸ジオパークやみちのく潮風トレイル等の広域的な観光資源を活用するとともに、世界遺産に登録された「橋野鉄鉱山」、被災地の経験を学ぶ「防災教育」、三陸の豊かな「食」等の要素を組み合わせた広域観光ルートの造成及び合同観光プロモーションの実施等、広域観光の強化による交流人口の拡大に向けた取組み
(2) 三陸の豊かな「自然」や「食」等の国内外への発信等、三陸ブランドの推進に向けた取組み
(3)三陸沿岸道路、三陸鉄道、JR及び平成30年春に開設が予定されている宮古・室蘭間のフェリー航路等の交通インフラの有機的な利活用、「ラグビーワールドカップ2019」開催を見据えた取組み
なお、東日本大震災津波後、各市町村においては、復興支援員の活用や企業・NPO等との連携による諸課題への対応など、外部人材・資源を活用した取組みが顕著となっている。上記を含む諸課題の解決にあたっては、こうした経験を最大限に活かし、行政だけではなく、地域住民、企業やNPOといった多様な主体との連携・協働を図り、外部に開かれた枠組みの下で課題解決を進めていく必要がある。
5.中長期的に持続可能な三陸沿岸地域の形成に向けて
上記4に掲げる事項のほか、中長期的に持続可能な三陸沿岸地域の形成に向けて、協働による解決が必要な課題を議論するため、首長その他の関係者により定期的に情報交換等を行う協議体の設立を含めた検討を行い、本年度末を目途に成案を得る。
以上
平成27年9月19日
注1 釜石市(会長)、岩泉町(副会長)、陸前高田市、大船渡市、住田町、大槌町、山田町、宮古市、田野畑村、普代村、野田村、久慈市、洋野町の13市町村によって構成
文/石井 重成 釜石市総合政策課まち・ひと・しごと創生室長
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