被災地を単に元の状態に復旧するのではなく、復興を契機に人口減少・高齢化・産業の空洞化などの課題を解決し、他地域のモデルとなることを目指す復興庁の「新しい東北」事業。その先導モデル事例をご紹介します。
テーマ:安心・安全な地域づくり
地域:被災3県
取り組み主体:公益社団法人日本栄養士会
事業名:管理栄養士等による高齢者への栄養と食支援体制の構築事業
背景:
仮設住宅で高齢者の 独居や孤食が増えていた
被災地の仮設住宅では高齢者が一人で暮らす「独居」や、一人で食事をとる「孤食」が増えている。室内にひきこもり動かずにいると体力筋力が落ち「生活不活発病(廃用症 候群)」をひきおこすほか、糖尿病や高血圧を併発し、最終的には認知症や要介護状態にもつながってしまう。また仮設住宅生活が長引くと調理等への意欲が減退し、「孤食」では食事を作る楽しみもないことから、食事を作らない高齢者が増え、栄養バランスの悪い食事を続けている。
取り組みのポイント:
●保育所の公共利用
●弁当受け取り+会食イベントで高齢者に外出の機会を
●専門職が連携する「栄養ケア・ステーション」構想
被災地の仮設住宅では独居高齢者の生活不活発病が増えている。これを予防するために当プロジェクトが注目したのは保育所だ。高齢者が保育所に食事に来る「ほっこり食事プロジェクト」とは?
保育所にお弁当(食事)を取りに行く
公益社団法人日本栄養士会は東日本大震災の発災後2~3週間後から避難所や仮設住宅に管理栄養士の派遣を行い、健康や栄養面のサポートを行っていた。「孤食」によって起こる栄養不足を解消するためは、栄養バランスの良い弁当を作り、仮設の高齢者に宅配すればよい。しかしこれだけでは閉じこもりによる「生活不活発病(廃用症候群)」の問題が解決できない。そこで高齢者に外まで弁当をとりにきてもらう「ほっこり弁当プロジェクト」だ。
笑顔を生み出す高齢者と園児の会食
まず岩手、宮城、福島で運営検討会を行い行政からの紹介で岩手県九戸郡野田村の野田村保育所、宮城県仙台市のあっぷる保育園、福島県いわき市の小島保育園が候補にあがった。各保育園に挨拶視察に行ったところ、各園から「弁当をとりにきてくれた高齢者をそのまま帰すのではなく、園児と一緒に食事をしてもらってはどうか」と提案があった。そのため当初の弁当受け取りから路線変更し、園内で園児と高 齢者が一緒に食事するイベントを企画した。ここで「ほっこり弁当プロジェクト」から「ほっこり食事プロジェクト」に改称した。 対象とする仮設住宅は保育所から徒歩圏内を選出。野田村保育所は野田村仮設 住宅、小島保育園は楢葉町上荒川仮設住宅と作町災害公営住宅、あっぷる保育園は近くの仮設住宅を予定していたがすでに5世帯しか残っていなかったため、地域の老人会に声掛けをした。2014年10月15日、あっぷる保育園ではじめてのイベントが行われた。実際に仮設住宅を中心に声掛けを行い、13 名の高齢者が参加した。高齢者が園にやってくると園児らが歓声を上げて高齢者を迎え、ダンス等を披露後、皆が笑顔で芋煮を囲んだ。これを皮切りに月一回の頻度でイベント開催を予定している。高齢者を 保育園に呼ぶイベントは他地域にも例があるが、一緒に食事をするイベントは珍しい。今後、小島保育園では「餅つき」イベントが、野田村保育所では「みずき団子づくり」イベントが行われる。今は行われなくなった伝承行事を高齢者から園児に教えてもらうことで、高齢者に生きがいや役割を感じてもらう狙いだ。
管理栄養士、保健師も交えた総合的な見守りへ
現在は会食イベントが開始したばかりだが、今後は弁当受け取りを軸に、他の関係者も交えた地域ぐるみで健康管理にとりくむ「栄養ケア・ステーション」へと発展させる考えだ。今年度は復興庁の事業予算で事業を実施しているが、2015年からはワンコイン程度の費用の徴収を視野に入れる。2014年10月23日には第一回企画評価委員会が行われた。委員より「今後は保育所が公益性を求められる時代になる。当プロジェクトによって地域との交流も広がるのではないか」という期待の声が寄せられた。独居高齢者の問題は被災地にとどまらないため、会では全国展開を見据えて事業を拡大していく。イベントでは管理栄養士が栄養手帳等に高齢者の咀嚼能力や食事量を記入し、食事のアドバイスも行う予定だ。野田村保育所の「鮭の日」のイベントには行政から保健師が派遣されることが決まった。血圧や健康状態をチェックし問題があれば医療等につなぐ。このとりくみが目指す行政や地域医療と連携した「栄養 ケア・ステーション」は、今後地域生活支援の中核となっていくだろう。
記事提供:復興庁「新しい東北」
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