被災地を単に元の状態に復旧するのではなく、復興を契機に人口減少・高齢化・産業の空洞化などの課題を解決し、他地域のモデルとなることを目指す復興庁の「新しい東北」事業。その先導モデル事例をご紹介します。
テーマ:安心・安全な地域づくり
地域:宮城県気仙沼市
取り組み主体:変幻自在合同会社、株式会社NTTドコモ
事業名:ICTを活用した無人販売所のプロジェクト
背景:
車の運転ができない 高齢者が買い物弱者化
2010年の内閣府による「高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査」では全国の高齢者の17.1%が日常の買い物に不便を感じているという結果が出た。気仙沼市内の仮設住宅でも不便なところではバスが一日二本しかなく、運転をしなくなった高齢者が「交通弱者」となり、地元の小規模商店も減ったことで周囲に買い物をする場所がない「買い物弱者」となっている。
取り組みのポイント:
●ICT技術ときめ細やかな工夫で利便性・継続性を担保
●地元企業と連携し地元経済を回す仕組みに
●都市部や集合住宅にも応用可
交通インフラが不足する過疎地で高齢者が交通弱者・買い物弱者化している。そこで近所に買い物の場がない高齢者のための無人販売所を立ち上げたのが当プロジェクトだ。その鍵となるのはICT技術と、きめ細やかな仕組みの設計だ。
外部企業と地元企業がタッグを組んだ無人販売所
2014年10月。気仙沼市唐桑町石浜地区にある福祉の里住宅仮設住宅近くに、無人の日用品販売所がオープンした。中にあるのは、タブレット端末とバーコードリーダー、カードリーダーを利用したセルフレジ。簡単な操作で買い物ができ、調味料や市指定ゴミ袋などの日用品が購入できる無人販売所システムだ。高齢化が進む地域における、買い物環境を改善するための取り組みとして注目を集めている。このシステムを運営・開発するのは、変幻自在合同会社(運営会社)と株式会社NTTドコモ(タブレット端末のアプリ開発)。また商品は「株式会社角星」「株式会社郷古紙店」から仕入れ、補充の物流は「株式会社気仙沼観光タクシー」に委託し、地元企業とのタッグで仕組みをつくりあげた。地元業者に流通や卸を依頼するのには理由がある。震災後の気仙沼では個人商店が営業できなくなりまだ完全には復活していない状態だ。また新規出店する店舗は大手スーパーやコンビニが主で、年金生活者が多い高齢者には価格が高いことも問題だった。地元業者に参加してもらうことで、地元商店と消費者の近い関係を取り戻し、地元経済を回す取り組みにする狙いだ。
高齢者に親しみやすいインターフェイス 開発の工夫
こうした取り組みは、いかに高齢者を中心とする多くの住民の方々に使ってもらえるかで成否が分かれる。運営会社では仕組みの開発と並び、周辺住民への説明会に力を入れ、利用方法の説明や希望商品のヒアリングを重ねている。また、セルフレジのインターフェイスは高齢者でも操作しやすいよう銀行のATMに近づけた。セルフレジ横で購入できるプリペイドカードを購入した後は、(1)カードをリーダーに入れ、(2)バーコードリーダーで商品をスキャンし、(3)画面の購入ボタンを押すだけ。3ステップで 購入完了という簡単さを追求した結果、「意外に使いやすい」「わかりやすい」と好評だ。購入した商品はレジ横にある袋に購入者自ら袋詰めをする。なお、プリペイドカードも高齢者に馴染みのあるバスカードと同じものを利用し、残額が印字されることで安心感を与えている。
継続性へ向けたコストダウン 工夫の数々
こうして開始した無人販売所の取り組みだが、今後は事業としての継続性をどのように担保するのかが重要だ。現在まさに購入データが蓄積されており、天候等の他要素とかけあわせた分析を行いながらニーズをくみ取り、プロモーションなど今後の取り組みに活かしていく。コスト減のための工夫も見逃せない。大型量販店にある自動販売機は1000万程度かかるのに比べ、当セルフレジは数10万で導入でき低コストさも追求した。また買い物データ等 管理には無料オンラインサービスを使い、 商品も消費期限の長いものを選ぶなど、ランニングコストを下げる工夫をしている。ネットワーク回線も、タブレット端末の無線1回線のみでセルフレジの在庫管理、防犯カメラの作動や施錠までを管理できるように仕組みを構築している。
目指すは「公共×商店」 住民のためになる場所に
無線で管理するセルフレジセットは、持ち運ぶことでイベント会場や体育館でも使うことができる。また、地域コミュニティによる監視力の強い地域に限らず、セキュリティ面を強化すれば、独居高齢者の多い都市部でも応用可能だ。不便な場所にある被災地の集合住宅では、近隣に商店ができるまでの間、本システムを買い物の場として利用するようなニーズも見えて来ている。高齢化が進む中、買い物環境改善やシニアマーケット開拓へ向けたニーズは広がりを見せそうだ。また、地域で緊急災害が起こった場合に、無人販売所内の商品が緊急物資として使えるという減災の仕組みとしての活用も期待される。そのために、地元自治会と防災協定を結ぶような展開も視野に入れている。無人販売所は単なる商店に留まらず、「商店と公共施設の中間」という位置づけとして、今後さまざまな場面におけるソリューションになるかもしれない。記事提供:復興庁「新しい東北」
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