高校生パワーが爆発!カフェづくりから始まるキャリア教育

[新しい東北]

被災地を単に元の状態に復旧するのではなく、復興を契機に人口減少・高齢化・産業の空洞化などの課題を解決し、他地域のモデルとなることを目指す復興庁の「新しい東北」事業。その先導モデル事例をご紹介します。

テーマ:持続可能な産業・人材づくり
地域:宮城県石巻市
取り組み主体:NPO法人スマイルスタイル
事業名:高校生がつくるキャリア教育プロジェクト
背景:
高校生が地域を知り、愛着を感じる社会体験の場が少ない。
石巻市の高校生が進学や就職で市外に流出する割合はおよそ75%。背景の1つには高校生に必要な支援の不足がある。震災後のケアでは、小中学生への学習サポートはあっても、高校生向け、特に卒業後の進路に関する支援が少ない。2つめには、震災の影響で地元企業が縮小し、地元では働き口が見つからない。3つめに、そもそも高校生が地元の魅力に気づいていないこともあげられる。
ポイント:
●カフェという敷居の低い活動拠点を確保
●お仕着せではなく、高校生の自発的な好奇心を尊重
●町の大人たちと若い世代が出会うしくみを組み込む

石巻から広がる、職業観や創造力を育み、将来への展望を描くきっかけを提供する高 校生世代向けのキャリア教育プログラム。この取り組みは地域の将来を担う人材育 成に発展し、大人世代も巻き込み、町の活性化と復興に貢献し始めている。

高校生の声から生まれた「仕事みち図鑑」

プロジェクトの土台となっているのは、調理、接客、イベント企画など全て高校生が行うカフェ

プロジェクトの土台となっているのは、調理、接客 イベント企画など全て高校生が行うカフェ

復興まちづくりには次世代に向けた教育が欠かせない。なかでも支援の行き届きにくい高校生世代を対象にしたキャリア教育「 かぎかっこ PROJECT」が、石巻で成果を上げ始めている。プロジェクトの1つが、「世の中にどんな仕事があるのか生の声を聞きたい」という現役高校生の声から生まれた「仕事みち図鑑」だ。町で出会った大人たちに高校生がインタビューをし、仕事に関する話を引き出し、次にその人の仕事場を見せてもらう。その言葉や写真を1枚のカードに収め、参加者全員のカードをそろえ「仕事 みち図鑑」をつくるというもの。2013年度は全4回のワークショップを行い、市内の高校を中心に11校から延べ100名近い参加があった(成果発表会の視聴者含む)。出会った人の職業は、釣具販売店、水質調査員、たばこ店経営者などさまざま。地元の企業や産業に触れるなかで、高校生が自分なりの職業観、ひいては人生観を醸成し、さらには地元での就職率アップや雇用創出も見込めると期待できる。参加高校生に効果測定を行ったところ、「前に踏み出す力」「考える力」「チームで働く力」がともに向上。インタビューされた大 人たちからは、「若い人が地域を知ろうとしてくるのは希望になる」と評価する声も聞かれた。学校の授業でも取り組めるようカリキュラムブックを独自に作成し、宮城県内の高校などに配布した。2014年度は学校単位での取り組みが始まっている。

復興を担うアントレプレナーを育成する特訓合宿

「仕事みち図鑑(上)やKAERU CAMP(下)、いずれも高校生 のパワーには驚かされました」 とNPO法人スマイルスタイル の島田彩さん

03「仕事みち図鑑(上)やKAERU CAMP(下)、いずれも高校生 のパワーには驚かされました」 とNPO法人スマイルスタイル の島田彩さん

さらに「仕事みち図鑑」の発展版として、2014 年11月、女川町を舞台に2泊3日の「KAERU(カエル)CAMP」を開催した。高校生の復興まちづくりへの参画を促すため、実際の地域課題を解決する事業案を合宿中に考え、最終日に地域住民、企業、行政関係者の前で発表するという短期集中型のプロジェクトだ。スタッフによる事前ヒアリングでは、ホヤの販促、仮設住宅の絆づくり、地元の魅力を伝 えるツアー企画、女川駅周辺のプロムナード 活性化という4つの課題が抽出された。16 名の参加高校生は、課題ごとのチームに分 かれて事業案づくりに挑戦。最終日に発表さ れたアイデアはどれも高校生目線の新鮮さに あふれ、「自分たちのことを他地域の高校生 が真剣に考えてくれている」と仮設住宅の住
民が涙ぐむ場面もあった。事業化に向けて実 際に動き出したものもあり、高校生が社会を 変える牽引力になり得ることを印象づけた。

すべての活動はカフェ「 」から

こうしたプロジェクトの土台になっているのが、石巻市の高校生たちがゼロから立ち上げ、2012年11月にオープンした「いしのまきカフェ「 」(かぎかっこ)」だ。調理・接客、イベント企画などのカフェづくりを通して、学校やバイトとも違う社会経験を積む場になっていると同時に、地産地消にこだわり、地元企業・団体の協力を仰いで水産加工品を使ったカレーを開発するなど、地域との連携も重視している。これまでカフェに参加したのは12校からの61名。毎月開催している交流会には、全国から延べ300 名の高校生世代が参加した。カフェをきっかけに「仕事みち図鑑」に参加したり、大学生となったカフェの「卒業生」が「KAERU CAMP」ではサポート役を務めるなど、プロジェクト全体のインキュベーション機能を果たしている。参加高校生からも、「行動力が断然上がった」「町のこと、町の人がもっと好きになった」など、自身の成長を実感する声が寄せられている。「かぎかっこPROJECT」の運営を担うのは、大阪のNPO法人スマイルスタイルとCo.to.hana。いずれも震災前は石巻市と縁のない「よそ者」だ。地域の生産者・企業・行政などとの意見交換会を開いたり、プロジェクト概要を伝えるガイドブックを作成するなどの地道な努力を続けており、さらに東北以外の高校生団体などとも連携が始まっている。地域内外を超えた多様な関係者の連携の先に、石巻が「高校生世代のキャリア教育先進地」となる未来があるのだろう。

記事提供:復興庁「新しい東北」