2015年11月29日(日)、いわき市平にある「楢葉町サポートセンター空の家」で第3回ナラノワ祭が開かれ、人々は楢葉町の郷土料理「すいとん」の振る舞いのほか、ワークショップやマルシェなどを楽しんだ。
祭りの最後にカエルの衣装をまとった福島県スポーツ民謡連盟楢葉支部、またの名を「カエル舞踊団」が登場。「ケロケロケー」のかけ声と共に踊る、民謡「カエルのなげき節」のコミカルでリズミカルな動きに、踊り手と見学者に笑いがはじけた。閉会の挨拶で、企画団体であるナラノハの代表佐藤努さんが、イベントに関わった人たちを改めて紹介。一人一人を拍手でねぎらった。こうして集まった人たちが一つのチームになっていく。ナラノワ祭は、まさに楢葉町の人々の心の輪を作る催しだ。
高校卒業後、都内に上京した佐藤さんは、音楽を通して、生まれ育った楢葉町の良さを伝えながら人とのつながりを作る活動をしていた。震災後は楢葉町民の多くが住むいわき市と双葉郡の交流を図り、共にいわきを盛り上げたいという気持ちから、いわき市民を巻き込んだ500人規模のイベントや、福島第一原子力発電所から20キロ圏内を案内するツアーの開催、仮設住宅への慰問などをしていた。
2015年9月から楢葉町の帰還が始まることが決まり、佐藤さんは「新しい楢葉町をつくっていかなければならない」と考えた。つまり「震災前の楢葉町は、いったんなくなった」という前提で、新しいまちづくりをしていこうというものだ。「まちづくりをしよう」と前向きな気持ちになるためには、まず町民の意識をあげる必要があると佐藤さんは考える。大げさなことではない。みんなで一つのことに取り組む。しかも楽しみながら。そこから生まれる「何か」。それが「心の復興」につながるのではないかと。
そのために佐藤さんはナラノハを立ち上げた。「楢の葉脈の一本一本が葉っぱを作るように、一人一人が手を取り合って、楢葉町を活性化させ、心とからだの本当の復興をめざし、サポートするプロジェクト団体を作ろう」という趣旨の団体だ。2015年4月からスタートしたナラノハの活動は、楢葉町仮設住宅を拠点に人々のふれあいを目的とした「ナラノワ祭」を中心に、仮設住宅集会所などでの交流会や楢葉町の今を感じてもらう「スタディツアー」などを行っている。
ナラノワ祭では東京から薬膳料理研究家を招いて健康に役立つ料理を学んだり、ダンスの専門家から仮設住宅の中でもできる健康体操を教わったりしている。ただし講師も生徒も関係なく、楽しく取り組んでいるのが特徴だ。だから日常生活の中で身近で親しみやすい「料理」「体操」を取り入れて、誰もが参加しやすい内容にしている。気軽に参加できる雰囲気の中で、共につながりを持ち、次の一歩を踏み出すきっかけづくりになり、それが新しいまちづくりにつながればいいという願いからだ。「町民同士が一緒になってプロジェクトを楽しむことで、人々が何かを考える。それが行動することにつながっていくとぼくは考えます」と佐藤さんは語る。
将来的にはイベントで習う薬膳料理や、楢葉町の郷土料理すいとんなどから、新たなメニューが考案されたり、商品化されたりしたらうれしいと佐藤さんは思う。人々の交流の広がりから、新たな雇用が生まれたらいい。ナラノハ祭というイベントが、まちづくりの一つのきっかけ作りになればとナラノハのメンバーは願っている。
2015年9月5日現在、7,368人の楢葉町民のうち楢葉町の居住者は374人だ。帰還に向けた国や行政の方向性とは別に、実際に町に帰るまでに要する時間は、人それぞれだと思う。そこにいたるまでの「心の準備」をするために、ナラノハはあると佐藤さんは考える。
「まちづくり」というと、行政と民間がひざをつき合わせて議論しながら決める、なにか特別なことと思われがちだ。でも本来は住民一人一人の気持ちが、まちに向かないとできない。ナラノハの活動は、ナラノワ祭などの「楽しいこと」を、町民同士が一緒にやることで町の人たちの心と心をつなげていく。町民の心がつながれば、町を愛する気持ちが生まれる。町を愛する人たちのつながりによって、新しい楢葉町を作ろうとしているナラノハの活動。ゆっくりと、じっくり時間をかけて進めていく。
文/武田よしえ
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