6月17日、東京・浅草で開催された三陸の水産品をPR・販売するイベント『SANRIKUフィッシャーマンズ・フェス』。会場となった商業施設『まるごとにっぽん』は、期待と熱気に包まれていた。
「三陸の海産物の素晴らしさをしっかりとブランド化し、日本、そして世界へと伝えていく。まさに大きな挑戦、大きな一歩を、ここから踏み出すことになります」
開会あいさつで力強く宣言したのは、フェスを主催するフィッシャーマンズ・リーグのリーダー、下荢坪之典(したうつぼ・ゆきのり)さんだ。フィッシャーマンズ・リーグは、東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島の漁師や水産加工業の若手リーダーらが中心となり、地域を超えて三陸ブランドを世界にアピールしていくために結成したネットワーク。下荢坪さんをはじめ、約20人の“海の男たち”が名を連ねている。復興の名の下に、すでに数々の地域ブランド・プロジェクトが立ち上がっているが、彼らは『SANRIKU』をどのようにブランドとして育てていくのだろうか?
あえて牡蠣とわかめに絞った
フィッシャーマンズ・リーグが目指すのは、三陸の代表的な海の幸「牡蠣」と「わかめ」を、二大ブランド食材として世界に広めていくことだ。ウニや帆立、あわび、ホヤなど他にもすぐれた特産品はあるが、あえて品目は二つに絞った。苦渋の決断だったが、SANRIKUのブランド力を強化し、その大きな傘の下で三陸全体の水産品の認知度を高めていくためには、欠かせないプロセスだった。
出店者の一人で、陸前高田市米崎町でカキの養殖を行う佐々木学さんは、自身が手がける『雪解け牡蠣』の世界展開に自信をのぞかせる。
「今年2月、海外への販路拡大を目指して、香港の日系レストランで『三陸牡蠣』のテストマーケティングを実施しました。香港の牡蠣は通常アメリカやフランス、オーストラリア産が主流。でもテイスティングイベントの結果、日本の牡蠣は他国のものより『肉厚』『風味がよい』とおおむね高評価でした。まずは食に高いこだわりを持つ富裕層をターゲットに、三陸牡蠣のおいしさを周知していきたいですね」
一方、もう一つの主力商品となる「わかめ」については、まずはアメリカ西海岸への進出を見据えて販路を模索中だという。海外には日本のように海藻を食べる文化がほとんどなく、海外展開には食育を含めたアプローチが必須だ。そのため、まずは海外に暮らす日本人に向けた市場開拓で足がかりをつかみ、三陸わかめのブランド確立を目指したい構えだ。
浜を超え、地域を超えたブランドをつくる
震災から5年。東北各地で進められているさまざまな復興プロジェクトとフィッシャーマンズ・リーグの最大の違いは、「生産者が地域を超えて連携する広域のネットワークにある」と、事務局代表の高橋大就さんは言う。復興支援団体『東の食の会』事務局代表も兼務する高橋さんは、リーグ誕生のきっかけを作った人物でもある。
リーグの始まりは、2013年。『東の食の会』は、キリングループと日本財団による『復興応援キリン絆プロジェクト』水産業支援事業の助成を受け、三陸水産業の次世代リーダー育成を目指し、『フィッシャーマンズ・キャンプ』という研修事業を立ち上げた。このキャンプの参加者たちが、リーグの母体となっている。高橋さんは、感慨深げにこう続けた。
「三陸の漁業が壊滅的な被害を受けたあの日から5年。絶望的な状況から立ち上がり、SANRIKUブランドを世界に発信できる日が来るとは、当時は想像もできませんでした」
じつは震災前、三陸の漁師たちに横のつながりは皆無といっていい状態だった。複雑に入り組むリアス式海岸には無数の湾があり、その浜ごとに漁師たちが「最高の味」を求めてしのぎを削る、独特な海の男の世界があった。
「つまり、フィッシャーマンズ・リーグのコンセプトは、そんな浜の伝統的なルールとは相容れないものでした。でも、リーグのメンバーたちが目指すものは、自分の浜の利益じゃない。三陸すべての浜の未来、そして三陸の漁業を次世代へと紡いでいくことです。5年かかりましたが、今は私たちの思いに一定の理解を得られたと思っています。いずれにしても、すべてを失い、家業を立て直すだけでも大変だというときに、さまざまな困難を乗り越え、三陸の未来を信じて集まってくれた彼らを、私は心から尊敬しています」
リーグのメンバーたちは、長年三陸の海と向き合いながら、最高の海の幸を作るために努力してきた人々だ。みな自分たちの“作品”に揺るぎない自信とプライドを持っている。だからこそ、メンバーの誰もがSANRIKUブランドが世界一になれると信じて疑わない。
「美食の世界一の街として知られるスペインのサン・セバスチャンのように、短い時間でブランド化に成功したケースは少なくありません。今日を皮切りに、さらなるブランド認知のため、メンバー一丸となって多角的なプロモーションを仕掛けていきたいですね」
SANRIKUの挑戦は、始まったばかりだ。
文/庄司里紗
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