「提案できる林業」を目指して。 南三陸町が県内初のFSC森林認証を取得

main_image株式会社佐久(南三陸森林管理協議会)
南三陸町で代々森林経営・林業を営む佐久(さきゅう)。佐藤太一さんは12代目。「バイオマス産業都市構想」を掲げる南三陸町で、林業のあり方を見直し、さまざまな新しい取り組みを進めています。佐久が所属する南三陸森林管理協議会では、2015年に国際環境認証FSCを取得。持続可能な森林運営に力を入れています。

森を守る「FSC認証」製品とは?

ノートやトイレットペーパー、コーヒーショップの紙袋など、近年FSCマークの入った製品が普及しているのをご存知でしょうか。

FSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)は、森林認証を行う国際機関です。「環境保全に貢献している」「地域社会の利益につながっている」「経済的にも持続可能な生産が実現できている」森林を認証し、その森林から生産される木材や木材製品にFSCマークを付けて流通させています。

FSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)による認証状。認証取得後は、少なくとも年に1度、年次監査が行われる。

FSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)による認証状。認証取得後は、少なくとも年に1度、年次監査が行われる。

日本国内の認証林は33件(2016年3月時点)。2015年10月には、「南三陸森林管理協議会」が宮城県初のFSC森林認証を取得しました。なぜ県内初のFSC森林認証取得を目指したのか。取得したことでどんな展開が期待できるのか。認証取得の声かけ役を担った株式会社佐久の佐藤太一さんにお話を伺いました。

FSC森林取得を目指した背景には、大きく2つの理由があります。1つは、町の姿勢です。南三陸町では、震災後に「バイオマス産業都市構想」を掲げるなど、環境に配慮した循環型の町づくりを目指してきました。町の面積の7割以上が森林で占められており、この豊富な木質バイオマスをエネルギー利用する取り組みが続いています。

お話を聞いたのは、株式会社佐久 専務取締役の佐藤太一さん。

お話を聞いたのは、株式会社佐久 専務取締役の佐藤太一さん。

「せっかく木材が素晴らしい形で活用されたとしても、例えば木を切り出すときに環境に負荷がかかっていたら、持続可能とは言えませんよね。何より、『バイオマス産業都市を目指してます!』と言いながら実態が伴わなかったら、格好悪いじゃないですか。生産者側の品質を担保し、町の林業者がきちんと持続可能な森林運営をしていると証明するためにも、森林認証の取得は有効なのではと思いました」

「もう1つは、震災前から立ち上げていた『南三陸杉』のブランド力を強化するためです。南三陸の杉はもともと良質な木材として使われてきましたが、『南三陸杉』と銘打ってブランド化したのは2008年以降のこと。木材そのものの品質に加え、きちんと管理・運営していますよ、と発信していくことが認知度を高める上でも重要だと思いました」

「FSC森林認証の取得に挑戦しよう」という動きは、震災前からあったそうです。しかし、どれだけ効果があるのか見出せず、町の林業関係者はなかなか行動に移せませんでした。

「その意識を変えたのが、東日本大震災でした。最初は躊躇していた会社さんも、『今だから必要かもしれないね』と仲間に加わってくれて。うちの社長はたとえ佐久1社でも取得しようと言っていましたが、仲間は多い方がいいですからね」

結果、地元林業家の山や南三陸町有林、慶応義塾大学が所有する学校林など、計4者の所有林を集めて「南三陸森林管理協議会」はFSC森林認証の取得に乗り出しました。

感覚や経験、口伝で継承されてきた林業の根本を整理してマニュアルにする作業に取り組んだ佐藤さん。作業を進める中で、「南三陸の林業」スタイルが明確になりました。

感覚や経験、口伝で継承されてきた林業の根本を整理してマニュアルにする作業に取り組んだ佐藤さん。作業を進める中で、「南三陸の林業」スタイルが明確になりました。

伝統を明文化することで、林業の意思も明確に

大変だったのは、これまで口頭で伝えられてきた森林整備や伐採方法などのルールを明文化した資料にすることでした。

「林業って、職人の感覚や経験に頼ってきた部分が多いんですよ。明確なマニュアルがあるわけじゃなく、例えば間伐する木を選ぶ『選木』ひとつとっても、代々見よう見まねで教わってきたところがあって。資料のような形では残っていないんです」

ゼロからのマニュアル整備は大変でしたが、確かな技術やノウハウがあったからこそ、佐藤さんには「きちんと文章にまとめることができればFSC森林認証を取得できるだろう」という自信がありました。また、明文化したことで作業班の意識を統一するきっかけにもなったそう。例えば、新たに作成したマニュアルにはこんな1文があります。
<環境配慮として、まず伐採準備のための下刈り時に、可能な限り下草・広葉樹を残す。>
できるだけ下刈りをすることが林業では普通でしたが、生物多様性の観点から「下草や広葉樹も育てていこう」という自分たちの意思を言葉として残すことができました。

南三陸の林業の正しさを再確認し、誇りを持って発展させたい

FSC森林認証の取得を通して、佐藤さんは「南三陸の林業がいかにしっかりと行われてきたか知ることができた」と言います。選木の方法、間伐の密度……南三陸の山づくりは、昔からできるだけ自然に負荷をかけず、「山を育てよう」という考えに基づいていました。

台風や雪の影響など、杉の頭を押さえつける要因が少ないことから、南三陸杉は縦にすくすく伸びる。

台風や雪の影響など、杉の頭を押さえつける要因が少ないことから、南三陸杉は縦にすくすく伸びる。

地元の林業研究グループ、通称「山の会」の活動も追い風になりました。昭和54年に結成された「山の会」は、長年に渡り南三陸町内の森林調査や長伐期(ちょうばっき)施業(※)の調査レポートなどを進めており、こうしたデータがすでに残されていたことで取得申請がスムーズになったのです。

※長伐期施業:林木を伐採する時期(伐期)は一般的に40〜50年程度だが、それを約2倍の80〜100年に引きのばす方法。

「FSC認証を取得して良かったのは、南三陸に林業があるんだよ、と伝えるきっかけになっていることです。そして、作業班など一人ひとりに『見られている』という意識が芽生えたことですね。FSC認証を取得したからには活用しないといけません。『木材を使ってください』で終わりにせず、われわれの木材をどうやって使ってもらうのか、自発的に考えていきたいですね」

FSC取得をきっかけに、山を“宝の山”にする

「使ってください」のその先へ。佐藤さんが所属する南三陸森林管理協議会では、今年新たなプロジェクトチームを発足させました。来年9月に完成予定の南三陸町の新しい役場庁舎に地元のFSC材を供給するプロジェクトで、公共施設では国内初となる「FSCプロジェクト全体認証」の取得を目指しています。認証を受けるには、FSC材が建材の5割以上に使用されていることが条件です。南三陸町産のFSC材を新庁舎に活用する方針の町に協力し、利用割合を100%に近づける態勢づくりを進めています。

南三陸杉は、中心部分が薄いピンク色をしている。見た目の美しさと強度を兼ね備えた木材。

南三陸杉は、中心部分が薄いピンク色をしている。見た目の美しさと強度を兼ね備えた木材。

「役場庁舎のプロジェクトを通じて、FSC材をどう使うのか、県内の加工場を使うとどんなものが作れるのかといったことをゼネコンさんと手を組んで進めていくつもりです。具体的には、建材としての角材を提供するのではなく、地元の企業さんと協力してFSC材で内装や家具を製作するといったことを考えています。『提案できる林業』が目標ですね」

ゆっくりと成長する南三陸杉は、目が詰まり、強度が高くなるのが特徴。やわらかい手触りや、うっすらとピンクがかった色味など、建材だけでなく家具にも向いている木材なのだそう。FSC材を使用した役場庁舎は、南三陸町の新たなランドマークとなるかもしれません。

他にも仙台市内のスターバックスで店内のアートフレームに地元FSC材が採用されるなど、少しずつ、でも着実に南三陸の「提案できる林業」は広がっています。豊かな森の生態系を守りながら、資源としても活用していく。「経済的にも、動植物にとっても、南三陸の山を“宝の山””にしたい」。そう語る佐藤さんの目は楽しそうでした。

main_image株式会社佐久(南三陸森林管理協議会)
株式会社佐久
〒986-0728 宮城県本吉郡南三陸町志津川字天王山138-3
URL:http://sakyu-minamisanriku.jp/
記事提供:NTTdocomo「笑顔の架け橋Rainbowプロジェクト」