自然に、人に、すべてに感謝して――“ごっつぁんファーム”のお米野菜づくり

main_image桐の里産業株式会社
福島県 三島町が立ち上げた農業法人。遊休農地を活用し、三島町を活性化することを目的に活動しています。18集落のあちこちにある使われなくなった農地で、極力農薬を使わず、米をはじめさまざまな野菜を育てています。三島町は古くから「会津桐」の産地として知られており、社名はそこに由来しています。

高齢・過疎化によって増える遊休農地を何とかしたい!

福島県の西部、只見川沿いの山間にあるのが三島町です。「奥会津」と呼ばれ、冬は2メートルもの積雪があることも珍しくありません。人口1,600人のこの町は、その半数以上が高齢者。福島県内で3番目に高齢化が進んでいる町です。

遊休農地の様子

遊休農地の様子

町では、高齢化と過疎化によって、農地を維持できなくなるという問題が深刻になっていました。田畑を持っていた住民が農業を続けることが難しくなり、子どもや孫も町外へ出て行っているため、農地を受け継ぐ人がいなくなってしまったのです。あちこちが、次々と遊休農地になっていきました。

このままでは三島町の農業が消滅してしまう―—。危機感を持った町は、農地を守るための農業法人を立ち上げることを決めました。しかし、町内には任せられる人材がいません。白羽の矢が立ったのは、会津若松に暮らしていた岸本篤美さん・恵里子さん夫妻でした。

多くの人との縁がつながり三島町へ

岸本さん夫妻は、もともと関西の出身です。大阪、福島、東京と暮らしてきて、たまたま再訪した会津若松で、篤美さんは農業研修を行う会社を立ち上げることになったのです。農業はまったくの未経験。しかし、会津若松で知り合った多くの人に支えられ、試行錯誤しながら会社を運営しているところでした。

お2人が作業をしている姿

お2人が作業をしている姿

関西から移住してきて農業に取り組んでいる人がいる、という話は、三島町まで届いていました。そこで、岸本さん夫妻に三島町の農業を担ってもらえないか打診したのです。篤美さんには、地方にいくつも支社を立ち上げた実績がありました。農業の経験が浅いとはいえ、株式会社として独立したビジネスを行ってほしいと考えていた三島町にとっては、うってつけの人材だったのです。

会津若松から三島町へと移住し、さらに本格的な農業に取り組む――。町の期待を一心に背負った役割です。プレッシャーもありましたが、2人は二つ返事で引き受けました。関西から、縁もゆかりもなかった会津若松に来て、さらに三島へ…。すべて周りの人とのつながりで導かれてきたようでした。その縁を大切にしたいと考えたのです。

初めての田植え、試行錯誤の1年間

最初の1年は2人にとってかなり苦しいものになりました。まず、住む家が見つかりません。空き家はたくさんあるのですが、どれも人の住める状況ではありませんでした。やむなく、家が見つかるまでは会津若松から片道1時間かけて通うことにしました。早朝に家を出て三島町へ向かい、朝から晩まで農作業をし、会津若松の自宅に戻ってくるのはいつも夜遅く。疲労はたまる一方でした。

作付している作物

作付している作物

農業でも悪戦苦闘の毎日でした。これまでに育てたことがあるのはトマトやきゅうりなどで、米作りの経験はなかったにも関わらず、三島町ではまず米を作って田んぼを復活させてほしいと依頼されたのです。誰かが付きっきりで教えてくれるわけでもなく、周囲の農家の見よう見まねで進めるしかありません。最初はトラクターの使い方すらわからず、どんどん作業が遅れ、焦りが募っていきました。

初めてのことばかりの毎日にくたくたになっていましたが、2人とも決して「止めたい」とは思いませんでした。不思議と楽しかったのだといいます。自分たちが手を抜けば作物は枯れてしまい、がんばればその分立派な作物が育ちます。すべてが「自分たち次第」の環境は、2人にとって心地の良いものでした。1年目に収穫できた米やレタス、キャベツは、夫妻にとって“作品”のように思えました。

宿泊も可能な事務所

宿泊も可能な事務所

大切な人に食べてもらえる野菜を作りたい

ようやく住む家が見つかり、岸本さん夫妻は2016年4月に三島町に引っ越してきました。農業にもだいぶ慣れ、今では20種類近くの作物を栽培しています。音楽イベントにブースを出店したり、農業体験をして頂ける方への宿提供等、三島町の農業を知ってもらうためのさまざまな取り組みも始めています。

岸本さん夫妻は、三島町で暮らすようになって、自然の雄大さを肌で感じるようになったといいます。人は“生かされている”――そんな自然への感謝を込めて、2人はこの場所を “ごっつぁんファーム”と名付けました。

「ごっつぁんファーム」のお米「どすこい米」

「ごっつぁんファーム」のお米「どすこい米」

岸本さん夫妻の野菜づくりのモットーは、「自分が食べたいものを作る」ということ。安心安全で、栄養たっぷりの野菜。良いものを作り続けて、いずれは「三島町の野菜が食べたい」と指名されるまでになるのが目標です。「かかりつけ医」のように、身近な「かかりつけ農家」という存在があっても良いのでは、と2人は考えています。

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福島県大沼郡三島町大字桧原字桧原沢130-1
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