いわき発!元祖カマコンを超えた熱きプレゼン

「浜魂(ハマコン)」が地域の文化に育つ

福島県いわき市にあるNPO法人TATAKIAGE Japanが主催する「浜魂(ハマコン)」。浜通りを活性化させたいとアクションを起こす人を応援する全員参加型のプレゼンとブレストを行うイベントで、登場するプレゼンターの企画を参加者が自分事として一緒に考え、時には共に行動しながら地域の課題を解決するというものだ。神奈川県鎌倉市で始まった「カマコンバレー」(通称カマコン)を参考に「ハマコン」と名付けた。2015年8月に始まったこのイベントは、毎回80人以上の参加者が集まり、開催回数は延べ13回に到達。イベントをきっかけに、地域に広がった活動は20回以上を数える。

2015年8月から月に1回開催してきた浜魂も13回目

2015年8月から月に1回開催してきた浜魂も13回目

登壇者の思いを103名の来場者が「自分事化」する

9月22日に開催された「浜魂」は、社会起業家を育てる「ふくしま復興塾」とのコラボレーションで、塾生の中から5人が登壇。福島の「現場の声や想いを発信したい」「日本酒をもっとみんなで楽しみたい」といったプランを3分間プレゼンした。発表後は103名の来場者が、応援したい人のテーブルに座りアイデアを出し合った。登壇者はそれらのアイデアの中から1つを選び、最後に次の行動を発表する。その後の懇親会では、参加者との雑談を通じてアイデアを深め、一緒に行動する仲間を見つける。一方の参加者は、登壇者の発表を聞いた上でブレストし、再び発表を聞く頃には登壇者を応援しようという機運が高まる。このように、会場がいつの間にか1つになり、一体感に包まれていく。なぜ浜魂は、こうまでして、盛り上がりを見せるのだろうか。

プレゼン後のブレストの進め方を、舞台の上でデモンストレーション

プレゼン後のブレストの進め方を、舞台の上でデモンストレーション

東日本大震災後、いわき駅近くの飲食店街を復興飲食店街「夜明け市場」として復活させた松本丈さんらが立ち上げたTATAKIAGE Japanは、「地域プレイヤーの発掘と育成を支援する」をミッションとして掲げている。理事長の松本さんと理事の小野寺孝晃さんは、以前から鎌倉を熱くしたい人たちを応援するイベント「カマコン」に注目していた。実際に見学した後に、同様のイベントをいわき市で開催することを決意。その際、松本さんもメンバーの1人で、震災後に発足したワークショップ形式の対話などを行う「未来会議」と、福島県発のクラウドファンディングサービス「KickOFF」に声をかけ、エンターテインメント業界有志が立ち上げた一般社団法人「チームスマイル」が運営する「いわきPIT」を開催場所にした。TATAKIAGE Japanをはじめとする4つの団体が10人ずつ参加者を誘うことで最低40人を集めるとともに、長く継続させるために毎月開催することも決めた。

浜魂のプロデューサー小野寺さん。イベント全体を見守りつつ進行役も

浜魂のプロデューサー小野寺さん。イベント全体を見守りつつ進行役も

こうして初回は予想通りの盛り上がりを見せたという。その後も興味や関心を継続させるために、終了後に募った運営ボランティアを受付や交流会、ブレストを盛り上げるチームに振り分け、新たな企画を募りながら毎回改善を繰り返している。たとえば、プレゼンターの発表内容がすぐに会場のスクリーンに文字投影されるシステムを開発することで、参加者がメモを取らずに登壇者の話に集中できるようにした。「毎回微調整を重ねながら、いわきらしい浜魂スタイルを作っていくんですよ」と語るのは、浜魂の担当役員でディレクターを兼務している小野寺さん。立ち上げ時期からずっと浜魂を見守ってきたカマコンの仕掛け人の1人、面白法人カヤック社外取締役の西田さんからは「浜魂はもうカマコンを超えた。自分たちのスタイルでやってくれ」と応援されたという。

プレゼンを機に地域が循環、「廃校活用」「野菜の収穫」へと広がる

プレゼンターのアクションが地域に変化をもたらした事例を紹介する。市内内郷にある障害者施設「ソーシャルスクエア内郷」を運営する北山剛さんの願いは、障がい者と健常者が多様性を認め合いながら、自然な形で交流が生まれる社会にしていくこと。「そのために、何をどうしたらいいのだろう」というものだった。ブレストの結果、北山さんの思いは「ごちゃまぜイベント」と名付けられ、活動を開始することになった。まず、同様に浜魂で廃校の活用についてプレゼンした永山優香さんと一緒に、三坂地区にある旧三坂小学校で芋煮会と、オープンに会話する「ワールドカフェ」を開催。翌年には、いわき市内の農家の畑でキャベツやニンジン、大根などの収穫イベントを行った。

こうして浜魂がハブになり、地域の人たちがつながっていく循環が生まれている。小野寺さんは、プレゼン後にアクションを成功させる秘訣の8割は「登壇者の熱量だ」と分析する。ブレストや懇親会を通して、いかにアイデアを探し出し、仲間を募っていくかは登壇者の熱意次第だからだ。ただ、仮にうまくいかなくても、「イベントが地域を盛り上げるきっかけになればいい」と小野寺さんは考える。「次に『浜魂』でプレゼンしたい」と思う人が増え、1人でも多くの人がコミットすることで地域が盛り上がる。TATAKIAGE Japanのミッションはそこにあるからだ。

興味をもったテーマに集まりブレストタイム。登壇者は口をはさまないのがポイント

興味をもったテーマに集まりブレストタイム。登壇者は口をはさまないのがポイント

市内7地区で「お出かけ浜魂」、地域活性化のモデルへ

「入場料まで払って『浜魂』に来る人は『いわきにはこんな課題がある』『こういう活動をしている人がいる』という発見が新鮮みたいですね」と小野寺さんは言う。また、回を重ねるにつれて運営スタッフに手を挙げる人が増え、TATAKIAGE Japanの会員数も40人以上増加した。最初の頃は「平(たいら:開催場所の地区名」の人が何かやってる」と懐疑的な見方をする住民も一部いたが、評判が広まるにつれ他地域からも「登壇したい」という声が多く聞かれるようになった。そのため、来年度は市内7地区を回る「お出かけ『浜魂』」を開催する予定だ。市内各地で新しいアクションが生まれ、それを地域全体で応援する仕組みが育てば、再び「いわきPIT」で開催する際には、その影響力がさらに増しているかもしれない。

カマコンバレーに端を発したイベントは他に、兵庫県丹波市、岩手県盛岡市、長野県白馬村、福岡市などにも広がっている。全国にアクションを起こす人、それを自分事化して応援する人が増えていけば、地域のポテンシャルは上がる。元祖カマコンを超えた「浜魂」が、地域活性化のモデル・参考事例になる日も近いかもしれない。

文/武田よしえ