仙台の市街地を一望できる高層ビルの一室はその日、熱気に包まれていた。東北の被災自治体などに民間の人材を派遣・マッチングする「WORK FOR 東北」(現・「WORK FOR にっぽん」)。赴任者同士が親睦を深める集合研修の最終回が2月24日に開催され、互いを励まし、それぞれの地域での活躍を誓い合う光景が広がった。「WORK FOR 東北」は、日本財団を主体とする現在のスキームでの運営を3月一杯で終える。行政と民間が協力して課題解決に挑む東北発の新たな試みは、何を残したのか。そして、今後にどう活かすべきだろうか。研修の現場から、考えてみた。
計7回、最後の集合研修で白熱した議論
「WORK FOR 東北」は震災後、復興を担う人材を必要とする自治体などに外部の民間人材を派遣・マッチングする事業として2013年10月にスタートした。自治体の職員不足とともに、震災復興という前代未聞の課題に挑むうえで、民間のノウハウを活用することが解決策の一手になるとの考えから生まれた。
事業開始から約3年で、岩手・宮城・福島の3県に計166人が赴任(2016年9月末現在)。首都圏の40代前後を中心に、産業やまちづくり、コミュニティ支援などの分野で貴重な即戦力として活躍しているケースが多く、現地の復興や課題解決を力強く後押ししている。
この日開かれた集合研修は、赴任者が互いに情報交換したり、交流を深めたりする場として定期的に開催してきた。今回を含めこれまでに計7回、延べ150人が参加。慣れない業務や生活面での苦労を打ち明けられる数少ない機会にもなり、毎回参加を心待ちにする赴任者も少なくないという。
最終回は、「赴任を終えても(東北との)交流を続けてもらいたい」(日本財団・青柳光昌ソーシャルイノベーション本部上席チームリーダー)との願いを込め、「被災地を巡るオリジナルスタディツアーの共同企画」をテーマにしたグループワークを目玉企画として実施した。22人の参加者が6つのグループに分かれ、実際に現地で生活する立場や視点を活かして独自のアイデアを出し合った。
あるグループは、教師をはじめとする学校関係者を主な対象とし、多くの生徒が命を失った石巻市立大川小学校(宮城県)などの教育現場を視察するツアーを提案した。企画したメンバーの1人で、福島県浪江町の教育委員会に勤務する森田貴之さんは、「子どもたちが震災によってどんな心理的な影響を受け、それを大人がどうサポートしているのかを学ぶ目的だ。被災地の未来をつくるのは子どもたちだ。そこにフォーカスするツアーがあってもいいと考えた」と熱く語りかけた。
また、4人全員が福島県内に赴任しているグループは、「福島グラデーションツアー」と題した案を発表。福島県は原発事故の影響で今も多くの人が県内外で避難生活を余儀なくされており、避難指示の解除や住民帰還の動きも地域によって大きく異なる。その複雑な現状を「グラデーション」という言葉で表現し、「明るい部分と影の部分の両方を見てもらいたい」(福島大学うつくしまふくしま未来支援センター・柿沼美佳さん)とした。
コミュニティや産業支援に、民間のノウハウを
最終回の節目ということもあり、研修会場には復興庁統括官(当時)として事業の立ち上げに奔走した岡本全勝(まさかつ)さん(現・内閣官房参与、福島復興再生総局事務局長)も姿を現した。
岡本さんは、「自治体間で応援職員を派遣する横のつながりは従来からあり、そうした役所完結型でインフラの再建まではカバーできた。しかし、コミュニティや産業復興などに関する知見を行政は持っておらず、そのノウハウや人材をどう現地に持ち込むかが課題だった」と当時を振り返る。続けて、「その象徴が『WORK FOR 東北』で、いい事例を数多くお見せすることができた」と手応えを口にし、さらに「この手法を全国にどう展開していけるかが、今後の課題になる」と力を込めた。
既に全国普及を試みる取り組みは動き出している。「WORK FOR 東北」は2016年8月、名称を「同 にっぽん」へとリニューアルし、人材マッチングの対象エリアを東北以外にも広げたのだ。被災地が直面する人口減少や産業衰退などは全国の地域に共通する課題であり、これまでの支援の実績やノウハウを他の地域にも展開することが必要と考えたからだ。実際に、石川県七尾市と新潟県長岡市が新たに参画し、マッチングが実現するなど具体的な成果も生まれている。
青柳さんは、民間人材を活用するこのスキームについて「非常に価値がある。日本全体に広げるべきだ」と訴える。そのうえで、4月以降は別の運営団体による新たな事業としてスタートする構想があることを明らかにするとともに、「地域(行政)が自ら主体的に人材の募集や採用を行えるようになることを期待している」とも指摘する。
グループワークなどを終え懇親会へと場所を移したときには、窓の外はすっかり暗くなり、町のネオンが光り輝いていた。各チームの熱の入った発表の余韻が残る中、懇親会では参加者全員が1人ずつ順番に壇上に立ち、マイクを握る予想外の展開に。酒の酔いも手伝ってか、各自が笑顔で現在の業務や今後の目標を熱っぽく語り出す。その場にいた誰もが胸を熱くしたに違いない。その熱意とパワーは、自治体をはじめとする赴任先の職場やスタッフにも伝わり、業務に臨む意識や姿勢が変わる。そんなイメージが膨らんだ。
東北で生まれた、民間のノウハウを活用した行政運営や地域課題解決の新しいモデルは、その熱気に乗って今後、全国各地に飛び火していくことになるだろう。
文/近藤快
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