今、NPOなどの新たな資金調達の方法として、ファンドレイジングが注目されている。東北でもこの手法について学び、活用しようという組織が今春、新たに誕生した。さらに、福島県では長期的な活用を見据えて、新たな基金を設立しようとする動きが始まっている。東北、そして福島で動き出した、これらの新たな活動の背景に迫った。
ファンドレイジングで継続的な活動資金を
ファンドレイジングとは、NPOや社会起業家と呼ばれる人々が、自らの活動に対する社会の共感を得ながら、活動に必要な資金を集める仕組みのことである。一般的には寄付や会費、助成金、補助金などの「支援的資金」に加え、社会的な目的と経済的なリターンの両方を実現するための「社会的投資」などが含まれる。
今、少子高齢化や子どもの貧困などの社会課題を解決するうえで、NPOの活動やソーシャルビジネスの重要性が高まっている。一方で、こうした団体は、継続的に活動資金を確保することに頭を悩ますケースが少なくないとされている。そうした中、ファンドレイジングの普及を目指すNPO法人日本ファンドレイジング協会が2009年に設立された。同協会は、寄付から社会的投資までを含む「善意の資金」を、10兆円規模に増やすことを理念としている。また、昨年12月には休眠預金活用法が成立し、銀行などに眠る年間500億円程度のお金が民間の公益活動に充てられることが可能になった。このように今、NPOやソーシャルビジネスなどの社会的事業に、継続的に流れる資金を増やそうという動きが強まっているのだ。
一方、東日本大震災によってNPOの活動が広がった東北でも、こうしたファンドレイジングに取り組む動きが生まれている。今年4月、日本ファンドレイジング協会の東北支部にあたる「東北チャプター」が発足。東北のNPOが法人の枠を超えて、資金調達のノウハウや情報を交換しながら、東北に新しいお金の流れをつくろうというのだ。この東北チャプターは、震災後の復興支援活動に力を注いできた、いわて連携復興センターの常務理事・葛巻徹さん、せんだい・みやぎNPOセンターの鈴木美紀さん、ふくしま連携復興センターの山崎庸貴さんが共同代表を務める。東北は震災を機に、県を超えてNPO同士の横のつながりが一気に生まれた。そのため、葛巻さんは「東北チャプターの立ち上げはスムーズだった」と話す。
東北チャプターが発足したことで、ファンドレイジングについて専門的なスキルを学べる「ファンドレイザー」の認定試験が東北で受けられることになった。今までは都内まで遠征しないと受けられなかったが、これによって専門的な人材を育成しやすくなったという。また、今後活動を続ける中で東北に新たな寄付文化が広がることになれば、前述した休眠預金などの資金を積極的に活用するような動きも加速する可能性がある。
ふくしま連携復興センターの新たな資金確保の仕組み
そうした中、ふくしま連携復興センターも、新たな資金確保の仕組みづくりに乗り出している。特に原発災害の影響が大きい福島県は、他の県以上に中長期目線で復興に取り組むことが必要になるだろう。20年、30年という長期スパンで活動を続けていくためには、当然ながらNPOの活動も重要だ。そのカギを握りそうな新たな資金確保の仕組みについて、ふくしま連携復興センターで広報を担当し、東北チャプターの共同代表の1人でもある山崎さんに話を聞いた。
ふくしま連携復興センターは震災直後から、復興支援に取り組む県内各地のNPOをつなぐ中間支援を行ってきた。また、行政と連携しながら避難者支援を行っている全国のNPOを結ぶ研修会や、県内の復興支援員向けの研修なども実施してきた。しかし、震災から6年が経過する中で、長期的な活動資金の確保が困難になりつつあるという課題にぶつかっている。そこで、山崎さんらは新たに「ふくしま百年基金」の設立に向けて動き出したのだ。この基金は、ふくしまの「次の100年」を支えるための基金で、100年後の福島を地域全体で創り上げていくための活動だ。
山崎さんらは、以前から団体内でこうした新たな基金の必要性について話し合ってきたという。一義的には復興を後押しする基金という位置づけだが、高齢化や過疎の問題など、県が抱える復興以外の地域課題も対象にすることで、県民の意思や思いを広く取り込む「コミュニティ基金」のような仕組みにしたいと考えている。同時に、県民を含めた多くの関係者などから広く寄付を集め、結果的にNPOなどの活動が長く続く流れを生み出したいという。山崎さんは、「私たちの復興は、復興予算によって支えられる活動だけではなく、地域そのものの活動によって生まれるものだと思う。そうした地域の活動を支えるお金を作っていかなければならないのだ」と話す。
「ふくしま百年基金」では、まず県内各地でワークショップを開催し、基金を活用して実現したい「ふくしまの未来」を描くことからスタートする。また、基金を運用するための新たな財団法人も創設する計画だ。
復興への道のりは、まだ長い。ファンドレイジングの手法を取り入れながら自ら基金を作り上げ、復興を超えて地域課題をも解決できるようになれば、地域活性の新しいモデルになるのではないだろうか。
文/武田よしえ
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