市民が生み育てるまちづくり
18年目の生ごみ堆肥化プランと4年目のフェスティバル
市民の目線と行政の立場の双方から、どのようにまちをつくっていくか。東北被災地だけではなく、全国各地で地域の課題となっていることの一つだ。
山形県長井市は、県の南部に位置する人口約3万人の田園都市。市の西側に朝日連峰の山々、中央に最上川があり、日本一のあやめ公園などがあることから「水と緑と花のまち」としても知られている。
今、この小さなまちの、2つのまちづくりプロジェクトが注目されている。
運営組織をそれぞれ取材し、地域の未来づくりのアイデアなどを聞いた。
3万3千人が見学に。
生ごみが野菜になる「レインボープラン」
長井市を語る上で、はずせない取り組みになっているのが、市内の各家庭から出る生ごみを活用して地域で循環させている「レインボープラン」だ。国内外から注目され、なんとこれまでに延べ約3万3000人が長井市へ見学に訪れているという。具体的にどのように循環させているのか、レインボープラン推進協議会の小林美和子さんに話を伺った。
「まず市内の約5000世帯のキッチンで生ごみが分別されます。これを週に2回約230ヶ所の収集所で回収し、市営のコンポストセンターで農業廃棄物の籾殻・畜ふんと合わせて、良質な堆肥にするんです。それを市内の農地に還元し、農家や市民ボランティアが農作物を作ります。その農産物は市内の直売所やスーパー、学校給食を通じて市民の食卓へと還元するというシステムです」。
良質な堆肥づくりのポイントは、有機資源となる生ごみの分別。地域の主婦など女性たちが中心となり、生ごみの回収からコンポスト化までの実験とモデル事業を重ねたという。例えば、生ごみをごみ袋に入れて収集所へ持ち込むのか、バケツに入れて持ち込むのかなどが検討され、バケツ方式が採用された。また、肉の骨や貝殻、とうもろこしやパイナップルの芯などは、堆肥化に時間がかかるため、回収する生ごみには入れないと決めるなど、現在のシステムの基盤ができあがっていった。その分別は日本一とも評されているとか。
地域が発展していく可能性を感じて移住
特筆すべきは、市民・行政・農家・農業団体などが共に推進協議会を構成し、「レインボープラン」の運営していること。小林さんは、「それぞれの立場と視点から協議をし、各団体に持ち帰って実践ベースに落とし込んでいます。例えば、行政の場合はコンポストセンターの運営などについて改善や検討をはかり、市民の場合は地域団体や女性団体を通じてごみの分別について連絡したり、レインボー農産物の利用拡大を呼びかけたりしています」と話す。こうした協業が実現した理由は、「レインボープラン」が市民側から立ち上がり、共感を集めていったプランであることが大きい。元々まちづくりに関する市民の会が招集されたことが発端で、その初期段階から「地域を良くしていきたい想いは同じはず。行政などのさまざまな立場の人を巻き込むことが大事」という認識のもと、市民が一人ひとりを説いてまわり、賛同人を集めたのだそうだ。視察に来た人々には、市の職員ではなく市民ガイドというボランティアが、市民目線の熱い想いを伝えているという。
さらに注目したいのは、稼働して18年目のシステムであること。18年目といっても、検討が始まったのは1988年で、91年に調査委員会が発足し、そうしてついに97年にコンポストセンターが操業したというから、長井市の人々の情熱と粘り強さを感じずにはいられない。小林さんは長井市出身ではなく、「レインボープラン」の素晴らしさに興味を持ち、7年前に東京から移住したのだという。
「長井市には、地元をとても愛していて、何とかいい地域にして子供たちへ受け渡したいという熱い想いを持っている方が多いのかもしれません。他の地域がやっていないことを遂行する、得体の知れないパワーがありますね。私も今後、次の世代に『地域のたすきわたし』としてレインボープランの考え方を伝える活動ができればと思っています」。
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