クリエイターが発信する、新イベント。
0歳児から80代が楽しめるフェスが人を呼ぶ
移住者である小林さんが実感している、長井市の人々の「地元愛」。それを体現している団体が、ほかにもある。地域プロデューサーでカメラマンでもある船山裕紀さんが代表を務める「ぼくらの文楽」だ。メンバーは、船山さんの学生時代の同級生や長井市へU・Iターンした同志などで構成されている。
代表的な活動は、市内で年に一度行う、音楽とカルチャーのフェス「ぼくらの文楽」を主催していること。毎回、音楽ライブやトークショー、楽器などをつくるワークショップや教室などが行われる、大きなイベントだ。第一回の開催は2011年9月だった。
地元を盛り上げるための企画として、船山さんは次の3つをイベントテーマとして決めた。参加者がレスト(休息)できること。子供を含めた家族が楽しめること。非日常を演出すること。親子で参加するには環境が不十分であることが多い既存のフェスではなく、ゆったりと楽しめるお祭りを目指した。地元で親しまれている大きな公園を会場にするため交渉したり、地域の高齢者が無料で参加できるようにしたりと、地道な努力を重ねてきた。こうした運営は、先述のメンバーのほか、コミュニティーセンターともいうべき地区の公民館が地域・行政とのコーディネーター役を担当し、イベントの事務局までを引き受けたことで成り立っている。皆、長井市が好きでこの取り組みを応援し、「地元をなくしたくない」、「子供に残したい風景がある」など、それぞれの想いで参加しているという。
第一回の来場者は約1500人。地元の人々はもちろん、岩手県や宮城県、福島県からも泊まりがけで来た親子が多く、大盛況だったという。以来毎年秋に開催し、県内外から毎回約1000人が参加している。参加者の年齢層は0歳児から80代。一風変わったフェスとして、認知度を上げている。
「長井市にこんな楽しみ方があるよ、という提案ができたら。『ぼくらの文楽』を通して、ここでできる体験を全国へ発信していきたいです」と船山さん。
実際に長井市を訪れ、地元の人々と話すうちに、ここにはゼロから何かを立ち上げることが可能だと思わせるような空気があると感じた。気概のある人、背中を押してくれるような人が多いのだ。船山さんも「長井市は『可能性を探ることができる土地』です」と話してくれた。そうした空気はなぜ生まれたのか。複合的な理由はあるかもしれないが、「レインボープラン」をツールとして、一人の熱い想いが別の誰かの心に火をつけながら、前向きに計画を実現していく力を地域で養っていったからではないだろうか。自分たちで何とかしなくてはという自立心が、長井市を支えているように思われた。
文/小久保よしの
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