名取市閖上「ゆりあげ港朝市」再開から3ヶ月。震災前比2倍の集客力の秘密は【前編】

ゆりあげ港朝市共同組合 理事長 櫻井広行さん

ゆりあげ港朝市共同組合 理事長 櫻井広行さん

あいにくの曇り空にも関わらず、商店からは客引きのための掛け声が飛び、大勢のお客さんで賑わう日曜日の朝。ここは、2013年12月に全面再開を果たした宮城県名取市閖上地区の「ゆりあげ港朝市」だ。東北地方沿岸では数多くの仮設商店街がつくられ、復興市が行われているが、集客に苦戦しているところも少なくない。こうした中、震災前5000人~8000人程度であった来場者数が現在では毎週1万人を超え、多いときは2万人近くが来場するという「ゆりあげ港朝市」の取り組みに注目した。運営するのは、約40年前から現地で朝市を開催している「ゆりあげ港朝市協同組合」。組合理事長で、自身も朝市に「さくらい水産」を出店している櫻井広行さんに集客の秘訣を伺った。

昨年12月にグランドオープン

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 震災によって大きな被害を受け、現在ではほぼ更地になってしまい荒涼とした風景が広がる閖上地区。震災前に約5700名が生活していた同地区では、震災で約750名が犠牲となるなど大きな被害を受けた。約40年の歴史を誇った「ゆりあげ港朝市」も、当然開催ができなくなった。

 しかし朝市はその3週間後に奇跡の復活を遂げる。震災により物流が混乱する中、品物をかき集めて、イオンモールの駐車場を借りる形で小さな朝市を開いた。そこは震災後に離れ離れになっていた住民の再会の場にもなった。「なにもなくなってしまったからこそ、勝負に出るしかないと思った」。櫻井さんは振り返る。

 県や市の復興計画策定に先駆けて、自力でできると何でもやってきた。「最初から補助金頼りなのではなく、障壁が多くても自らの手で挑戦していくことが大切」。朝市再建を進める櫻井さんらの想いに、共感した外部からの多くの支援も集まった。例えば地域の新たな顔となった、カナダ政府からの支援によって朝市の隣に建設された「メイプル館」など、多くの協力や支援の結果が、2013年12月のグランドオープンにつながった。

活気ある朝市を演出

 朝市を歩いていると、100円でめかぶ丼を出している店、何も言わなくても「ほら食べて食べて」と試食の皿を手渡してくれる店、各店創工夫をしながら積極的に呼び込みをしている。朝市の集客の秘訣の1つは、この活気にあるようだ。

 櫻井さんは、毎朝の朝礼、そして営業時間中も、それぞれの商店を回ってもっと売り込みの声を出していくよう、呼びかけているという。「とにかくいい店のやり方があれば真似しろと言ってます。商売ですから売ってなんぼ。足を止めてもらわなければ始まりません」と櫻井さん。スーパーでは楽しめない対面販売の良さを訴求している各店の努力は、朝市全体のエネルギーとなって来場者の気持ちを高めている。確かに、呼び込みの声には、つい立ち止まって引き寄せられてしまう力がある。お母さんたちの営業トークを聞きながら、じゃああれもこれもと、つい買い物を楽しんでしまった。

 来場者が自由に使える炉端焼きスペースも人気だ。元々はさんま祭りで、買ったさんまをすぐに焼けるようにするために設置していたものだ。復活した朝市では常設で解放されており、来場者は買ったその場で、ほたてを始めとした海産物を炭火で焼いて楽しめるようになっている。家族や仲間内で楽しめることにより、朝市の活気がより一層、強調されているようだ。

 「ゆりあげ港朝市」のウェブページでは、それぞれの商店主にフォーカスした記事が並ぶ。各人の物語に共感し、店主に会って交流を楽しみたいという人たちも、朝市に多く来てくれているようだ。

文・積順一

写真提供・good mornings株式会社

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