地元に根ざす。だから広がる
また、品揃えと価格設定も、朝市の大きな魅力となっている。陳列されている商品を見れば、あくまで地元住民の日々の食卓を意識していることが伝わってくる。「地元客は価値を分かってる。安い値段で良いものを売って食べさせないと満足してもらえない」と櫻井さんが話す通り、500円も出せばどっさり海産物を買うことができる。観光地化を目指すのではなく、地元客を満足させるような朝市を作ってきたことで、結果的に外からも人がやってくるのだ。
メディアへの露出や、外とのつながりにも積極的だ。テレビや新聞、雑誌などで数多く出ているのは、「来た取材は断らない。1人でも多くの人に来てもらいたい」という櫻井さんの努力の賜物だろう。朝市の間、魚を切りながら、またちょっとした休憩時間でも、アツい思いを聞かせてくれる。講演依頼を受けて県外に行く事もあるし、旅行会社とタイアップしてのツアーの受入れも行う。観光客にも、地元民でにぎわい地元価格で買物ができると評判が良い。
まずは徹底的に地元の人に愛される場所であることを目指す、それがベースの集客になり、各店舗の商品力や販売力の底上げにつながり、それが外部の人を惹きつけているのだろう。そして何より、朝市の代表であり、スポークスマンである櫻井さん自身が朝市の魅力となっている。
新規参入を受け入れ、競争を促進
集客の大きなポイントとして、出店数の確保もある。震災直後にイオンモール駐車場で再開した際には、店舗数が減ってしまったため、新しく募集して店舗数の拡大に努めた。地元の店だけでなく、市外から来ている店も。元気なおかみさんが名物のウロコ水産は、南三陸町から毎週来ているそうだ。
「私たちの想いに共感してやっていこうという人であれば、どこから来た人でも受け入れます」と櫻井さん。お試しでの臨時出店も受け入れており、学生団体が出店したこともある。一ヶ月の使用料は、安い場所では3万円という手軽さだ。その理由は、新しい商店を入れて競争し切磋琢磨し合わないと、品揃えと魅力的な価格を維持できないからだという。新しい血を常に循環させ続けることによって、長く地元住民に支持される朝市を目指している。
人の集う場としてさらに進化を目指す
今後について、櫻井さんはこの朝市を、地域を盛り上げるための拠点にしたいと考えている。商店が集まって買物を楽しめる場から、さらに祭りやイベントなどの拠点へと広げていく。たとえば今は、セリ市を行い、セリに参加する楽しみを味わってもらう取り組みを行っている。今後はさらに、家族で楽しめるような企画として、東京世田谷のボロ市のようなフリーマーケット・蚤の市の開催なども検討中だ。
またWebサイト上で寄付を募る「はんじょう募金」を立ち上げているのは、朝市の敷地内にウッドデッキを作るためだ。「ウッドデッキの上で、若手アーティストたちが好きに演奏できるようなジャズ・イベントを開きたいんです。仙台でもジャズ・フェスティバルをやっていますが、誰でも出られる訳ではない。出たい人はみんな閖上に来てもらって、自由に演奏して楽しんでもらえれば」。そんなビジョンを語ってくれた。
その他、朝市の敷地の目の前に新たにつくられる防潮堤を活用しての花火大会など、櫻井さんのアイデアはつきない。「思いついたらどんどんやればいい。できるかじゃなくて、覚悟を持ってやってしまう。復興は行政だけではなく、住民や民間が主体的に企画していくことが大切です」。
集客成功の秘訣を求め訪れた「ゆりあげ港朝市」。各店舗による活気の出し方や、価格設定、店舗の拡大など、いくつかのヒントを感じることができた。しかし何より印象に残ったのは、櫻井さんの発想力、そしてそれをスピーディに形にする実行力だ。彼を中心として動き出した朝市はエネルギーであふれていた。そのエネルギーに惹かれ、共感した人たちとともに、今後も進化をとげる朝市にまた来訪したいと思う。
文・積順一
写真提供・good mornings株式会社
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