他地域に学ぶvol.12 徳島県 三好市【後編】

成功の鍵は若者の参加と拠点づくり、そして楽しさ

「うだつ」は町の人が大事にしている昔ながらの防火壁のこと。家主の財力の証しでもあったことから「うだつが上がらない」の元になった。

「うだつ」は町の人が大事にしている昔ながらの防火壁のこと。家主の財力の証しでもあったことから「うだつが上がらない」の元になった。

盛況の秘密はどこにあるのか、運営のポイントを探った。

一つは、年代のミックス感だ。マルシェは、最初の頃一度来場者が減ったことがあったが、吉田さんの友達づてを頼り、若者を中心としたボランティアの運営スタッフを動員したことで盛り返した。ウェブサイトやチラシなどはできるだけ若いテイストで制作。高齢者が多い地方にも関わらず、徐々に域外からも関わってくれる若者が増え、やがて出店者も運営側も、若い人と年配者が一緒になってつくるマルシェの形ができていった。

マルシェの際一時的に借りたことをきっかけに交渉し、取り壊し寸前だった廃旅館をサテライトオフィスとして貸し出せることに。中庭付きの趣ある職場だ。

マルシェの際一時的に借りたことをきっかけに交渉し、取り壊し寸前だった廃旅館をサテライトオフィスとして貸し出せることに。中庭付きの趣ある職場だ。

もう一つは、人が集まれる場所づくり。吉田さんは築150年の古民家に住んでいるが、そこを改修してイベントスペースにした。NPOの活動拠点も兼ね、また移住を考える個人事業主のお試しシェアオフィスにもしたことで、「そこに行けば誰かいる」場所ができた。出会いも増え、マルシェを盛り上げてくれる仲間が増えていっただけでなく、さまざまな新しいアイデアが生まれた。

あとは何より「楽しい」こと。意義を難しく考えたり厳しい決まり事を作るのではなく、アレンジもコラボも自在のゆるさ加減がいい。マルシェと同時開催の「ファミコン大会」などが好例だろう。出店料も、面積によって500円~5000円と、家で作った野菜を売りたいおばあちゃんにも気軽に参加してもらえる。ただ、的屋や量販店など「ここでなくてもいい」と思う出店者は断わるなど、雰囲気づくりは大事にしているという。

マルシェから派生する交流人口の増加

「地域おこし協力隊」で三好市に移住した、徳島市出身の吉田絵美さん。3年の任期が終了したこの春からは、三好市でシェアカフェ、徳島市で雑貨屋の2店を経営する。

「地域おこし協力隊」で三好市に移住した、徳島市出身の吉田絵美さん。3年の任期が終了したこの春からは、三好市でシェアカフェ、徳島市で雑貨屋の2店を経営する。

さまざまな変化がきっかけを生み、2012年11月に「NPO法人マチトソラ」が元副市長の武川修士さんをリーダーとして発足。吉田さんも中心メンバーとして活動を開始した。

名前の由来は昔ながらの地域の呼び名。三好市は「マチ」と呼ばれる池田などの市街地と、「ソラ」と呼ばれる祖谷などの山間部がある。どちらにも各地域で古くから続く暮らしや伝統が息づいており、これらを大切に受け継ぎたいう思いが込められている。

NPOが始めた「マチソラ学校」では、マチとソラそれぞれをフィールドに、住民やさまざまなゲストが先生となりワークショップを行う。マチで行われる写真塾や料理教室、ソラで行われる梅酒づくりや味噌づくり……。どれも毎回満員になるという。

NPO法人「マチトソラ」の理事長、武川さんは元副市長。後ろの建物は築150年弱の空き家を改修したイベントスペース。NPOの活動拠点でもある。

NPO法人「マチトソラ」の理事長、武川さんは元副市長。後ろの建物は築150年弱の空き家を改修したイベントスペース。NPOの活動拠点でもある。

その他にも、大正レトロな廃旅館を活用したサテライトオフィス誘致や、芸術祭の開催、イベントスペースを利用したライブやセミナーも定期的に行い、交流人口はゆるやかに、しかししっかりと増え続けている。

これらの活動を通じて、吉田さんが行ってきたことはつまり何なのか。一言で言うなら「新しい関係づくり」だという。高齢者+若者、地元民+地域外の人、行政職員+住民など、新しく関係が生まれるところに、アイデアや知恵や楽しみが生まれていく。

「地域おこし協力隊」の任期が終了し、吉田さんは新しいビジネスを始める。その拠点は、徳島市と三好市の両方に持つことにした。この決断を、三好の人々はどれだけ喜んだかが想像できる。

←前編へ