半年間で300を超える支援実績。
ビジネス支援で成果をあげるグーグル流プロジェクトとは
震災から3年、まちづくりに関しては計画が見えてきた一方、震災前の水準まで売上が戻らない被災企業も多い。産業面の復興はまだまだこれからだ。こうした中、支援を望む東北の事業者と、スキルを持った全国の「サポーター」のマッチングを行っているのがIT企業グーグル株式会社が主体となる「イノベーション東北」。ここ半年の間に形になった支援の数は300を超えたこのプロジェクトは、いかにして短期間で成果に結びつけたのだろうか。
ビジネス支援のマッチングサービス「イノベーション東北」
震災後、グーグル社は自社の強みであるインターネットを駆使して数々の災害対応サービスを立ち上げた。安否確認サービスの「パーソンファインダー」を皮切りに、通行可能な道がわかる「自動車・通行実績情報マップ」、救援物資に関する「被災地救援サイト」。さらに被災地域をストリートビューで保存する「デジタルアーカイブ」や震災前の写真を共有する「未来へのキオク」など。そして2013年5月より取り組んでいるのが、さまざまな課題を持つ現地企業に対してビジネス支援を行うためのプロジェクト「イノベーション東北」だ。
「イノベーション東北」は事務局と地元のコーディネーターが、[現地企業=チャレンジャー]の持つ課題を見極め、課題を解決する[スキルを持った個人や企業=サポーター]とマッチングすることでビジネス支援を行うもの。2014年3月現在、約500名がサポーターとして登録。193事業者に対して303件の支援実績を持つ。
新商品の開発からブランディング、ネット販売や海外進出まで、マッチングされる支援の内容は多岐にわたる。サポーターがウェブマーケティングのコンサルティングに入りネット販売を強化しているという事例は、岩手県釜石市の海鮮問屋有限会社ヤマキイチ商店。専務の君ヶ洞さんは「取り組み開始後、全体の売上においてネット販売の占める割合が5%から19・6%まで伸びました。現在はサポーターと一緒にインターネット広告の効果測定などを進め、最適な予算配分を検討しています。その道のプロと仕事をできるのは「ありがたいことです」と話す。
ワークショップからマッチングへグーグル流のスピード感で方向転換
2013年5月のプロジェクトの立ち上げ当初、事務局ではECサイトの作り方やサイトのアクセス解析等を学ぶワークショップを開催して、東北の事業者にスキルを伝える手法をとっていた。ワークショップは7地域でのべ27回開催、300名を超える参加者があったというが、進めるうちに事務局メンバーの間で疑問が生じはじめる。「被災事業者と言っても抱える課題もその解決方法も実にさまざまだ。それに対して一律に同じメニューを提供するだけで本当に役に立つのだろうか?」。またワークショップはその場は盛り上がっても、継続したアクションにつながらないケースも見えてきたと言う。
そこで2013年9月からは、プロジェクトを「マッチング」へと大きく舵を切った。事務局と地元のコーディネーターが事業者の課題やニーズを徹底的に掘り下げる。その後、その課題を解決することのできるプロフェッショナルスキルを持つサポーターと事業者をひきあわせることで、具体的な課題解決を進める。「ウェブサイトに支援を求める事業者のリストを公開してオンラインマッチングを進めていますが、同時に双方の課題やキャラクターを熟知した上で、引き合わせや背中を押してあげる存在が重要です。いわば結婚相談所のようなアナログなやり方ですが、立ち上げ期にはこうした『おせっかい力』みたいなものが重要だとわかりました」と本プロジェクト事務局の岡本敬史さんは言う。
5名のスタッフが東北の事業者開拓に、2名がサポーター開拓、1名がウェブサイト整備に専属で張り付きながら、ワークショップと同様、マッチングにおいてもとにかく実績を積み上げた。「数字だけを追うのは正しいと思わないが、一定の数をやることによって見えてくるものが重要。マッチングへの転換も当初は迷いがあったが、実績が出ることで勢いがついた」(岡本さん)。徹底的に数字を積み上げつつ、必要とあれば打ち手を大胆に変える。実行力、そして決断の速さと柔軟性はグーグルのカルチャーと言えるだろう。
文・吉野りり花
→「オンラインの力も駆使してサポーターのアイデアで商品開発」後編へ
Tweet