オンラインの力も駆使してサポーターのアイデアで商品開発
サポーターによる支援のあり方もさまざまだ。福島県河沼郡にある会津中央乳業は濃厚なうまみを持つ牛乳「会津のべこの乳」で、地元のみならず県外の消費者からも支持されていた。しかし福島第一原発事故とそれに伴う出荷制限で製造がストップし、それまでの売場を失ってしまった。製造再開した後も放射性物質汚染の懸念から牛乳がまるで売れない。販路を新規開拓するには牛乳以外の新しい商品を開発する必要があった。そこで「イノベーション東北」を通じてサポーターからアイデアを募り、新商品として最中アイスを開発している。「地元の人間とは違う東京の若者視点でアイデアをもらえるのは嬉しい」と会津中央乳業の二瓶孝文さんは語る。
ユニークな点はITの力を使って支援が進められているところだろう。2月には東京原宿でサポーター開催のイベントが行われ、「アイスが好き」という共通項を持った20名以上のサポーターが集い、会津中央乳業の新商品開発にアイデアを出しあった。二瓶さんはオンライン会議システムを使ってイベントに参加。酒どころでもある会津の酒粕を使った酒粕アイスや、アイス用のスプーンなど魅力的なアイデアが飛び出した。「福島の風評被害はまだ先が見えないところがあるからこそ、情報発信がカギになる。サポーターの皆さんやグーグルさんとご一緒することで様々な発信をしていきたい」と二瓶さんは期待を語ってくれた。
サポーターと事業者が生み出す想定外?の支援プロジェクトも
全くノウハウのないところから作り上げたプロジェクトだからこそ、積み上げる中で見えてくるものもあるという。イノベーション東北事務局で現地企業とサポーターとのマッチングを担当する矢本真丈さんは「例えば現地企業の担当者に課題を聞くと、多くの方が情報発信が足りないと言う。けれど本質的な課題はそこじゃないことがほとんど。サポーターとマッチングすると、我々が事前にヒアリングしていたことと全く違うことをし始めるのも面白い」と言う。
その例のひとつが青森県八戸市の水産加工業者マルキョウスマイルフーズと食品大手のカルビー株式会社に勤める個人サポーター佐伯千香さんのマッチングだ。
マルキョウスマイルフーズでは震災で工場が被災。工場の命である冷凍設備は、建て替えを余儀なくされ、工場の営業を止めている間にやはり販路を失ってしまった。販路を回復するためには小さいロットの商品ではなく大きなロットのものを扱う必要があり、そのために大手の取引先を開拓をすることが、矢本さんが事前に聞いていたマルキョウスマイルフーズの課題だった。2013年12月、佐伯さんは矢本さんと一緒に八戸のスマイルフーズの工場を訪れた。本業のカルビーでは食品品質監査の業務を担当しており、普段から安全管理のために自社の工場にも足を運ぶという佐伯さん。マルキョウスマイルフーズの工場を見た時、時計の位置や刃物の管理などいくつか気になる点を指摘したところ、そこから発展して「大手顧客との交渉に必須とされる、HACCP(ハサップ)取得を検討している」というより本質的な課題を聞きだすに至ったと言う。
HACCPとは食品を製造する工程で危害となりうる要因を分析管理するための認証。大手顧客への営業を進める中、同社経営層は「HACCPが無いと商談のテーブルにつくことすらできない」という課題に直面していたのだ。2月に佐伯さんは再度東北へ赴き、経営者や取得にあたって中心となる工場長と面談し、いかに取得へ向けた現場のチームづくりを行うのかを協議。認証取得へむけて何が必要かを理解してもらうためのワークショップを実施する準備を進めている。「皆さんが想像し易いように、かっぱえびせんの製造工程をケースとして取り上げながら、認証取得に必要な内容を体験するワークショップです。他社の工場ラインなら興味を持って工程を見てもらえるので都合がよいのです」。
「受け身」のサポーターが課題解決に結びつく
HACCPを取るためには多額のコンサルティング費用がかかり、数年スパンの長い時間もかかる。しかし佐伯さんは、要望があれば認証取得の書類の確認なども手伝う準備はあると言う。折しも佐伯さんは妊娠中であり、また本業もあるため頻繁に現地に足を運ぶことは難しい。しかしそこはオンラインの力を使って解決することも可能だとも話す。「一度工場を見ているので、ビデオや動画を撮ってきてもらえれば、遠隔で見ることでもコンサルティングは出来ます。また自分のできないことであれば、できる人を連れてくれば良いと考えています」。
こうしたサポーター事例について、事務局の矢本さんはこう話す。「マッチングがうまくいくサポーターの共通項の1つは、サポーター側がいい意味で受け身でいるということです」。サポーターが何をやりたいかではなく、事業者が何をやりたいのか、何を必要としているかに耳を傾け、そのためにすべきことをクリエイティブに考え提案・実行する。これから求められる支援の形のひとつと言えるだろう。
マッチング数の大幅拡大から産業支援のプラットフォームを目指す
今年度、イノベーション東北が目指すのは支援マッチング数のさらなる拡大だ。その意図を事務局の岡本さんはこう語る。「中小企業へのソフト支援のプラットフォームとなることを目指している。今はまだ事業者に使って下さいとお願いに行ってる状態だが、どこかのポイントで事業者の方から使いたいと言って頂ける状態になるはず。そこに行き着いた時に見えるものはある」。中小企業白書によると、津波被害を受けた中小企業数は約3万8千社。その数%をカバーするだけでも大きなインパクトとなるだろう。今後はそうした数万社の中の、どういった企業をターゲットに開拓していくかが重要となってくると、岡本さんらは戦略を練っている。
サポーターの開拓においては、個人だけでなく団体や企業単位でのアプローチを進めている。たとえば中小企業診断士の団体との連携。中小企業診断士はコンサルティング実践の場を常に求めており、イノベーション東北の持つ東北の事業者ネットワークはまたとない課題解決の機会となる。「支援のマッチングにおいては2段階あります。まず現状を分析した上で、課題の分解および特定を行うこと、次に課題解決の実践です。中小企業診断士の方々の持つコンサルティングスキルは、前段の課題分解に大きな価値となります」岡本さんは期待を込める。
その他、プロボノ(スキルや経験を活かしたボランティア)をネットワークする団体や、企業の人事部やCSR部署と連携しての社員グループなど、サポーター獲得の動きも加速している。前述の佐伯さんは「今まで何もできないとどこか負い目に感じてきたが、やっと具体的に動き出せた。自分がこれまでやってきた仕事は無駄じゃなかったと感じることができた」と語っていたが、「自分のスキルを社会に役立てたい」という思いを持つビジネスパーソンは他にも多いだろう。産業復興へ向けた動きが本格化する中、今後はこうしたマッチングの意義がますます大きくなっていきそうだ。
文・吉野りり花
→「 ビジネス支援のマッチングサービス「イノベーション東北」」【前編】
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