[寄稿]東日本大震災からの復興は、日本復活の分水嶺。東北に見る日本の明日(TOMORROW)。

(本稿は東の食の会の高橋大就事務局長からの寄稿文です)

「イザ、カマクラ」

2011年3月12日。福島第一原発1号機の爆発の映像を目にした時、私の中でも何かがはじけました。原子炉の中で何が起きているのか、私には皆目見当がつきませんでしたが、日本という国に、終戦以来の最大の危機が起こっている、ということはわかりました。

巨大な地震から一夜明けて続々と伝わってくる圧倒的な津波被害を前に、茫然自失していましたが、この時、公務員を辞めた際の「国家が危機に瀕すれば駆けつける」という3年前の誓いがアラームのように私の目を覚ましました。

「東の食に、日本のチカラを。東の食を、日本のチカラに。」

すぐにコンサルティングの職を休職して、東北に入り、NPO間、政府・NPO間の緊急支援の調整活動を行いましたが、その傍らで、いかに長期的に産業復興に携わっていくかを考え始めていました。津波と放射能によって壊滅的な打撃を受けた東日本の一次産業・食産業を救うには、産業を挙げた長期的な取り組みが必要なことは明らか。食関連企業の有志が集まり、復興のためのプラットフォーム作りが動き始めました。

そして、2011年6月、「東の食に、日本のチカラを。東の食を、日本のチカラに。」をスローガンに、一般社団法人「東の食の会」が発足、私は事務局代表に就任、東日本の生産者に販路を提供するための活動を続けています。(「東の食の会」の具体的活動については注記参照)

日本の「明日」には、三陸の水産業の復興が必要

「東北の復興には、物質と精神の両側面の復興が必要」。

これは、私が委員として参加させて頂いている「復興リーダー会議」(注)での伊藤乾東大准教授の話にあった言葉ですが、言い換えれば、産業の復興(物質)とコミュニティの復興(精神)が必要です。このためには、被災をした地域の主要産業である、一次産業と食関連加工業、とりわけ、沿岸地域で多くの方が従事していた水産業が、コミュニティの再建・再興を伴う形で復興を果たさなければなりません。

三陸沿岸にコールセンターなどのバックオフィス機能を持ってきて雇用を生む、あるいは、新エネルギーの生産拠点とする、といった取組も大切だと思いますし、そうならざるを得ない地域も一部あるでしょう。しかし、水産業を中心としてコミュニティを育んできた三陸沿岸地域において、水産業なくして真の復興はならないでしょう。

一方で、「コミュニティの復興」が、旧態依然とした「復旧」では展望がありません。日本の水産業は、震災以前から高齢化、過疎化、担い手不足、といった構造的な問題を抱えていました。持続発展的なコミュニティの復興には、若手を巻き込んだ形で新しい水産業を創造していかなければなりません。

 同じ一次産業でも、農業の世界では、6次産業化の取組も珍しいものでなくなり、産業のリーダーと呼べるような起業家や生産法人が現れ始めて、「成長産業」として期待されるまでになっています。一方で、水産業は1周も2周も周回遅れのところにあの津波が襲いました。

 日本は、国土面積は世界第62位と大きくありませんが、四方を海に囲まれ、世界で6番目に広い排他的経済水域を有する海洋大国です。元来、日本の水産業は、「世界三大漁場」と言われる三陸沖を中心に、1980年代までは世界一の漁獲量を誇っていました。それが、資源管理を怠ったがゆえに競争力を失い、今では5位にまで転落しています。

 現在、世界第2位の水産物輸出国であるノルウェーは、1980年代に資源枯渇の危機を経験しました。しかし、国による厳格な資源管理、価格上昇のための水揚の分散、洋上オークションによる効率化等により、見事な復活を遂げ、今では、水産業は、従事者の所得は高く、担い手問題もない、一大成長産業となっています。

日本の水産業も、同じ道をたどれるはずだし、生まれ変わるなら今しかないはずです。1000年に一度と言われる大災害を受け、もはや守るべきものを破壊されてしまったこの時に生まれ変わらなければ、今後、三陸で新しい水産業は生み出せないでしょう。そして、これは水産業だけの話ではなく、日本経済全体、日本という国の復活にも当てはまります。日本がこの歴史的な大災害を受けても新たな産業の創造に踏み出さなければ、日本はこのまま経済大国の地位から徐々に引退し、斜陽の道をたどるでしょう。三陸沿岸地域は、真っ先に、否応なく、その岐路に立たされたのです。

その三陸の水産業では、新しい動きが始まっています。雄勝の漁師、伊藤浩光さんは「東の食の会」の理事を務める立花貴と「Oh Guts(オーガッツ)」を作り、直接消費者とつながり、東京に販路を築いています。また、このTomorrowにも登場された十三浜の漁業生産組合「浜人」の阿部勝太さんは、漁師自ら販路を開拓する「新しい漁業」を目指して活動しています。この三陸での「希望の烽火(のろし)」(注)が、日本復活の狼煙となる、と信じています。

日本の「明日」には、「課題解決型」の新しい働き方が必要

復興支援に関わる中で、三陸の水産業の産業としての復興に加えてもう一つ、強くて新しい日本の「明日」のために必要だと感じたことがあります。それは、自立した個人が、社会の課題を解決するために働くという、新しい働き方です。

私が震災後東北に入り、また、その後「東の食の会」の活動を通じて出会った、東北地域でコミュニティーを引っ張るために立ち上がっている人々や、東北に入って復興支援に携っている方々は、強さとしなやかさと共感力を持った、とても魅力的な人間達ばかりでした。壮絶な被害の現場でしたが、そこで会う人々の魅力は希望を与えてくれるものでした。

このような方々にはいくつか共通していた点があります。

1) 「個」として自立している (Independent)
復興のリーダー達はみな、何らかの組織に所属をしながらも、組織に依存はせず、一人の「個」として、今、何をすべきか、何ができるかを考えています。無論、被災地でも見られた団結力や組織力は、日本の強みであり、誇るべきものですが、それを構成する一つ一つの「個」が自立していて初めて強い組織ができるはずです。

2)評論より行動 (Action-oriented)
二つ目の共通点は、行動を起こす、ということです。震災後もいろんな人がいろんなことを評論しましたが、結局、世の中を変えるのは行動であり、その一歩を踏み出す方々です。私が出会った多くの現地のリーダーの方々や、支援団体のリーダーの方々の行動は、評論家の言説よりもよっぽど説得力を持っていました。

3) 世界に通用する (Global)
これは、いまだ、日本の弱みの一つであると思いますが、明日のリーダーには、国際社会においてリーダーシップを発揮できる、世界で戦える、という資質が必要です。これは単に言葉ができる、できない、という話ではなく、文化・価値観の異なる集団の中で、イニシアチブを執り、共通のゴールに導いていけるか、という問題です。

危機に瀕した東北には、各地のコミュニティに、自立的で、行動第一で、世界に通用するリーダーが生まれ、また、全国からそのような人々が集まってきています。東北を磁場として、新しいリーダー達が、自己の所属する組織の利益を超えて、コミュニティの、東北の、「課題解決」のために働く、そんな新しい働き方の胎動を感じます。営利だろうと、非営利だろうと、世の中の課題(ニーズ)は何で、それをいかに解決するか、ということが、働くことの本旨であるはずです。

東北だけでなく、このような資質を持った新しいリーダー達が企業やコミュニティを引っ張り、持ち場、持ち場で世の中の課題に取り組み、解決していけば、バブル崩壊以降この国を覆い続けている閉塞感を打破し、強くて新しい日本の「明日」が切り開ける、そして日本が今一度、世界をリードしていく国になれるはずです。

日本が、戦後の焼け野原から奇跡的なスピードで復興を果たし経済大国となった時にも、このような人々が新しい時代を切り開いていったのだと思います。
私には、「オーガッツ」の伊東さん、立花、「浜人」の阿部さんをはじめ、東日本の漁業や農業、食関連産業の危機に立ち上がり、新しい産業の創造と復興を担っていこうとされている方々の姿が、本田宗一郎や盛田昭夫、松下幸之助に重なるのです。

東北を見捨てて、日本の「明日」はない

「いざ鎌倉」と東北に駆けつけてから1年半が経ちました。いまだ産業復興にはほど遠い状況ですが、被害の大きさを考えれば、長期の取組が必要なことはわかっていましたし、悲観せず進んでいくことが必要です。むしろ、悲しいのは、終戦以来最大の危機に見舞われたというのに、東京ではもう既に忘却と無関心(さらには心無い差別まで)が始まっていることです。

私は、東北を見捨てた日本の経済復活はありえないし、むしろ、この東日本大震災からの復興の成否が、日本が長い経済不況から這い上がり、強い国として復活できるか否かの歴史的な分水嶺だと思っています。
強くて新しい日本の「明日」へ、東の食の会は今日も行動をします。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA文/高橋 大就(たかはしだいじゅ)
東の食の会事務局代表・オイシックス株式会社海外事業部長
1999年4月、外務省入省、在米国大使館勤務を経て、課長補佐として日米通商交渉を担当。2008年4月にマッキンゼー&カンパニー社に転職。2011年、震災直後からマッキンゼー社を休職、NPOに参加し東北で支援活動に従事する傍ら、東の食の会の立ち上げに関わり、2011年6月東の食の会発足と共に事務局代表に就任。

【注】
<一般社団法人「東の食の会」>
 楠本修二郎、高島宏平、共同代表理事。東日本の食産業の復興を長期的に支援するためのプラットフォーム。
 具体的な活動分野は以下の通り。
(1) マッチング
 東日本の生産者が作る安全・安心で美味しい食品を、小売、外食、卸などの食品販売企業に紹介し、マッチングをすることで、生産者に新たな販路を提供する。
(2) ブランディング
 東日本の生産者のストーリーや美味しさを消費者に対して発信することで、需要を喚起する。
東北6県各県にて、ご当地食材で「巻いた」新たな名産品をシェフがプロデュースする「東北6県ROLL」プロジェクトを推進中。
(3) 安全安心
ホームページ上で、食品の放射能安全性に関する科学的に正しい知識と客観的な現状の情報をわかりやすい形で発信。
企業、農協・漁協、業界団体等に対して、自主的な放射能検査の導入を支援。また、会員企業、提携生産者向けに、安価なサンプル検査委託の仕組みを提供。
(4) 政策提言
ファクトベースの分析により、復興の現状と課題を洗い出し、必要な規制緩和等の政策、生産者側、販売側がとるべきアクションを提言。
(5) 経営基盤支援
東日本の食の生産者の人材基盤、財政基盤の支援のため、東の食の担い手となる人材の育成や、復興に関する助成金やファンドの情報を生産者向けに集約するポータルを作成。

<「復興リーダー会議」>
慶応大学グローバルセキュリティ研究所(G-SEC)主催。東日本大震災の被災地での支援活動で実績を積んだリーダーや、今後の復興を担う人々による対話と議論の場。

<「希望の烽火」プロジェクト>
岡本行夫代表理事。漁港と魚市場の早期の機能再開のため、三菱商事やキャノンなど、大手企業が参加する基金により、冷凍コンテナをはじめとする機材・資材を宮城県石巻市、気仙沼市、女川町、岩手県大船渡市、福島県相馬市などに提供。