[寄稿]2013年に向けた3つの復興テーマ

(本稿はRCF復興支援チーム藤沢烈氏からの寄稿文です)

 2012年も残すところわずかとなりました。仮設住宅で迎える厳しい冬は2年目を迎えようとしています。道路や鉄道などの交通インフラ整備は比較的順調に進み、物資や人の支援がいきやすい環境は整備されつつありますが、コミュニティ再生などのソフト面の支援には依然として多くの課題が残っています。

 こうしたソフト面の支援は企業、NPOなど民間セクターと行政との連携の力が求められる領域であり、行政民間連携による新しい社会を作っていく上でこれからの復興支援の取り組みは重要なものとなります。個人的に、今後取り組んでいくべきテーマだと考えていることは3点あります。一つ一つ見ていきます。

1.復興コーディネイター集団の組織化

 復興の最大の課題の1つは、行政・民間ともにマンパワーが不足していることです。さらに言えば、事業と組織を監督(マネジメント)できるか、リソースを調整(コーディネイト)できる人材が必要です。NPO法人ETICさんはそうした人材を官民ともに派遣・仲介する右腕派遣プロジェクトを行っていますが、さらに一歩すすめて、自治体や民間団体にたいしてアドバイスできたり、業務をアウトソーシングできたりするチームが必要だと感じています。

 例えば、RCFでは現在岩手県釜石市でスタッフが常駐し、現地自治体や住民の課題・ニーズ把握、復興に向けた企画業務等を行っています。被災地全体にこうした動きを広げるには、様々な団体・企業と連携しながら復興コーディネイター業務を行う新しい組織がさらに必要だと考えています。釜石における地域コーディネートの動きをモデルとし、今後被災地全体に横展開していきたいと思い、活動しています。

2.被災地の情報化

 岩手の遠さや、福島の事情を考えると、東北に足を運んだり移住したりするのはけして簡単ではありません。メディアの露出が下がっていけば、せっかく再建しつつある事業者も目立たなくなりますし、一部被災者の皆さんの苦しみが伝わらなくなります。一言で言えば、被災地の情報化が求められると考えます。単なる風化防止ではありません。ネットを通じて徹底的に被災地域を見える化することが重要です。

 例えば浪江町は被災前1,000の事業者があって今は250程度が再開しているとのことですが、その事業内容や経営者のつぶやきや雇用情報やネット通販情報等を、”すべて”見えるようにする。日本のどの地域よりも、お店やサービスや取組みを遠くから知ることができる。しかも双方向のコミュニケーションがリッチに実現できる。そうした環境を作りたいと考えています。

 現状の取り組みでは、Sanriku Worksさんが三陸沿岸で地域の復興に向けて事業を再開した企業・団体をホームページで紹介しています。事業者の思いや現状を掲載しており、足元から産業復興が進んでいく過程を被災地以外の人にも見える化しています。こうした支援により、現地に行く人やものを買う人を増やし、経済が回る仕組みをつくっていくことが重要です。

3.東北に新しいコンセプトを

 東北は、これからの日本と世界を考える上での最前線基地になると信じています。人口が減っていく日本の中で、どんな街をつくるべきなのでしょうか。街並み、コミュニティ、行政のあり方、交通、医療、教育、エネルギー、産業など、ゼロから作り上げられる社会での様々な試行錯誤は、全国での取組みに応用されることでしょう。すでに新しい動きの芽は出始めています。

 NPO法人カタリバが宮城県女川町・岩手県大槌町で運営しているコラボ・スクールはその例の一つです。仮設住宅などで暮らし、落ち着いて勉強する場所を失った子どもたちのために行政とNPOが連携して作った放課後学校であり、全国の個人・企業からの寄付によって運営しています。基本的な学習指導に加えて、インターネットを通じてネイティブ講師と話す「Skype英会話」や高校生が復興に向けた地域の課題を設定し、解決策を提案するプロジェクトなど、独自の学習プログラムを展開しています。

 現状の全国均一型の教育ではなく、地域の課題に沿った教育の在り方が模索されています。NPO法人カタリバ代表理事の今村久美さんは復興現場に集う30代の若きリーダーの一人です。こうした現場で活動する若者たちは、横で連携しながら10年後20年後の社会でも共に動くことになるでしょう。どの分野でも構いません、被災地発のコンセプトを1つでも多く世に問うていきたいのです。そのための取組・プロジェクトをこれからも支えていきます。

【インタビュアー】
山崎繭加(やまざきまゆか):マッキンゼー・アンド・カンパニー、東京大学先端技術研究センターを経て、現在はハーバード・ビジネス・スクール(HBS)日本リサーチ・センターにて、主に日本の企業やビジネスリーダーについてのケーススタディの作成を行う。また東京大学のリーダーシッププログラムの運営にも関与。東京大学経済学部、ジョージタウン大学国際関係大学院卒業。

retz文/1975年京都府生まれ。一橋大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て独立。NPO・社会事業等に特化したコンサルティング会社を経営。東日本大震災後、RCF復興支援チームを設立し、情報分析や事業創造に取り組む。文部科学省教育復興支援員も兼務。共著に「ニッポンのジレンマ ぼくらの日本改造論」(朝日新聞出版)、『「統治」を創造する 新しい公共/オープンガバメント/リーク社会』(春秋社)。