多様な関係者が協働 地域の魅力を発信する「東北風土マラソン」【後編】

コンテンツ企画や社員参加
資金提供にとどまらないスポンサード

アシックスの佐藤さん(右)と佐々さん。

アシックスの佐藤さん(右)と佐々さん。

 初めてのマラソン大会開催を資金面、ノウハウ面からサポートしたのが、株式会社アシックス(以下、アシックス)だ。同社は以前から継続的復興支援活動として「A Bright Tomorrow Through Sport あしたへ、スポーツとともに(以下、トゥモロープロジェクト)」を実施し、震災孤児への商品提供、スポーツ選手の派遣、健康運動支援、神戸招待の4つのプログラムを行っていたが、今回、東北風土マラソンを5本目の柱と位置づけ、共に取り組んだ。

 CSR・サスティナビリティ部の佐々浩史さんと佐藤洋佳さんは「協賛にあたり重視したのは、地域の課題に対して何ができるか、トゥモロープロジェクトとの合致性、そして実現可能性の3点です。実現可能性というのは、今回は初めての大会なので、中心になる人の力をみていました」という。協賛決定後、月に1度のペースで登米に足を運び、コースの確認を行ったり、大会当日だけでなく事前にも子どもの運動能力を向上させるプログラムを実施した。また、アシックスからの提案により大会に「キッズラン」という小学生~高校生向けの部門が加わり、多様なランナーの参加につながった。

 アシックスは大会協賛の機会を社内でも積極的に活用し、いわばwin-winの関係を築いている。「社員から希望を募り抽選で選ばれたランナーとスタッフ35名が大会に参加し、被災地を見学するツアーも行いました。参加した社員は各部署で情報を発信したり、別のCSR活動にも協力してくれるなど、会社への帰属意識が高まったと感じています」。復興支援活動において継続的な取り組みを実現するには協賛企業側が具体的なメリットを感じられることは不可欠であり、この事例は多くの企業にとってヒントになるのではないかと思われる。

 佐々さんは、東北風土マラソンの今後についてこう期待する。「アシックスの本社がある神戸は阪神淡路大震災で被災し、復興しました。神戸のルミナリエは、元々は復興を願って開催されたものです。それが今ではクリスマスの風物詩になっている。東北風土マラソンも、何十年も経ってから『元はこんなルーツがあったんだよ』と言える大会になればと考えています」。

多くの関係者との協働で宮城唯一のフルマラソン大会を実現した竹川さん(左)。

多くの関係者との協働で宮城唯一のフルマラソン大会を実現した竹川さん(左)。

 多くの当事者が存在する取り組みは、時に立場の違いが対立を生んだり、意思決定が複雑になる危険もはらんでいる。東北風土マラソンはなぜ、多様なステークホルダーがまとまることができたのか。発起人の竹川さんはそのポイントを「普通のことだけど、相手の話をきちんと聞くこと、想いをきちんと伝えること」という。「実現したかったのはマラソン大会の開催そのものではなく、東北に人を呼び込むことであり、産業を活性化すること。だから、関係する方たちの意見はどんどん取り入れ、当初自分立てた企画にこだわらず、内容を変えていきました」。

 立場の異なる者同士が強みを持ち寄り、役割を補完しながら実現した「ランナーも、ランナーじゃなくても楽しい、宮城県唯一のフルマラソン大会」。話を聞いた三者からはコースの充実や告知強化など次回に向けた課題も次々と挙がっており、第2回大会開催に向けての準備がすでに動き出している。

→→【前編】

文/畔柳理恵