小さくても持続可能な地域をいかにしてつくるのか?ー宮城県石巻市蛤浜 住民5人からの再出発【前編】

蛤浜再生プロジェクト代表亀山 貴一さん 2012年3月に蛤浜再生プロジェクトを立ち上げ。2013年3月には7年間勤めた宮城県水産高等学校を退職し、現在はプロジェクトに全力を注ぐ。蛤浜蛤浜出身。

蛤浜再生プロジェクト代表亀山 貴一さん 2012年3月に蛤浜再生プロジェクトを立ち上げ。2013年3月には7年間勤めた宮城県水産高等学校を退職し、現在はプロジェクトに全力を注ぐ。蛤浜蛤浜出身。

宮城県の三陸沿岸。昨年オープンしたひとつのカフェが話題となっている。石巻市中心部から車を走らせること20分。牡鹿半島にある人口5人の小さな浜にできた古民家カフェ「はまぐり堂」は、1年で1万人を越える人を集めた。代表の亀山貴一さんが描くのは、カフェの成功だけでなく、まったく新しい浜の未来だ。この小さな浜は今後も持続していけるのか?そのためには何が必要か?多くの人を惹きつけ様々なプロジェクトを形にする蛤浜の挑戦に迫った。

すべては1枚のスケッチから

宮城県石巻市蛤浜。9世帯のみが暮らしていた小さな漁村の人口は、津波被害により3世帯、5人にまで減少した。浜の存続も危ぶまれる状況の中、この地で生まれ育ち、石巻市の水産高校に勤務していた亀山さんが「蛤浜再生プロジェクト」を立ち上げたのは2012年3月のことだった。

地域の持つ魅力を最大限に活用し、人が集い、人がつながる浜をつくりたい。そう考えた亀山さんはそのビジョンを1枚のスケッチとして形にした。繊細なタッチで描かれたそのスケッチの中心には、ウッドデッキが特徴的なカフェ。周りにはレストランやギャラリーが並び、海辺はマリンレジャーを楽しめるようになっている。

はまぐりWedding

観光客が来る事は皆無だったという浜で彼が描いた新たなふるさとの未来は、ボランティアや外部支援者たちを次々に惹きつけて行く。巨額の資金は集まらない中でも、できるところから始めようと2012年秋頃に本格的にカフェの準備に着手。亀山さんの右腕となってプロジェクトを引っ張ったのは、元々ボランティアで石巻に来ていた魚谷浩さん。ふるさと再生を誓う亀山さんのアツい思いとビジョンに共感し参画を決めたと言う。

共感は魚谷さんだけに留まらない。プロジェクトにはこの2年でのべ約3千人のボランティアが参加し、土地の開墾から家屋の修繕などの作業を手伝った。その他にも、協賛や社員研修などの形で多くの企業も蛤浜を訪れた。

カフェを起点に次々と動き出した別プロジェクト

はまぐりWedding

亀山さんのビジョンを元に、多くの人々の力が結集したカフェ「はまぐり堂」が完成したのは2013年の3月。古民家を改修した店内は大きなガラス窓越しに海を臨み開放感にあふれ、レトロな机や椅子、ちゃぶ台に座布団が↑

並びどこか懐かしさが感じられる。オープン後に多くの雑誌などで「オシャレなカフェ」として紹介されたのも納得だ。

オープンから今年の2月までの1年で1万人が訪れ、3月以降も集客は順調。今年は2万人に届きそうな勢いだ。そんなカフェがもたらしたのは、売上以上の効果だった。「1年かけてやっとカフェのオープンにこぎ着けました。一息つく暇もなく、他のプロジェクトが次々と動き出したんです」と亀山さん。キャンプ場に漁家民泊、ツリーハウスという異なる3つの企画が、わずか半年ほどの間に具体化し、いずれもこの夏までのオープンというスピード感で進行している。

「震災から時間がたち、ボランティアの受入れができる場所が減ってきましたが、東北で何かやりたいという外部の方のニーズは依然としてありました。カフェで今まで以上に多くの方にお会いできるようになった上に、僕らはカフェの先にやりたいことが沢山あったので、様々な形で多くの方を受け入れることができました」。元々持っていた人を惹きつけるビジョン、それにカフェという集客装置が加わることで、加速度的に物事が動いていった。

→「学びの浜、そして多様性が持続する未来へ」【後編へ】