[岩手県陸前高田市] “応援株主”による新拠点・「箱根山テラス」9月開業 町をソーシャルビジネスの集積地へ

研修や催し、宿泊できる施設「箱根山テラス」。9月のオープンに向け建設が進む様子は、専用のフェイスブックページでもアップしている。

研修や催し、宿泊できる施設「箱根山テラス」。9月のオープンに向け建設が進む様子は、専用のフェイスブックページでもアップしている。

 陸前高田から大船渡へ向かう国道45号線沿いの高台に、この7月、イオンスーパーセンター陸前高田店がオープン。新たな商業施設の出店に伴い、地域経済の活性化が期待されている。一方で、被害の大きかった陸前高田駅周辺の中心市街地復興にはまだ時間がかかる。大手資本の商業施設が先行することで、駅前商店街を核としたまちづくりの効果が薄れてしまうのでは、と懸念する声もある。

 市内初となる災害公営住宅(下和野団地)が今年9月に完成するなど、住民の暮らしにも明るい兆しが多少見えるものの、本格的な復興に向けた課題は多い。隣接する大船渡や気仙沼における漁業のような基幹産業がなく、第1〜3次産業がバランスよく地域経済を支えていた陸前高田では、シンボリックな復旧・復興の姿が描きにくいという背景がある。

 復興まちづくり会社「なつかしい未来創造」副社長の町野弘明さんは、「震災前に戻すのではなく、むしろ白いキャンバスに絵を描くような、新しいまちづくりが必要だ」との思いで、2011年9月から陸前高田の復興支援に携わってきた。

 現在描いている青写真の一つが、ソーシャルビジネスのインキュベーションタウン構想だ。震災から3年が過ぎ、復興予算が削減されるなか、国の支援に寄りかかっているわけにはいかない。そこで、地域課題を解決するソーシャルビジネスを起こして、出資という形で資金提供を受け、適切に還元しながら、結果的に地域も潤う仕組みをつくろうという発想だ。

地域から起業家を生み、育てたい

陸前高田市復興まちづくり会社「なつかしい未来創造」の町野弘明さん

陸前高田市復興まちづくり会社「なつかしい未来創造」の町野弘明さん

 なつかしい未来創造は、連携する一般社団法人ソーシャルビジネス・ネットワークを母体として、2012年度の内閣府による雇用創造事業の一環で、気仙地域に起業家40人を輩出した実績を持つ。例えば、Uターンの若者による陸前高田産のぶどうを原料にした石鹸の販売、主婦仲間でパン製造・店舗運営を行うコミュニティカフェ、海沿いの長洞集落に住む女性・高齢者による水産加工品の開発・販売や漁業体験の提供、米崎地区のリンゴを使った地ビールの全国発信など、以前なら「ビジネス」には縁遠かった人も新たな生業づくりに挑戦した。内閣府の事業自体は単年度で終了したが、こうした取り組みを息の長いソーシャルビジネスに発展させたいという願いもある。

 そうした思いの実現に一役買いそうな施設が今年9月にオープンする。市内の東端、大船渡との市境に近い箱根山(標高446・8m)の中腹に建設中の「箱根山テラス」だ。地元の木材をふんだんに利用した木造2階建て。眼下には風光明媚なリアス式海岸を望み、海からの風が心地よい。「テラス」は研修施設と宿泊施設の機能を備え、まちづくりや起業に関する研修やワークショップの会場として、また遠方から観光やボランティアに訪れる人の宿泊施設としても活用していくという。

 建設にあたっては一口5万円の「応援株主」を募集。集まった750万円は初期費用の一部に当てた。国や自治体などの公的な支援ではなく、「陸前高田を応援したい」という人の出資によって復興を支える試みの第一歩といえる。「地元の人だけでまちづくりを進めるのは厳しい面もある。域外の人が楽しみながら関わり続ける仕組みが必要。箱根山テラスがその拠点になれば」と町野さんは期待を込める。

 これまでなつかしい未来創造が牽引してきた箱根山テラス事業だが、7月からは新たな運営主体として地域発で生まれた株式会社箱根山テラスにバトンタッチする予定だ。陸前高田や気仙地域のみならず、全国の人々の間にも新たなつながりを生み出す場になるよう、9月開業を目指して走り始める。