[福島県南相馬市 小高区] 2年後の完全帰還へ向け新拠点「課題」と「価値」の見える化を

避難指示の解除まで立ち入れるが泊まれない

 原発事故の直後から警戒区域に指定され、全住民約1万3千人の避難生活が続く、福島県南相馬市の小高区。2年前からは「避難指示解除準備区域」に指定され帰還準備のための立ち入りができるようになったが、宿泊することができない。現在2016年4月の完全帰還を目指し、除染作業やインフラ整備などが進められている。

 帰還へ向けての課題は多い。作業員不足などにより除染作業は予定から遅れ、資材や人員不足により家や事業所を直すにも建設業者の確保も難しい。昨年8〜9月に行われた南相馬市の住民意向調査によると、その時点で明確な帰還意志を示しているのは3割に満たない(全体の約9割が小高地区住民による回答)。その数字は20代では7・3%、30代で8・6%と更に小さくなり、完全帰還後は高齢者中心の町となる可能性が高い。

小高区の中心地、元々は宴会場だった建物の中にオープンしたコ・ワーキングスペース。この日は、帰還を決め、事業の立ち上げを企画する住民の方と支援者が打ち合わせをしていた。左側が代表の和田さん。

小高区の中心地、元々は宴会場だった建物の中にオープンしたコ・ワーキングスペース。この日は、帰還を決め、事業の立ち上げを企画する住民の方と支援者が打ち合わせをしていた。左側が代表の和田さん。小高区の中心地、元々は宴会場だった建物の中にオープンしたコ・ワーキングスペース。この日は、帰還を決め、事業の立ち上げを企画する住民の方と支援者が打ち合わせをしていた。左側が代表の和田さん。

課題こそが一番のビジネスチャンス

 こうした中、今年5月に立ち上がったのが、原発避難区域では初となるコ・ワーキングスペース「小高ワーカーズベース」だ。帰還へ向けて準備をしたい住民や、小高地区で仕事やビジネスを考える外部人材のためのスペースとして、電源やインターネット環境、会議室等の働く環境、そして人が集える「場」を提供する。

 「課題は山積みですが、だからこそ小高は大きなチャンスがある場所なのです」と語るのは、ワーカーズベース代表の和田智行さん。そして、課題をチャンスに変えるためのカギは、情報にあると言う。「例えばいまここでは、毎日1千人を越える除染作業員が来ています。また数年後には、帰還者が例え3割でも数千人規模の商圏ができる予定です。でも現在は、コンビニは週に2回の移動販売車が来ているだけなんです。ほんの一例ですが、こうした情報はビジネスチャンスにもつながると思います」。

 今どれくらいの人が、どのように帰還準備を進めているのか。どこでどのような事業が再開するのか、その上で何が課題となっているのか。さらに今どれだけの市民団体や支援団体、視察者が小高に訪れているのか……。課題や価値、ビジネスチャンスを導くためにはこうした地域の情報が描かせない。小高ワーカーズベースが情報ハブとなり整理・発信していくことが、地域住民や外部の企業や人材が、小高地区で新しく何かを始めるきっかけになると和田さんは話す。

人が集える「食堂」もつくりたい

 今後は情報発信や場所の貸し出しに加え、セミナーやイベントなどを通じて小高に関わる人を増やしていく。そして、もう1つ企画しているのが、食堂の運営だ。多くの人が出入りしているのにも関わらず、食事をとれる場所がないという小高の課題。その解決施策を、地域の方とともに自ら行う形で。シェフは地元の主婦の方や、帰還を目指していたり既に避難先で事業を再開されている飲食関係の事業者を予定している。

 

 避難区域内ということで、物件の確保から近隣住民の理解、保健所の認可まで課題は多いが、なんとか形にしたいと日々奮闘する和田さん。課題があるからこそ、課題解決に挑む貴重な人材が集まることは、震災によって明らかになったことの一つだ。この新たな拠点から、これからいくつの取り組みが生まれるのだろうか。