「釜援隊」が社会を変えるかもしれない3つの理由[まちづくり釜石流]

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いま、岩手県釜石市で「釜援隊」というUIターン者を中心とする若い世代が復興まちづくりのフィールドで活躍しています。銀行・テレビ番組制作・広告代理店など多様なビジネス経験を持ち、単なる災害復旧(=震災前の状態に戻すこと)にとどまらない新たなコミュニティ形成や地域振興に挑戦する彼らは、釜石の復興に欠かすことのできない存在になりつつあります。本稿では「まちづくり釜石流」のイントロダクションとして、釜援隊が社会を変えるかもしれない3つの理由についてお話します。

1.社会の役割分担を再定義する試みであること

一年前に寄稿した記事の中で、釜援隊を「社会の役割分担を再定義する試み」と表現したことがあります。市直轄のヨソモノまちづくり集団として活躍する彼らは、震災後に拡大したパブリックサービス(行政機関の担う公機能)を補い、「住民と行政」「市内と市外」「理想と現実」といった狭間(はざま)で価値を生み出しています。過去に経験のない膨大な事業執行を求められている被災自治体は職員のマンパワー・専門スキル不足という課題を抱えており、民間出身の釜援隊は行政機関とうまく棲み分け・協働をしながら、釜石の復興に資する取り組みを推進しています。具体的な活動事例は今後紹介していきますが、第三者による組織的な地域への関与は、新たなまちづくりの可能性を示すものと言えるでしょう。

(以下引用)
釜石リージョナルコーディネーターという正式名称が示すとおり、釜援隊は「コーディネーター」です。単なる作業員でも自分たちのやりたい事業を押し進める存在でもありません。それは、間(=はざま)で価値を生み出していくことを意味しています。釜援隊が市の職員ではなく、新たに設立した協議会とのフリーランス契約によって運用されているのも、コーディネーターとしての役割を期待されているからに他なりません。

もし私たちの取組みが他の地域にとって特別な意味を持つことがあるとすれば、それは「釜援隊が社会的な役割分担を再定義する試みである」という点においてです。コーディネーターとして行政と住民の間、市内と市外の間、理想と現実の間で日々頭を悩ませながら価値を生み出していくことは、「行政のやるべきこと」「個人のやるべきこと」「中間支援組織のやるべきこと」を見つめ直し、このまちにとって最適なやり方を一つ一つ定義していく営みに他なりません。第三者による組織的な地域への関与と、若い世代の社会に対する違和感から生まれる熱量は新たなまちづくりの可能性を示しています。
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2.都市から地方への人口移動を促す試みであること

現在12名の釜援隊が活動しており、今年6月に開催した第3期採用説明会には約50名が参加し、第1期から3期までの累計で120名以上の方々にご応募を頂きました。世界一のスピードで人口減少・少子高齢化が進展する日本の地方都市にとって、釜援隊の取り組みは、都市から地方への人口移動を促す試みとしても1つの参考事例となるでしょう。2040年までに20~39歳の女性が50%の市町村で半減するという衝撃的なレポートを公表した日本創世会議・人口減少問題検討分科会によれば、釜石市の若年女性人口変化率はマイナス60%を越えると推計されています(※1)。UIターン者を含めた若い世代がその土地に暮らし、活躍できる「余白」をどうつくっていくか、本連載で取り上げていきます。

3.人口減少時代の「復興」を定義する試みであること

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最後に、釜援隊のビジョン・ミッションを紹介します。釜援隊はビジョン(=地域の理想の姿)として図1のサイクルを回していくことを掲げています。サイクルの主語は釜石に暮らす人々であり、そのビジョンを達成するために必要なミッション(釜援隊がやるべきこと)を定め、各隊員の目標設定や優先順位付けの判断基準としています。このビジョン・ミッションの根底には、未来の釜石を担っていく主体は市民一人一人であるべきという信念があります。
京都大学防災研究所が、震災体験を肯定的に評価している人ほど生活復興感が高まるという調査結果をまとめています。震災体験の肯定的評価とは、「震災経験を自分の中で意味づけできているかどうか」「現在は肯定的な方向に進んでいると感じているかどうか」によって定義され、これらは「重要他者(自分の人生を肯定的にとらえ直すきっかけとなった人)との出会い」「つながり(他者への信頼など)」「まち(近所づきあい、地域活動など)」と相関関係があるそうです(※2)。
震災の復旧対応に加え、震災前からの少子高齢化や産業空洞化の問題に直面する三陸沿岸地域においては、そもそも「復興」を定義していくこと自体が難しい状況にありますが、多様な主体によるまちづくりへの関与こそが、地域が地域の誇りを取り戻す起点となっていくのではないかと考えています。

連載コラム「まちづくり釜石流」では釜援隊の活動を中心に、企業連携や外部人材活用を推進する釜石市の復興プロセスを共有し、人口減少時代におけるまちづくりの未来を綴ってまいります。

文/石井 重成 釜石市復興推進本部事務局兼総合政策課 係長(官民連携推進担当)

※1 2010年→2040年、このまま人口移動が収束しない場合
※2「阪神・淡路大震災からの生活復興2005-生活復興調査結果報告書-」を参照