震災以降立ち上がった東北の団体のリーダーの元に、若手経営人材「右腕」を3年間で約200人派遣してきた「右腕派遣プログラム」。「右腕」を受け入れる東北のリーダーのインタビューを紹介します。
福島第一原子力発電所から100キロメートル以上離れた、福島県河沼郡会津坂下町。この町の位置する会津地方には、原発事故後に多くの方が避難してきました。
この町で育ち、伝統素材「会津木綿」で地域の女性の仕事づくりに取り組んでいるのが、谷津拓郎さんです。震災当時のことからプロジェクトを始めるきっかけ、今後の展望などについてお話を伺いました。
―震災以降、ダイバーとして石巻に関わるようになった経緯を教えて下さい。
もともと、母親が南相馬の原町出身、父親が石巻の出身で、私自身は大学入学までは仙台で育ちました。震災で父方・母方の親戚達が被災し、福島のいわきの大学卒業後、私は神奈川でダイバーとして働いていましたが、一旦仙台に戻り、被災した親戚達の受け入れを始めました。ダイバー仲間達が、被災地で行方不明の被災者の捜索部隊を立ち上げましたので、2011年の6月から石巻の海で瓦礫撤去、行方不明者の捜索に加わりました。私も神奈川のダイビングショップをやめて、水中の土木作業をしたり、しばらくは作業ダイバーとして生計を立てていました。
—ダイバーが、震災時に捜索部隊として活躍した。
震災が起きて、日本全国はもちろん、海外からもプロダイバーが集まりました。これほどの大勢のプロダイバーが集まるのは、世界初だったのではないかと思います。震災時の遺体捜索や瓦礫撤去などもプロダイバーの方と一緒に思考錯誤しながら捜索活動を行ってきました。自分たち民間のプロダイバーがいなかったらできなかったことが多くあったと思います。そんな中で、今は瓦礫の多い東北の海でもレジャーをできるようにしたい、そのためにはもっと地元にダイバーが必要だと考え、「宮城ダイビングサービスハイブリッジ」を2012年に立ち上げました。
―瓦礫撤去や捜索活動はいつまで続いたのですか?
3年経った今でも、遺族の方から捜索依頼の連絡が来ます。「3年経った今でも?」と思うかもしれませんが、遺族の方からすると、「骨一本でもいいから見つけてほしい」とおっしゃる方が多いです。形見すら見つからず、心の整理がつかないと。もちろん、時が経てば経つほど、探し出すのは難しいと遺族の方にははっきりと伝えます。それでも、話し合いの上で、探してほしいと言われます。見つけることは最終目標ですが、その過程が遺族の方にとって大切なのだと私は思っています。自ら捜索をしたいのでダイバーのライセンスをとりたいという方もいらっしゃいます。そうして、いつの間にか、前向きな気持ちになって、海に行くのが怖かった方でも、海に行けるようになった方もいます。だから私は、依頼される限り、捜索活動を続けたいと思っています。
—ハイブリッジが創設されて約2年になりますが、手応えはどのように感じていますか?
最近、やっと形になってきたと思います。地元の漁師達とも関係が作れてきたと思いますね。最初は漁師の方達は、ダイバーを自分たちの海を荒らす存在、というイメージで見ていたと思いますが、海でのルールを作ったり、漁師の方達の仕事を手伝いに行ったりする中で、少しずつ信頼関係を築いて来たと思います。最初は壁を感じていましたが、少しずつ友達のような感覚が芽生えてきて。今は、「こいつらは大丈夫だ」って思ってもらえていると思います。
—ダイバーと漁師が共存するって、あまりない例だとも思いますが。
もともと、東北にはほとんどダイビング施設がありませんでした。それは、漁師の方々の了承を得ることができなかったからだと聞いています。でも、震災があったからこそ、それまで接点のなかったダイバーと漁師が繋がることができた。私たちは、ダイビングスポットの開発のために生物調査も行っていますが、よいスポットを漁師の方達が教えてくれるんですよ。もちろん、ともに海を楽しむ仲間として、勝手に海の資源をとらないなどの約束やルールをしっかり作っています。今では、ダイビングによって若い人が地域に入ってくることは、人が減りつつあるこの街にとっても良いことだ、と考えてくれる漁師の方も多いと思います。
—地元漁師さんとの信頼関係をつくられた上で、この事業は成り立っているのですね。では、今後に向けてのビジョンを教えてください。
私は今後も宮城県の三陸の海に潜り続けて、海をきれいにし続けたいと思っています。陸の瓦礫撤去は進んでも、海の撤去はまだまだですから。その上で、この石巻、女川の海を盛り上げたい。
私は、ここでしか出来ないことがあると思っています。例えば、冬の北海道の海ってダイバーにとても人気なんですよ。その時期にしか見られない生物が見られて、流氷ダイビングも人気です。この東北の海は、今まで漁師さんとの関係で手付かずだった分、全部ゼロからスタートすることができる。新しい生物だって見つかるかもしれません。ここの魅力を見つけて発信していけば、もっと東北の海にダイバーが集うと思っています。
海を愛し、海とともに生きる高橋さん。世代や職業を越えて、海で繋がる人たちが、これからもどんどん増えていくといいですね。ありがとうございました!
記事提供:みちのく仕事(NPO法人ETIC.)
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