地元蔵人が刻む地産池消の歴史[笑顔の架け橋Rainbowプロジェクト]

01太平桜酒造合資会社
創業は1725年の「太平桜酒造合資会社」は代表である大平(おおひら)さんで9代目となる老舗の酒蔵。
敷地のなかに桜の老木があり、先人がその風景から「太平の桜を愛でて酒を酌み」という詩を詠ったことから「太平桜」と名づけられたということです。
福島県産米を100%使用し、手間を惜しまず、じっくりと仕込んだお酒は、出荷数量の9割以上が地元消費。また季節によっては直営店でしか販売しない珍しいお酒もあります。
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300年近くこだわり続けた「地産池消」

太平桜酒造合資会社9代目代表の大平(おおひら)さん

太平桜酒造合資会社9代目代表の大平(おおひら)さん

いわき湯本I.Cから車で10分ほど県道56号線から狭い道を登っていくと黒塗りの塀と門、そして奥に蔵が見えます。
入口には「太平桜酒造合資会社」。
すぐに酒蔵とわかる風格は周りの家々とは違った雰囲気を漂わせていました。
門をくぐると酒林(さかばやし)とも呼ばれる「杉玉」が風にあおられゆっくりと揺れています。
いわき市史によると1725年享保10年当時、湯長谷藩のおひざ元であるこの土地には酒屋がなく、お酒を買うには藩外に行かなければならなかった。
藩外でお酒を買うと当然のように藩の金が外に流出してしまう。それはまかりならんということで酒屋をはじめたのが、この太平桜酒造のはじまりだったと、代表の大平さんは話してくださいました。

9割が地元で消費されるという太平桜酒造のつくる酒は、いわき市内でも限られたお店でしか飲めないという、いわば貴重な酒。
地産地消をモットーに福島県産米を100%使用し、手間を惜しまずじっくりと仕込む。これが大平さんのこだわりでもあります。

そんな太平桜酒造にも震災という脅威は襲ってきました。
大震災の揺れで瓶詰場の柱が傾き、道路沿いの漆喰も落ちたそうですが、酒蔵として一番の被害は断水が続いたこと。
水は温度管理に使用するなどお酒の仕込みに重要な役割を持っています。その水が絶たれるということは仕込み中のお酒を諦めなければなりません。
お酒の仕込みは冬が最盛期。3月いっぱい休むとなれば、少量のお酒をこだわって造っている太平桜酒造にとっても深刻な問題だったといいます。

老舗酒造会社の蔵に見る伝統の製法

酒蔵の風格が漂う瓦葺の門

酒蔵の風格が漂う瓦葺の門

大平さんに蔵のなかを案内していただきました。
蔵に入ると麹の甘い香りが満ちています。蔵の奥に並んでいる仕込みタンクから香っているのでしょう。
タンクのなかでは、白いもろみがプチプチと音を立て発酵していました。
取材日は三段仕込(初添、中添、留添)の留添という工程でした。発酵が進むともっと爽やかな音になるというのです。
まるで呼吸しているかのように、プチプチ、プチプチと可愛らしい音を立てていました。

おいしいお酒を造るには冬が適しています。気温が低いため微生物が少なく醸造に向いていること、アルコール発酵の温度を管理するため、温かい時期に冷ますより、寒い時期に温める方が温度調整しやすいという理由があるようです。
温度が上がってしまうときはタンクに水が通るジャケットのようなものをまいて、冷水を流し温度を下げるなど、温度管理に気を使っています。

仕込みタンクのある隣の部屋には「佐瀬式」と書かれた大きな機械があります。
これは「しぼり」の工程をする圧搾機。「佐瀬式」は大吟醸など繊細なお酒をしぼるのに向いている圧搾機です。

太平桜酒造で造られる日本酒は吟醸酒、純米酒、本醸造の3種類ですが、原酒で出すものや、火入れしたもの、米の種類が違うものなどと分類すると約30種類にもなるようです。
そのほかにも「粕取り焼酎」という酒粕を蒸留してもう一度お酒にした焼酎も造っていました。この粕取り焼酎の独特の香りは、好みは分かれますが、一度ハマるとほかの焼酎ではもの足りなくなるほどだといいます。

数年前、新潟のお客さんから「お宅の焼酎は濾過しているのか?」と電話があったそうです。
クレームかと思いきや「最近の焼酎は香りがきれいすぎて、お宅のような焼酎がなくなってきてつまらない。ずっと作り続けて欲しい。」というお客さんの言葉にほっと胸を撫で下ろし、うれしかったという大平さん。
この「粕取り焼酎」も少量しか生産していない貴重なお酒なのです。

県の酒造組合員として伝えたい安全性

留添から5日目のもろみからは高貴な香りが漂っています

留添から5日目のもろみからは高貴な香りが漂っています

繊細な吟醸酒をしぼる圧搾機はまさに機能美

繊細な吟醸酒をしぼる圧搾機はまさに機能美

福島には福島県内の酒蔵でしか使えないお米と酵母があります。
それは、「夢の香」醸造好適米と「うつくしま夢酵母」、そして「煌(きらめき)酵母」で、この3つの福島の恵みを使用して県内の酒蔵ごとに、それぞれの酒を造っています。
太平桜酒造では「夢の香 純米原酒」「いわきろまん 純米酒」「純米酒 絆」をつくっており、なかでも「純米酒 絆」は2012年に農作物の風評被害払拭のためにつくられ、「福島の米」を使ったお酒で対外的に安全性をアピールするための商品なのだそうです。
そもそも福島県では米を、全袋放射線検査をしていたので、安全は確立されていましたが、それらの検査した米を使って造られたお酒をさらに検査して出荷しています。その取組みにより、ようやく消費者に「安全」という認識が出来てきたようです。



太平さんを囲んで

太平さんを囲んで

福島県酒造組合員としての県外へのPR効果もあり、「震災以前の売り上げに戻すという最低ラインの目標は何とか達成できそうです」と大平さん。
地産地消を貫き、地元以外ではなかなか手にはいらない太平酒造の酒を、いわきを訪れた際には味わってみてはいかがでしょうか。


太平桜酒造合資会社
住所:福島県いわき市常磐下湯長谷町町下92
電話:0246-43-2053

URL:http://www.sake-iwaki.com/

記事提供:NTTdocomo「笑顔の架け橋Rainbowプロジェクト」