秘湯探訪vol.10 福島県南会津群「尾瀬桧枝岐ひのえまた温泉 燧ひうちの湯」

山の暮らしを体感する秘湯

福島県南会津群「尾瀬桧枝岐ひのえまた温泉 燧ひうちの湯」くねくね、くねくねと山道は続く。いわき市から車を走らせもう3時間はたつというのに目的地はまだ姿を現さない。このアクセスの悪さゆえに、かつては「陸の孤島」とも呼ばれた福島県桧枝岐村。そこに湧く秘湯「尾瀬桧枝岐温泉」を目指してはみたものの、これは想像以上の秘境だ。

ようやく辿りつき車を降りるとヒヤッとするほどの寒さが足元から忍び寄る。福島県側からの尾瀬への玄関口であるこの地は標高約900メートル、あたりはもうすっかり秋だ。道端にたたずむ地蔵像の向こうには、ブナの樹々が色づき一面黄色に染まった山肌が見事だ。大きく深呼吸すれば、肺の奥まで新鮮な空気で満たされて一気にリフレッシュ。

村には露天風呂付きの公衆浴場が三か所、それに民宿や旅館が点在し、それぞれに豊富な温泉が湧いている。なかでも「燧ひうちの湯」は単純硫黄泉の源泉かけ流しで、公衆浴場とは思えないほどゆったりとした露天風呂だ。玉子臭のする良質な湯につかれば、冷えた体も溶けてしまいそう。舟岐川の清流を眺めつつフワーッと背伸びすれば、ここまでの道のりの大変さはすっかり忘れてしまうほど爽快だ。

湯上りには名物の山人やもうど料理を食べに行こう。蕎麦やきのこ、山菜や川魚、熊肉や山椒魚など山のものをフル活用した料理は、米がとれない高地だからこそ生まれた料理。おのずと自然と向き合う山里の厳しい生活がしのばれる。

さあ、囲炉裏からはじゅうねん味噌をあぶる香ばしい匂いが漂ってきた。囲炉裏の薪がパチパチとはぜる音を聞きながら、秘境の夜がふけていく。(L)

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