「釜援隊」は地域おこし協力隊と何が違うのか[まちづくり釜石流]

01

政府は「地域おこし協力隊」を現在の約1,000人から3,000人に増やす方針を打ち出しています。似た制度に総務省の「復興支援員」というものがあり、これは地域おこし協力隊の被災地版といえる仕組みですが、釜石市の復興支援員「釜援隊」が第3回まち・ひと・しごと創生会議で紹介されています(注1)。岩手県・福島県の複数市町が釜援隊モデルを採用し、先日は小泉進次郎氏(復興大臣政務官)にお越し頂きました。
釜援隊は、地域が一体となって復興まちづくりを進めていくための“黒子役”なので、自身が注目されることが必ずしも望ましいとは限りません。ただ、地方創生のあり方が世に問われている中、釜石で磨いてきた外部人材活用のスキームやマネジメントノウハウが他地域でも生かせるとすれば、それは釜石という地域全体の価値向上に繋がります。本稿では、釜援隊モデルが他の地域おこし協力隊や復興支援員と比較して何が違うのか、今後の課題認識とともにご紹介します。

“三方良し”の釜援隊モデル

釜援隊は釜石市から委嘱を受け、市内NPOや復興まちづくりを担う団体とともに、コミュニティの活性や産業支援に取り組む14名の復興支援員の総称です。内12名が県外出身者で構成され、金融機関や商社、一級建築士など多様なビジネス経験を有するメンバが釜石の復興まちづくりを推進しています。“三方良し”とは「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」、つまり、売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売であるという近江商人の心得を指す言葉ですが、これはまちづくりの外部人材活用においても重要な観点となります。

【地域良し】釜石という地域にとって、釜援隊の果たしている役割は、「震災によって拡大した公領域の補完」と「原型復旧にとどまらない復興の実践」に分けて考えることができます。
前者は、住民の身近な課題解決や住民間の合意形成促進などが当てはまります。たとえば、唐丹地区生活応援センターに派遣されている山口政義さんは、小白浜地区の災害公営住宅に入居するテナント選定において地域側の調整を担い、買い物弱者対策として無人販売の実証実験を岩手県立大学と協同で実施しています。おはこざき市民会議で活動する下川翔太さんは、地域のキーパーソンらとともに造成工事が早く進んでいる他地域の視察を企画コーディネートすることで、“土は足りるのか”“工事はどのように進むのか”といった地域住民の素朴な疑問・不安を解消し、復興事業に対する理解の底上げに貢献しています。
02後者は、(役場の苦手な)0から1を生み出す活動や、おもしろいヒト・コトが有機的に繋がる土壌づくりなどが当てはまります。先日「ミッフィー&オランダフェア in 釜石」という市内イベントに合わせ、中心市街地を1台の観光馬車が走りました。かつて、栗橋地域には馬と人が一緒に曲がり屋で暮らしていた歴史があり、今回の馬車運行は釜石の失われた文化を現代ニーズに合わせた形で再構築することを目指しています。来年度は市事業としての運行も検討されており、“(釜援隊が)小さく生んで、(市が)大きく育てる”好事例と言えるでしょう。釜援隊が様々なプレーヤー間の触媒となることがテーマ型コミュニティの形成・活性化に繋がり、新しいチャレンジが生まれやすい空気感を醸成します。

【本人良し】隊員本人にとって、釜援隊として復興まちづくりに関わることは貴重なキャリア形成の機会となります。都市部で暮らしていると“人口減少社会”などと聞いても、正直あまりピンと来ないのではないでしょうか。私も都内の民間企業に勤務していた頃は、「世界一の人口減少・超高齢社会がやってくる」と統計データを見ることはあっても、肌感はありませんでした。それが三陸では違います。震災復興(=災害復旧×地域課題解決)という目に見えやすく、大きすぎる課題の中に身を置き、行政・企業・NPO・市民の垣根を越えて仕事をする釜援隊のライフスタイルは「トライセクター・リーダー」としての経験に通ずるものがあります(注2)。ここで習得した各セクターの思考・言語や分野横断的な人脈、状況判断力などは自身の新しいキャリアを切り開くための武器となるでしょう。

【世間良し】他地域にとって、釜援隊は外部人材活用の1つのモデルケースとなるでしょうし、過去の記事『「釜援隊」が社会を変えるかもしれない3つの理由』でも紹介しましたが、都市から地方への人口移動を促す試みとしても有用です。現在、議論されている地方創生のポイントである「UIターン促進」や「地域主体の取り組みを推進」といった文脈においても、釜石での経験を広く共有していきたいと考えています。

他の地域おこし協力隊・復興支援員と何が違うのか?

釜援隊モデルの差別化要因は大きく「雇用形態」「人員配置」「集合体としてのビジョン・ミッション」「PDCAサイクルマネジメント」の4つに分類されます。1つは、フリーランスという働き方そのものです。釜援隊は、釜石リージョナルコーディネーター協議会と業務委託契約を結ぶ個人事業主の総称であり、市・受入団体の雇用でないことが“第三者”としてのポジションを確立させます。80%ルールという仕組みがあり、隊員が希望すれば、稼働時間の80%は派遣先の関連業務に従事し、20%は釜石の復興に資する活動に取り組むことができます。このような雇用形態・運用は、所与の制約条件の中で隊員の自由度を高め、新しいチャレンジを生み出すための「余白」をつくります。

03

2つは、人員配置におけるテーマ軸×地域軸のクロスファンクションという考え方です。隊員は観光・産業・福祉といったテーマ毎の課題解決に取り組むテーマ軸チームと、特定の地域コミュニティに関する課題解決に取り組む地域軸チームのどちらかに所属します。週一回の定例ミーティングを通じて情報共有しながら、複数隊員による協働企画を推奨することで、個別の活動を越えたシナジー効果が期待できます。また、個々人が孤軍奮闘するのではなく、チームとして働くことのできるマネジメントスタイルは、とりわけIターン者に対するストレスケアとしても有効です。

04

3つは、釜援隊という組織全体のビジョン・ミッションの存在です。隊員が地域で活動する上で「個人のやりたいこと」「派遣先のやってほしいこと」「行政のやってほしいこと」をすり合わせるプロセスは不可欠です。地域おこし協力隊など、外部人材による地域おこしは、ややもすると“お願いされたことは全部やる(少なくともやろうとする)”となりがちですが、地域との信頼関係をベースとしながらも、活動を取捨選択していかないと3年経った時に“結局、何をしたんだっけ?”となってしまいます。3か月かけて制作したビジョン・ミッションは、自身を振り返り、活動の優先順位をつけていくための軸となります。

4つは、目標設定・管理とフィードバックの仕組みです。全隊員は定量的KPIを含めた目標設定シートを作成し、担当マネージャーと方針・調整方法などを議論しながら、市担当部局である復興推進本部事務局との定例ミーティングで進捗を報告します。“地域に若い人が来てくれただけで嬉しい”とは一線を引き、PDCAサイクルの確立していくことが活動の質を向上させます。

今後の課題認識

1つは財源です。釜援隊の原資となっている復興支援員制度は恒久的な財源措置ではないため、制度終了後も活動を継続していくには、(1)市事業として実施、(2)他制度に切り替え(地域おこし協力隊などの既存制度、新規の制度要望など)、(3)釜援隊で稼ぐ、という3パターンしかありません(合わせ技を含め)。市財政が厳しい状況下で(1)に頼ることは困難でしょうし、仮に運営方針を(3)に舵を切った場合、キャッシュを生まない活動を継続できないリスクが生じます。社会情勢を見極めつつ、地域に必要な機能を残していくために知恵を絞っていかなければなりません。

2つは成果の可視化です。釜援隊の活動には定量的に評価しにくいものが含まれます。コミュニティ内のお喋りを増やす、新しいチャレンジが生まれやすい土壌をつくるといった活動はどのように評価されるべきか。SROIやLBGによるコミュニティ開発指標(注3)といった知見を取り入れながら、釜援隊の活動・成果を定義し、発信していくことが隊員の正当な評価に繋がり、「地域づくり」や「地域コーディネーター」といった分野に有能な人材が還流する契機となるはずです。

連載コラム「まちづくり釜石流」では釜援隊の活動を中心に、企業連携や外部人材活用を推進する釜石の復興プロセスを共有し、人口減少時代のまちづくりの未来を綴ります。

文/石井 重成 釜石市復興推進本部事務局兼総合政策課 係長(官民連携推進担当)

注1 首相官邸ホームページを参照
注2 「公共、民間、社会の3つのセクターの垣根を越えて活躍する人材」を指す。『ハーバード・ビジネス・レビュー(ダイヤモンド社、2014年2月号)』p.110-124を参照
注3 LBGホームページを参照