震災直後、多くの企業人がボランティアという形で東北を訪れた。ヘドロやガレキの撤去など多くの人手が必要となる作業において企業ボランティアは大きく貢献し、早期の復旧を後押しした。
復興が進み人手を要する作業が少なくなる中、「社員研修」という形で被災地を訪れる企業がある。企業が被災地と関わり続ける意義とは何なのか、研修の現場に潜入して探った。
株式会社富士通エフサス(神奈川県川崎市。以下、富士通エフサス)では、2014年4月に入社した新入社員が研修の一環として石巻、女川を訪れ、復興支援活動を行った。
同社は震災直後から、被災した顧客のICTインフラの復旧支援やチャリティーコンサートの開催などの活動を行ってきたが、2013年から、被災地に継続的に寄り添うとともに、新入社員が企業の理念を理解する機会として、被災地での新入社員研修を実施している。昨年の初回実施後、現地を訪れてヒアリングを実施したところ、受入先から「ぜひまた来てもらいたい」との声が上がり、今年も実施することを決めた。
復興支援室室長の小泉治(おさめ)さんは研修の意義について、「被災地で何が起きているかを知り、何ができるかを考えることより、一社会人としての成長を図るとともに、お客様とのつながりが強い当社としては、社員がお客様起点で行動することにつながるものと考えている」 という。
今年は105人の新入社員が3グループに分かれ、被害の大きかった女川町中心街や石巻市大川小学校の様子を見学したほか、花壇の整備などの支援活動を実施した。
2日目の夜には女川町の若手事業者とのディスカッションの時間が設けられ、震災直後の女川町の様子や、地元企業としての復興支援活動についての話を聞いた。最終日にはグループワークを実施し、研修を通じて得たものを共有した。
2泊3日の日程を終了した新入社員からは、「石巻、女川地域全体のことを知るいい機会になった。特に、地元の事業者の方から震災直後に採算度外視で被災者の方にかまぼこを配布したエピソードに ついて直接聞けたのが印象的だった」「実際に来てみると予想以上の被害の大きさを感じる一方、現地の方々の話を聞いて、思っていた以上の回復力を感じた。これからは周囲の人にも被災地の状況を伝えていきたい」といった感想が聞かれた。
富士通エフサスでは、今回の研修に先立って7月に横浜の自社施設で事前学習を実施している。映像などにより被災状況を確認したうえでグループワークを行い、参加者の動機づけを図った。また、事前課題も課し、被災地の状況を主体的にとらえる準備をして現地を訪れたという。研修プログラムの開発に携わる人財総務本部人材開発統括部の齋藤成施(まさし)さんは、「震災遺構の保存の是非ひとつとっても、ディスカッションを行うと、同期の中でも意見が割れる。その体験をすることで、現地での合意形成の難しさも実感できたのではないか」という。
現地受入先とのコーディネートを担当した、みやぎ連携復興センターの高橋智誓さんは、「震災によって、それまで見えにくかった課題が顕在化した地域の状況を知ることは、これから起こりうる災害や日本がこれから直面する地域課題にどう対処するかのヒントを得る機会になる。社員が実際に現地を訪れ、今東北では何が起きていてそこに対して企業として何が出来るのかを考えることは、きっと将来の日本社会に役立つはず」と、今後より多くの企業の社員が訪れることに期待を寄せた。
企業にとって、課題はビジネスチャンスでもある。「課題先進地」と言われる東北で、現地の課題を知り現地の人に寄り添う経験は、顧客の課題を解決するビジネスの芽を見つける訓練をするのに最適な場所と言えるのかもしれない。