多種多様な組織と人をつなぎ 連携を生んだ経験を次のキャリアに生かす[日本財団 WORK FOR 東北]

「WORK FOR 東北」は、被災地の自治体等への民間企業による社員派遣、個人による就業を支援し、人材の面から復興を後押しするプロジェクトです。
復興の現場に社員を派遣している企業、および、赴任した方々のインタビューを紹介します。

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在籍企業からの出向で2年間東北へ赴任し、2014年4月に帰任した方に話をお聞きしました。

Q:宮城復興局に出向しようと思った経緯を教えてください。
A:私は2011年5月に「プロジェクト結コンソーシアム」という一般社団法人をプロボノで仲間と立ち上げて、個人・NPO・企業・行政などが垣根を越えて復興に携わる活動に会社公認で取り組んでいました。それもあり、復興庁ができた直後に会社として協力することになったとき、自然と私に声をかけてもらい、2012年3月からの出向を決めました。

Q:担当された業務について教えてください。
A:メインの業務は、NPO・被災者支援と企業連携の推進です。後者については、同時期に民間企業から出向していた10名と各省庁から出向していた数名のメンバで色々なアイデアを出しあい、その中から私の企画案を元にした地域復興マッチング「結の場」を復興庁事業として立ち上げました。

【復興庁HP:「結の場」ポータルサイト

「結の場」とは、被災地域の企業が抱えている経営課題の解決や経営力の強化のため、大手・中堅企業の持つ経営資源を効果的につないで、地域経済の立て直しを目指す仕組みで、宮城県内では、石巻市、気仙沼市、南三陸町、亘理山元の4地域、ほかにも岩手県宮古市と福島県福島市で展開され、約50のマッチングが成立して活動を始めています。

Q:いちばんご苦労されたのはどのような点でしたか?
A:当初、現地の復興局も各役所から出向された人ばかりなのに加え、私のような民間企業からの出向組も加わった「寄せ集め」状態でしたから、共通の組織文化がありません。会議の仕方ひとつとってもすべてが違いますから、「どういう進め方で進めるか」から話し合わないといけませんでした。
企画書の体裁もまったく違うため、「結の場」の提案も当初は苦労しましたが、復興局の職員の方に行政機関でのコツを教えてもらいながら、何とか形にしました。コミュニケーションコストは相当かかりましたが、逆にそのお陰でいい仲間意識が生まれたと思います。

Q:活動にあたってのやりがいは何でしたか?
A:私たち民間からの出向組の強みは「よそ者」であること自体にあると思います。この強みを生かせたときはうれしかったですね。地元の職員より、よそ者が提案したほうがスムーズなこともあります。「結の場」のような外部を巻き込む事業は特にそうだったかもしれません。
「結の場」から生まれたプロジェクトに「サメの街気仙沼」構想があります。サメ水揚げ量日本一の気仙沼で、「サメの街」をもっとアピールしようと、地域の水産加工会社と漁協や商工会、そして東京本社の複数の大企業を巻き込んで「サメの街気仙沼構想推進協議会」を設立しました。地元の企業同士はいわばライバルですが、域外の企業も協力する仕組みだからこそ連携体制を築くことができました。

サメの街気仙沼構想協議会HP

現在は水産庁の「日本の食を広げるプロジェクト事業」に採択され、サメを活用した街の発展に取り組んでいます。私はすでに出向を終えたこともあり、業務としての関わりではありませんが、プロボノメンバーとしてお付き合いを続けさせてもらっています。

Q:復興局での経験で得られたことは、
A:今の仕事にどのように生かされていますか?
国や自治体の仕組みが見えたことは大きな収穫でした。出向前はメディア業界担当SI部門や経営企画部門などで、行政セクターとはまったく縁のない業務に就いていたのですが、いまは宮城での経験を生かしてCSRや社会貢献業務に携わる傍ら、行政セクターとの折衝が必要な仕事を任されるようになりました。「官公庁のことはよくわかるよね」というわけです。
もちろん行政に限らず、同時期に出向していた多業種の企業の仲間たち、さらに地域住民やNPOなど市民セクターも含め、立場や考え方が異なる多様なステークホルダー間の連携づくりについては大いに鍛えられました。近ごろは組織のダイバーシティ(多様性)が大切だと言われますが、自社以外の組織文化を肌で学べたことで、「違い」を尊重して生かす姿勢が身につきました。
濃密な2年間を共にした仲間とパイプができたことも心強いです。短期的な業績アップにつながるかどうかは分かりませんが、官民さまざまな組織にまたがるネットワークが構築できたことは、きっと将来の新たなビジネスチャンスにつながるはずです。

Q:これから被災地で働こうという方にメッセージをお願いします。
A:どんな場所に派遣されるにしても、苦労やピンチはたくさん経験すると思いますが、現場の仲間と密なコミュニケーションを取ることで乗り越えられます。一方、企業からの派遣で東北に赴任する方は、所属企業の同僚や上司とのコミュニケーションもうまく取れる仕組みがあるといいでしょうね。東京を離れていると、すっかり「外部の人」という気分になりがちで、自社の話題をニュースで初めて知る、ということにもなりかねません。その辺りのサポートもあると、よりいっそう安心して、現地の活動に専念できると思います。

(2014年7月9日取材)

記事提供:日本財団「WORK FOR 東北」