去る11月16日、宮城県名取市「ロクファームアタラタ」を会場に、ソーシャルビジネス事業者やその関係者が集い、今後の東北復興について語り合う「仙南復興ソーシャルビジネスギャザリング」が開催された。主催は一般社団法人ソーシャルビジネス・ネットワーク、東北ソーシャルビジネス推進協議会が共催している。
基調講演では、徳島県上勝町を全国的に有名にした、葉っぱビジネスの仕掛け人株式会社いろどり代表取締役横石知二さんが登壇し、自身の経験をもとに地域資源を生かすコツや東北の再生のヒントを話した。
地域資源を全国ブランドにするには
過疎化と高齢化が進む上勝町で、地域活性化のため展開された葉っぱビジネス。日本料理に欠かすことができない季節の葉や花、山菜などの「つまもの」を栽培・出荷・販売する農業ビジネスだ。当時農協職員だった横石さんが1986年から事業をスタートさせ、「彩(いろどり)」と名付け商品化し一年を通して様々な葉っぱを全国に出荷している。
しかし、当初はよそ者の横石さんが「山の葉っぱを売りましょう」と言っても、地元の人は「こんな物、売れるわけがないわ」と、足元にある資源の価値に気づかなかったという。まずは、横石さん自身が地域で信用を得ることが必要だった。できることからやってみようと、女性たちを巻き込みながら、いろどりビジネスを展開していった。
地域に仕事をつくったことが成功のカギだった。女性や高齢者の出番と役割ができ、「こんな楽しい仕事はない」と元気に働くようになった。中には、年収1000万円を稼ぐおばあちゃんもいるというから驚きだ。この事業を支える仕組みのひとつとして高齢者用パソコンの開発がある。高齢者にはパソコンの操作は無理という周囲の声をよそに、おばあちゃんたちは市場情報や受発注情報を確認するなど、タブレット端末を自在に使いこなしている。また、パソコン上で自分の売上順位が確認できる仕組みは、あえて競争させることで働く意欲とやる気を引き出しているという。住民が自分たちの地域の誇りを取り戻すことで、地域の資源が宝物に変わった。
横石さんは、「ゼロから新しく事業をつくるには、覚悟が必要です。みんなが良いと思うことをやったのではだめ。誰も考えつかないことでも、自分ならできることに挑戦しよう。ソーシャルビジネスには、そのチャンスがたくさんある」と、参加者へエールをおくった。
震災後、社会貢献し地域の役に立ちたいと思っている人が増え、今後その傾向はますます強くなっていくと考えられる。地域の各セクターををつなぐ役割を担い、マッチング空間を提供している横石さんの取り組み、今後東北の再生に活かしていきたい。
被災地復興にソーシャルビジネスを生かす
後半は、会場となった「ロクファームアタラタ」でビッフェ形式の試食会が行われた。
ロクファームアタラタは、六次産業化モデルファームとして震災後2013年9月に開業。蕎麦レストラン、レストラン&ブッフェ、パン工房、キッチンスタジオ、マルシェからなる。農と食の大切さを学び、体験し、味わうことができる共感の場として、また震災の経験を伝える施設として、地域住民と一緒に楽しみながら作り上げていきたいという。その運営方針は、横石さんの話しに通じるものがある。
試食会には、自社農園を含めた提携農家がつくった地元の食材と、「彩(いろどり)」の紅葉や銀杏の葉と組み合わせた料理、七ヶ浜での水産加工の商品とコラボレーションしたメニューが並んだ。
東北の復興に関わるソーシャルビジネスの活動を紹介し、商品やサービスを展示や試食によって体験できる「東北復興ソーシャルビジネス・ギャザリング」は、10月~11月にかけて、岩手県陸前高田市、釜石市、宮城県名取市、福島県いわき市、南相馬市の5カ所を巡回し地域フォーラムを行ってきた。今後、2015年3月15日には、宮城県仙台市(会場夢メッセみやぎ)で全体フォーラムと展示会の開催を予定している。
今回、登壇した横石さんが紹介した「いろどりビジネス」の発想と仕組みづくりは、東北でソーシャルビジネスに取り組む人々にとって力強いアドバイスとなった。
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