大木代吉本店
大木代吉本店は、1865年(慶應元年)創業、現在もさまざまな受賞歴を持つ福島の銘醸造元。純米酒が無かったに等しい昭和40年代に、水と地元の米にこだわり、混ざり気の無いお酒を造りたいということから生まれたのが、代表銘柄でもある純米酒の先駆け「自然郷」。1977年には、「こんにちは料理酒」を商品化し、多くのプロの料理人に愛され、最近では一般家庭でもたくさんのファンを持つ商品となっています。
震災では多くの蔵が被害に
歴史を感じる佇まいの店舗[/caption]歴史を感じる昔ながらの佇まいの大木代吉本店店舗。ところが、取材のため、通された店舗二階のスペースは、外観からは想像もつかないオシャレな空間。白と、昔ながらの木の柱で統一されたその空間には、ところどころに大木代吉本店五代目社長・大木雄太さんの趣味の品が置かれてあります。また、店舗からの吹き抜けには、迫力のある立派な梁(はり)があり、歴史とモダンの融合を感じさせます。
「本当は、ここの梁は細かったんですが、震災で復旧せずに取り壊した他の蔵から持ってきたんですよ。」と、大木社長。
震災前に蔵は大小14棟あり、5棟が全壊しその他も大規模半壊など大きな被害を受けたのでした。
蔵を復旧するにあたり、大木社長は全国の多くの蔵を見学してまわります。
結果、やはり昔ながらのものをできるだけ残し、外観は新しいものとなっても、長年受け継いできた蔵の雰囲気を残した、この土地に合うような蔵を建てようということに。
現在復旧中の建物もありますが、すでに出来上がった新しい蔵は、古いものと新しいものが見事に融合した、大木社長の思いが表れている素敵な蔵となり復旧されています。
異常な環境での酒造りを経験
震災のあった2011年3月は、まさに酒造りの真っ最中。「仕込み」途中のものもその後、何とか「絞り」までたどり着きます。そして春以降は蔵の改修工事に明け暮れ、2011年11月からの酒造りでは、蔵によっては危険な部分がまだあったため、つっかえ棒など応急処置と補修工事をしながら、頭にはヘルメットをかぶりながらの作業となりました。
このような異常とも思える環境でも、酒造りに必死に取り組んだのは、この酒蔵を途絶えさせてはならないという一念から。
「震災後には、安否確認と励ましのお電話をたくさんいただいて、その中でもうちの料理酒が無いとだめだ。というような声はとても励みになりました。」と、営業部課長の富山貴広さん。
「今振り返ると、向こう何年かでやることを、ギュッと凝縮してやったという感じがします。」
「当時は異常な精神状態だったんですよね。本当に(我ながら)よくやったと思います。」と、大木社長は当時を振り返ります。
そして、2014年、蔵の改修工事を終えた新しい蔵での酒造りが始まりました。
震災のピンチをチャンスに
大木代吉本店は、震災後、新しい試みをはじめました。
今までは、季節雇用の杜氏を呼んで、酒造りをしていたのですが、それを社員だけで酒造りをおこなう体制へと変更したのです。
「自分の考えているモノ作りが、直接反映できるようになったことは、良いきっかけとなったし、まさにピンチがチャンスになったなと思っています。」と、大木社長は言います。
新しい体制の重要点は「情報の共有化」。
現場の人間のスキルアップのために、作業と状態を計数管理し、目標の達成感などを共有できるような環境づくりを心がけました。
とは言え、はじめての挑戦です。まったく不安がなかったわけではありません。
「最初はビクビクでしたよ。」と、大木社長は笑いながらも、新しい体制での手応えを確実に感じていました。
新しい酵母での挑戦
実は、震災後に変わったのは、酒造りの体制だけではありません。
それは使用していた酵母の変更という酒造りの根幹に関わる部分への改革です。
今までの酵母から、より香りが華やかで、フルーティな香りを作ることが出来る、ハイテク酵母に変えました。
震災後の2011年冬からの酒造りは、体制も変わり手探りな部分もあったので、従来の酵母と新しい酵母を使ったやり方を並行させながらおこないましたが、翌年には完全にハイテク酵母のみへ移行することとなります。
実は、この早かった移行には、大木社長の父である大木会長の強力な後押しがありました。
当初、大木社長はこの新しい酵母への早急な移行を考えていたわけではありませんが、ある日、新酵母の新酒を試飲した会長が、新しい酵母による酒をとても気に入り、
「これはうまい、今後は全部新しい酵母に変えなさい。」
ということになり、翌年の酒造りでは、すべてハイテク酵母による酒造りに切り替わることになったといいます。
「こんにちは!!料理酒」と「自然郷」
現在、大木代吉本店にて仕込み本数が一番多いのが「こんにちは料理酒」です。
「料理酒は、ただ香りづけのための安いもの」というイメージをくつがえし「おいしい料理をつくるための料理酒」という新しい分野を切り開いた「こんにちは!!料理酒」は、いまや、プロの料理人達に広く愛用されています。最近では、この分野にも、多くの会社が参入してきました。
「料理酒のパイオニア的存在として、やはりトップを走っていかなくてはいけないという思いがありますので、毎年研究を重ねてより高機能な料理酒をと考えています。」と、富山課長は話してくれました。
そんな料理酒が有名な大木代吉本店ですが、清酒「自然郷」にも大木社長は自信を見せます。
「料理酒はもちろんのこと、清酒の方も華やかさ、クリアさなどは、自信を持って提供が出来るもので、ようやくイメージするものに近づいてきた。」
「視察にきた福島県の技術支援センターの技術指導員からの評価も高く、社員一同の意欲も向上している」と、大木社長はいいます。
日々実感する「生き物」と向き合う仕事の楽しさ
酵母菌からつくった酒母に、米と麹菌からつくった麹と、蒸米、水を加えて、醪(もろみ)というものをつくり、その醪を発酵させたとに、絞るという工程を踏み、酒は造られます。
この酒造りの醸造と呼ばれる工程は、刻一刻変わる状況を判断しながら作業するというもので、まさに「生き物」と向き合っているような仕事だといわれます。
「今やっと、自分の管理のもと、先々を読めるような管理ができるような仕事になってきたので、やっと気持ち的にも余裕を持って取り組めるようになりました。でも、“生き物”と向き合っての仕事って、やっぱり楽しいですよね。」と話す大木社長の笑顔はとても印象的でした。
大木社長がいないとき、ふと富山課長は発したひとこと。
「うちの社長、すごく酒造りに熱心なんですよ。」
当たり前といえば、当たり前のひとことですが、それがとても自然な感じ。
きっと、この信頼感が、大木代吉本店のつくる商品に大きく反映されているのでしょう。
大木代吉本店
住所:福島県西白河郡矢吹町本町9
電話:0248-42-2161
URL:http://www.radishbo-ya.co.jp/shop/commodity/radish/2015024/00/0704/
URL:http://www.radishbo-ya.co.jp/shop/commodity/radish/2015024/00/A596/
記事提供:NTTdocomo「笑顔の架け橋Rainbowプロジェクト」
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