<東北オープンアカデミー現地レポート>フィッシャーマンに会う旅。きっかけの先にあるものとは

「何かしたいけど、どんなふうに関わっていいかわからない。」震災から4年が経過し地域や人により復興の進みは多様化する中、東北の外からはこうした声を多く聞くようになった。

この2月に始まった「東北オープンアカデミー」は、そうした人々に東北へ出向くきっかけづくりをするプロジェクトだ。4月までの3か月の間に、東北各地でプロジェクトを展開するリーダー達と出会い、学ぶ2泊3日の「フィールドワーク」を数十展開し、約1000人を東北に送り出そうとしている。さらにフィールドワークの参加者たちは、その後も東北オープンアカデミーの「メンバー」として、セミナーやイベントを通じて継続的に関われるシステムになっている。さらに参加料の一部からファンドがつくられ、東北で新たな活動を始める人材への奨学金や、地域で起業を志す人材への起業支援金として運用される。東北へ行くだけでなく、地域で活動をしたい人にも嬉しいプロジェクトとなっている。

5その第一弾として行われたのが、2月 27日から3日間、宮城県石巻市で立ち上がった若手漁師たちの新団体にスポットをあてたプログラム「地域や業種を超えろ!フィッシャーマン、漁師たちの革命。」だ。

このフィールドワークの主役である「フィッシャーマン」は、2014年5月に三陸各地の若手漁師や鮮魚卸などが集まり立ち上げた、一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンのメンバーだ。この団体は、地域や業種を超えて漁業者が繋がり、新しい水産業の形を提案し、担い手を増やすことを目的に結成された。現在は13人が所属し、全国の各市場と直接やりとりができる仕組みに変えたり、顧客と直接やりとりのできる窓口を設けて顔が見える販売の仕掛けを行うなど「新しい漁業の形」に挑戦している。

意外にも、参加者たちは今まで漁業に無関係!?

当初、このプログラムの参加者は、漁業関係者や漁業に興味を持っている方を想像していたが、意外にも今まで漁業とは関係のない世界にいる人ばかりが集まった。今回の参加人数は8人。そのうち、農業や一次産業に携わっていた人は2人であり、5人は、会社員やフリーランス、NPO職員など様々だ。

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参加者とスタッフによる顔合わせ。中には、東北に初めて足をはこんだという参加者もいた。

初日はオリエンテーションで、それぞれの自己紹介からはじまった。埼玉県で建築関係の仕事をしている野村朋子さんは、「何かしたいと思っていても何をしていいか分からず、そんな時、フィッシャーマンのサイトで牡蠣やあかもくを購入し、あまりの美味しさにまずは行ってみよう」という想いから参加したという。また愛知県から来たという男性は「会社員としての働き方に疑問をもち、直接ものが見えたり、人と繋がっていたりすることを実感できる一次産業に興味をもち始めた。今回のプロジェクトの参加をこれからの人生のいいきっかけにしたい」と話していた。

さらに同じく被災した福島県南相馬市からも参加者が。味噌・醤油店を営む若松真哉さんは、「震災からまもなく4年がたつ中で今までを総括したい、共に戦ってきた生産者たちの今の気持ちを聞きたい」と期待を話した。フィールドワークのオーガナイザーであり、フィッシャーマンジャパンのITサービス事業部長、兼 ヤフー株式会社の長谷川琢也さんは、「フィッシャーマンは漁師だけではない。自分のように生産者のプロモーションやマーケティングなど様々な関わり方がある。ぜひその関わり方を今回のプログラムを通して見つけてほしい。」と話した。

漁業現場だからこそ得られる新たな気づき

漁師の皆さんに教えてもらいながら、参加者も牡蠣の殻むきを行い、身の大きさに感動していた。

漁師の皆さんに教えてもらいながら、参加者も牡蠣の殻むきを行い、身の大きさに感動していた。

2日目は、石巻市内の牡鹿半島の漁業の現場を車で回った。最初に訪れた牡蠣の殻むきの作業場は、震災で津波の被害にあい、昨年11月に再開されたばかりだった。それまでは水が通っていないプレハブで作業をしており、震災以前のように加熱した牡蠣を出荷できず、売り上げは震災前の1割にまで落ち込んだときもあったという。しかし、そのような中でも、ネット販売など直販を開始し、少しでも生産体制に活かそうと奮闘してきた。

最近では、市外で働いていた20代の若手も「牡蠣漁師の父親を手伝いたい」と戻り、さらに活気づいてきたという。また今年の牡蠣の出荷は好調で、震災前以上の結果がでており、徐々に復興に向かっていることを見て取れた。

次に訪れたワカメの漁場では、フィッシャーマンジャパン共同代表理事の阿部勝太さんから、震災からここまでの険しい道のり、そして今フィッシャーマンジャパンで目指す先について話された。

ワカメ漁師 阿部勝太さんにより、漁業の厳しい現状や今後のフィッシャーマンが挑戦したいことなどが説明された。 左:阿部勝太さん

ワカメ漁師 阿部勝太さんにより、漁業の厳しい現状や今後のフィッシャーマンが挑戦したいことなどが説明された。 左:阿部勝太さん

阿部さんは、流通の形を変えたいと言う。通常、漁業は出荷されるまでは「漁⇒漁業協同組合⇒地元業社⇒各市場⇒商社⇒スーパー」という流れがある。しかしこの流れだと、コストがかかり、また三陸産として市場に出されるため、生産者の顔が見えにくく、せっかくこだわりを持ってつくっても消費者に伝わらず、生産者のモチベーションがあがりにくいという現状があった。

そこで、フィッシャーマンジャパンでは、ウェブサイトや催事などで生産者が自分の顔や名前を出しながら「漁⇒各市場⇒スーパー」
という流れをつくることにチャレンジしている。もちろん、道のりは容易ではなかった。そこで、今まで漁師は漁協としか話をしなかったところを、バイヤーや市場、物流の方とも会話をすることで、ひとつ一つ意見を反映してきた。

「漁師が生産から販売まですべてを行ってしまうこともうやろうと思えばできるのかもしれないが、時間がかかるし、背伸びをしてやっても出来るものは二流品。一流の人がアイディアを出して物を進める方がスピードははやい。」と気づき、既存のものを変えてきた。

また、地元の外の人、いわゆるよそものとの連携にも手ごたえを感じている。これまで阿部さんは、ヤフー株式会社や一般社団法人 東の食の会などの団体と協力して新商品の開発を行うなどし、新たな知識や経験を得てきた。例えばその過程では、facebookやテレビ会議を使って毎日会話できるようにしたり、漁業する姿を撮影しプロモーションビデオを制作しサイトで配信したりしている。

参加者の1人で、芸術を通して地域づくりに携わる中平朗美さんは、「復興の場では、よそ者が入ってきて色々としかけているが、地元の人が絡んでいないケースもある。今回見せてもらって、地域の若者とよそものがうまく連携をとって、地域の中で確固たる信頼をかちえているという感じがした。お互いによりよく調整していこうという思想につながっていると思い、勉強になった。」と話していた。現在、地域創生の文脈においてもよそものとの連携はトピックとして語られることが多い。この4年間に漁業現場で生まれた連携のあり方は、他の地域の参考にもなりそうだ。

1人1人が目指す次のフィールドへ

最終日は、参加者がこのプログラムで感じたこと、そして今後どのような形でかかわりを持っていきたいかを共有する時間にあてられた。

2日間を振り返り、それぞれの熱い想いが共有された。

2日間を振り返り、それぞれの熱い想いが共有された。

長谷川さんは「ここにはまだまだよその人が入り込む余地がある。今回参加して気づいたことがちょっとでもあったら言ってほしいし、自分の専門性をこういかしたいという想いがあったらどんどんまざってほしい。」と話した。

現在、東京の人材会社で働き、ゆくゆくは長野の実家で農業を営むと話していた上原航輔さんは、今回のプログラムを通して実家に戻り、農業を学び気持ちがより一層強くなったという。「異業種の人たちを巻き込んで農業をやれたら面白そうだと思った。自分もチームを組んでやってみたい。」と次のステージへのイメージが明確になったと話した。また今後のフィッシャーマンとの関わり方としては、一歩目として「新鮮な魚を長野で売ったり、長野の野菜を石巻で売ったりするなどしてつなげていきたい」という。

さらに愛知からきた男性は、「自分の強みが分からず、次のステージに進むことを決めあぐねていたが、今回きたことで地域の現場では必要とされていることは沢山あり、ニーズがあることを知れた。今後ある程度の期間、自分ができることが何なのかを再度考えて、強みを知ったうえで地域と関わっていきたい。そしてフィッシャーマンと関わる日がきたらいいなと思っている。」と次のステージへの決意を話してくれた。

既存のものをあたり前のものだと思わず、理想に向けて周りの力をかりながら突き進むフィッシャーマンたちの姿勢は、漁師の世界だけではなく様々な業種の人が学ぶべき姿勢だろう。そして、今後、三陸から日本の漁業が変わる可能性をも強く感じさせてくれた。東京にいながら東北との関わりを模索する人もいれば、自身の次のキャリアを考えるためにきた人も。それぞれの思いや受け止め方に違いはあるが、皆フィッシャーマンからエネルギーと未来への希望を受け取ったことは間違いない。東北のリーダー達が持つ現場を訪れることは、東北と関わるきかっけであり、また多くの気づきを得、自身のキャリアの次のステップへ押し出してくれるものだと言えるだろう。

これから起こるイノベーションの予感に笑顔がこぼれた。参加者・スタッフで記念撮影。

これから起こるイノベーションの予感に笑顔がこぼれた。参加者・スタッフで記念撮影。

今年から2020年までの5年間、東北オープンアカデミーは東北に1000人の人を送るため、今後も農業、漁業、教育、伝統工芸などのフィールドを提供し続ける。

「何かしたいけど、関わり方が分からない。」そのような人は、このプロジェクトをきっかけにしてみてはどうだろうか。詳細はこちらから。
http://open-academy.jp/

文/佐々木瞳・写真/小澤亮