岩手県釜石市で3月28日、市内の民間企業各社に今春就職する新入社員を対象とした合同研修会が開かれた。
会場となった釜石市役所の一室に集まったのは、リクルートスーツに身を包んだ14名の若者たち。うち11名が市外出身の「Iターン就職組」だ。講師を務める鈴木洋平氏(株式会社採用と育成研究社)は、「入社に向けて不安はあってもよい。会社は違っても、同じ釜石で働く者同士、仲間を作って、不安はあっても頑張れるという気持ちをこの研修で養って欲しい」と参加者らに呼びかけた。
「官×民の連携」で新入社員の孤立を防ぎ、人材の定着を図る
研修を企画・実施したのは株式会社リクルートキャリア(本社・東京)。釜石市からの受託事業として、昨年8月に「Starting Over 三陸」と称する人材確保・育成プロジェクトを立ち上げた。同社の就職支援サイト「リクナビ2015」内に特設サイトを設け、三陸地方の魅力を紹介するとともに、若い人材を求める市内の企業情報を掲載し、興味を持った学生が直接経営者と話せる機会も設けた。さらに、各企業に対しては、人材採用のノウハウについての講習や、採用後の人材の育成・定着に向けた支援まで行うのが同プロジェクトの特徴だ。
「人材は定着させることが大事。せっかく来てもらっても、知っている人もいないし、不便だし、寒いしではすぐに辞めてしまう人もでかねない。こうした研修を通じて、同じような立場の若者が会社は違っても横につながり、プライベートでも交流してお互いに支え合っていってもらえれば」と、市の商工労政課の職員・藤丸晋一氏は合同研修に期待を込める。
減り続ける労働人口 「ヨソモノ」を積極的に活用する釜石市
釜石市の統計によれば、市の労働人口(15歳~64歳)は、震災直後の2011年4月時点では21,315人だったのに対し、2014年4月時点では19,929人となっており、総人口に比例して年々減少傾向にある。少子化や人口流出が進む中、将来の地元産業を支える若い人材の確保とその定着は喫緊の課題だ。
そうした状況の中、既に釜石市には、震災後の復興活動に市外の出身者である「ヨソモノ」の人材を積極的に活用してきた実績がある。自治体が復興まちづくりに外部の人材を有効活用した先駆的モデルとして知られる「釜石リージョナルコーディネーター」(通称・釜援隊)もその一つで、14名の復興支援員の大半を岩手県外の出身者が占める。
「釜石市は市外の人材を『よく来たね』という感じで迎えてくれる空気がある」と語る藤丸氏も、もともとは福岡の出身。復興庁による人材募集で釜石市に赴任した。「平成26年度時点の状況で、復興庁からの派遣職員の受け入れは、各自治体で数名から5名程度が一般的。一方、釜石市では20名以上が受け入れられている」という。
「人が育つまちづくり」を。社内チームワークと横のつながりがカギ
「Stating Over 三陸」プロジェクトが最終的に目指すのは、「人が育つまちづくり」。採用された人材が、地域に定着して活き活きと働き、 地元産業にも貢献することで、 人材と産業の双方が成長し、地域活性化にもつながる。では、どのように人材の定着を図るのか―。リクルートが重視するのは、市内の各企業内で良いチームワークを築きつつ、社外の人とも「横のつながり」を作り、困難があっても仲間と共に乗り越えていく力を身に付けること。冒頭の鈴木講師のコメントにもそうした思いが込められている。
その上で特に欠かせないのが「コミュニケーション」の力だ。研修参加者は、SPI(総合適正検査)の結果に基づく自己分析を行ったり、組立てブロックの玩具「レゴ(LEGO)」を使った様々なタスクをこなしたりしながら、仕事に取り組む姿勢や、多様な考えを持つ人たちとの接し方を学んだ。自分の好きなことや経験をレゴで表現し、それを他のメンバーに説明することを通じて、自ずとお互いのことが分かり、話題作りのきっかけにもなっていく。
盛岡市出身で大学の社会福祉学部を3月に卒業した小笠原凌さんは、釜石市で福祉関係の仕事に就く。「自分は内陸部の出身だけれど、震災後に釜石など津波の被害を受けた沿岸部でボランティア活動に参加した。釜石市での仕事を通じて復興に貢献していければ」と意気込む。
人材の採用と育成には時間とコストがかかる。特に中小企業にとっては大きな負担で、「若い人材を一から育てたいと思っても、育成にかかるコストや辞めてしまうリスクを考えると二の足を踏みがち」(藤丸氏)。そうした地元企業に対して、釜石市が、ノウハウを持った民間のビジネスを活用するかたちで財政的・制度的に支援し、将来的には市の産業育成、人口増、地域活性化に繋げる。まさにwin-win-win、「三方よし」の復興まちづくりの好例と言えるだろう。
市は来年度もリクルート社との協業を通じた企業の人材採用支援を続けていく方針だ。
文/石川忍