「子育ては母親が楽しくあるのが一番です」と相馬市で助産師をする宮原けいこさんは話す。
では、母親が楽しくあるには――?
朝の光が差す児童館。室内にはアップテンポでリズミカルな曲が流れる。
子供を抱えた母親たちが並び身体を動かし、その前に助産師の宮原さんが立って声をかける。「腕をぐーっと上げて――、肩からつーっと下げてください」。腕を伸ばし、前身を伸ばし、身体をほぐしていく。初めは少し緊張していた顔の母親たちが少しずつほぐれていくのが分かる。親子体操・ママのリフレッシュ体操の一場面だ。
宮原さんは、震災後の7月に助産所を開設。育児訪問で市内の家庭を訪問し、母親たちの顔を見て、悩みを聞く中で、このままじゃダメだと思った。産後の育児はストレスや不安が大きく、ただでさえ気持ちが不安定になりがち。相馬市の人たちは、さらに原発の不安もある。家を訪問すると部屋を真っ暗にして、宮原さんの顔を見ただけで泣きだした人もいた。なんとかしようと、母子が集まるサロン活動を10月から企画した。
三年を経て、このサロンも100回以上は開催している。
今日の相馬市の児童センターには約30組の母子が集まった。この日、8ヶ月の娘を連れて初めて参加した26歳の母親は、友人の紹介で訪れた。初めてのサロンを楽しみ、この日行われた救急救命の講習を受けた。
この日も始めはお互いに遠慮しているのか固かった人たちも、音楽に合わせて身体を動かし、隣の母子と触れ合う中で笑顔に満ちてくる。何度も足を運んでくれている常連もいれば、初めての人もいる。それがサロンを通して、距離感を縮めていく。そうして一人ひとりが安心して子どもを育てられる環境を作りたいという思いが宮原さんにはある。
……母親を楽しませるこつは?と聞くと「支える私たちも楽しむことですよ」と宮原さんは笑った。
写真・文=岐部淳一郎
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