森健(もり けん)さん
ジャーナリスト。「文藝春秋」をはじめ各誌で人物ルポ、経済記事を中心に執筆中。
被災地の未来を考えるとき不可欠なのは「未来を担う子供たちへの支援」だ。このシリーズでは、やがて東北の復興と発展の担い手となる子供たちの未来に焦点を当てた多様な活動についてレポートしていく。
第1回は被災地の子供にフォーカスした取材活動を続けるジャーナリスト・森健さんの活動を紹介する。地震と津波の恐ろしさを語り継ぐ一つの方法として『子供の眼』による震災の記録に注目した森さんは、被災地の子供たちに作文を依頼。集まった80人の作文は文藝春秋8月臨時増刊号『つなみ』として発表され反響を呼んだ。
「当初、作文については賛否両論があり、僕自身にも大きな葛藤があった。しかし、聖路加国際病院の細谷亮太副院長の話を聞いて背中を押された。細谷氏は40年以上、小児がん治療の現場で病と闘う子供たちを見てきた人。その彼が『大人も子供も、過酷な経験をした人ほどその体験を多くの人とシェアしたいという気持ちを抱えている。人間とは本来そういうものだからだ』と言ってくれたことが励みになった」
森さんはこの作文集をきっかけに、制作過程で出会った家族のその後を追い続け、新著『「つなみ」の子どもたち』にまとめた。一方、取材を続ける中で、気づいたことがあるという。
「あくまでも主観だが、親が震災のショックからなかなか立ち直れない家庭の子供ほど不安が強い傾向があると思う。なぜなら子供にとっては津波そのものの恐怖よりも、家庭や地域、学校や友だちといった『揺るぎない日常』が一瞬で失われたことの方がショックだから。絶望する親の姿は子供たちに『頑張って生きても意味がない』というメッセージとして伝わってしまう。そういう親子間の『絶望の伝染』は何としても防がなければいけない」
家と職を失い、高台移転や産業集約など復興計画には問題が山積し、被災地には未だ大人でも絶望したくなる現実が横たわっている。
「大切なものを失えば大人だって辛い。でも子供の日常を取り戻せるのは大人しかいない。だからこそ自ら一歩を踏み出して『頑張った先にある何か』を子供たちに見せてほしいと思う」
これまで東北は何度も津波に襲われ、その度に復興を遂げてきた。その核にあるのは「やはり支え合う家族の力だ」と森さん。
「震災を生き抜き、明日に向かって歩み始めた家族の姿にこそ『真の復興』の答えがある。僕はそれを伝え続けていきたい」。
取材・文/庄司里紗
Tweet