[巻頭言] 雇用創出への取り組み 失業者と被災事業者双方の目線で

 岩手県釜石市で活動をしている私どものNPO法人に、過日小宮山厚生労働大臣が視察に来られた。被災地での雇用状況および緊急雇用創出事業の活用状況について、現場の声を聞きたいとのことで、知りうる限りの状況をお話しさせていただいた。

 その中で、印象的だったのは「一つの事象だけを見てそれを解決するだけでは、全体の解決にはならない」と言う部分で意見が一致したことだった。

 例えば、この1月から失業保険給付が切れる人が出だしたこともあり、昨年末から突然のように話題に上ることが増えた「雇用」に関すること。たしかに「雇用の確保」は被災地の復興に欠かせないテーマだが、その焦点は「被災失業者」に絞られることが多いのが現状だ。「事業者」と「働く人」がいて初めて「雇用」が成り立つのにも関わらずだ。

 あくまでも全体のテーマは被災地の復興であるはずなのに、被災失業者への雇用確保だけにフォーカスがあたるのはいかがなものだろう。一時的な施策や県外から間に合わせで作りだされた職により雇用が確保され、失業者の生活が仮に安定したとしても、その地域で生活を支えている地元の商店や事業所の復興がなされないままで、その地域が今後の未来へ向かって豊かな街になり得るのだろうか。それで本当に「復興」と言えるのだろうか。

 今回の震災で被災した零細の事業所に対する支援はほとんどどないに等しく、被災事業者の多くは事業を再開できず厳しい状況にある。このことから見ても、雇用・就労それぞれの支援については組み合わせて行う方がベターであることは明白であるが、行政だけではそれを行うことは難しい。よく言う縦割りの弊害である。

 ならば、我々のようなNPOがその隙間を埋める役割を果たすべきであろう。当法人でも、今後事業者の再建支援、失業者の就労支援、雇用マッチング支援を組み合わせた「なりわい再生事業」を行政・企業との協働で行う予定だ。そこに求められるのは、やはり個々の課題だけに惑わされず、未来の街の姿を描きながら全体を俯瞰する目線である。

 あくまでも目的は被災地の復旧・復興なのだから。

書き手:
鹿野 順一 特定非営利活動法人@リアスNPOサポートセンター代表理事、特定非営利活動法人いわて連携復興センター代表理事。

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