被災事業者の再建へ 復興ファンドの課題と可能性     ~新たな繋がりを活かし、東北に「起業」の息吹を~

 被災事業者に対する資金支援を目的とした復興ファンドが数多く立ち上がっている。現在の状況と今後の課題は何か。

大規模ファンドの 果たす役割と課題

 日本政策投資銀行と岩手銀行が共同出資する東日本大震災復興ファンド「岩手元気いっぱい投資事業有限責任組合」は本年2月、大槌商業開発㈱への融資を実施した。同社の運営する「シーサイドタウン・マスト」は岩手県沿岸地域最大のショッピングセンターで、地域の生活インフラとして不可欠な施設である。

 主に政府や金融機関が主体となって数百億円規模の資金を運営する大規模ファンドは、地域経済に影響力を持ち、雇用を多く抱える地場の中堅規模以上の企業を支援対象とする場合が多く、その果たす役割は大きい。しかし一方で、リスクの高い融資や出資だけに、多重債務を抱える事業者への審査は慎重にならざるを得ず、即時性に欠ける面が指摘される。また復興資金を必要とする被災事業者の多くは個人事業主で、かつ莫大な数にのぼる。被災地にはいまだに支援を受けられず苦境に立たされている事業者も多く、これ以上債務を抱えたくないという思いも強い。そんな中で、融資ではなく少額の出資を募る「市民ファンド」を活用する事業者が増えてきた。

再建を後押しする 市民ファンド

 岩手県山田町。創業56年、県内および全国にファンを持つ飲食店「三陸味処 三五十(みごと)」は、津波により店舗が全壊した。だが復興に向けて、被災を免れた自宅1階を厨房に改装、仕出し事業および海藻のアカモク販売事業を開始した。改装費用の約1千万円は県の補助金と「三五十ファンド」で調達した。このファンドを運営するのは東京のミュージックセキュリティーズ㈱だ。同社は投資家が1口1万500円から自分で事業を選択できる「セキュリテ被災地応援ファンド」を運営し、これまでに総額で約6億円の資金を集めている。1万500円の内訳は、出資金が5千円、寄付が5千円、500円が手数料だ。ホームページでは被災事業者の事業計画や、被災前の売上高なども紹介しており、商品の販売支援も行っている。

 岩手県大槌町の水産加工業者の任意団体「立ち上がれ!ど真ん中・おおつち」は自身が営業・運営主体となってホームページなどで1口1万円の資金提供を呼びかける。これまでに8千万円を超える資金が寄せられ、サケの加工場を再建した。出荷が可能になったら、「あらまき鮭」「三陸の恵み」等の商品を届ける予定だ。

市民ファンドの利点と 今後の課題

 市民ファンドは、被災地を応援したい出資者と被災事業者を、きめ細やかに結びつけられる。また直接結びつくことで、一緒に復興しているという感情がファンを生み、事業者の販路拡大につながるというのも利点だ。

 だが中には思うように資金調達ができない事業者もいる。これは取り扱う製品、市場特性に起因し、もともと比較的全国各地に顧客基盤をもつ事業に資金が集まりやすい傾向があると考えられる。また市民ファンドでは、本格的な設備投資を伴う多額の資金調達は容易でない。震災から1年が経ち、徐々に関心が薄れ、支援が先細りすることも懸念される。更にはそもそも震災前から担い手が減少している事業は、当面の資金調達だけでは解決できない難しい課題が残る。東北に限った話ではないが、現在全国の漁師の平均年齢は65歳。震災がなかったとしても厳しい実情といえる。

資金調達の先にある 課題解決に向けて

 宮城県石巻市雄勝町の「OHガッツ」は、個人事業主だった漁師ら12名が震災を機に立ち上げた合同会社だ。「OHガッツ」は、牡蠣・ホヤ・帆立・銀鮭の養殖オーナー制度「そだての住人」で2千万円以上の資金を調達した。

 同社はこの制度を通じ、単に料金を前払いして商品を買ってもらうだけではなく、出資者に対し積極的に養殖の体験学習の場を提供している点に特長がある。これは「そだての住人」になる出資者自身が作り手となり、自分が作ったものを食べる喜びを感じて欲しいという考えからだ。また海産物を提供するレストラン運営など、水産業とリンクした観光産業を興すことで地域の活性化を目指す。こうした活動は、購買を促すだけでなく、三陸の漁業への関心と親しみを高めると期待したい。

 従来から厳しい環境にあった産業の復興は、日本全体が抱える大きな問題でもある。しかし今、個人事業主のままではできなかったことが、震災を契機に生産者同士のネットワークを作ることで可能となったのは事実だ。市民から出資という形で支援を受け、そこで生まれた繋がりを活かして自立した事業者を目指す。東北に芽生え始めた、こうした「起業」の息吹が、日本が抱える課題を吹き飛ばす旋風となると願いたい。

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