「小さくても一つの成功事例が、 市民を勇気づける」久保田崇さん

久保田崇さん

久保田崇(くぼたたかし)さん
岩手県陸前高田市 副市長
京都大学卒、01年内閣府入り。ニート対策を内容とする「子ども・若者育成支援推進法」の制定等に携わる。05年より英国留学、ケンブリッジ大MBA等を取得。11年10月より現職。

 当市、陸前高田市は市役所が完全に被災し、300人いた職員のうち68名、臨時雇用の方も含めると105人が犠牲になりました。建物も完全に壊れ、本来あった行政のデータや文章、条例のデータも喪失。行政機能が著しく低下してしまいました。こうした中、他自治体から多大な支援をいただいています。岩手県や一関市から職員派遣をしていただき、そして、特筆すべきこととして名古屋市から20名を越える職員が応援という形で当市の指揮系統に入っていただいています。もともとお付き合いがあったわけではないのですが、名古屋市から「陸前高田市を支援する」と積極的な意思表明をいただけたのです。

 もしかしたら支援する側としても防災関連について職員に学ばせる機会になるといった狙いもあるかもしれませんが、いずれにしても我々も特定の機関から支援を受け、陸前高田市の気持ちとしても、将来もし名古屋に有事があった際には、積極的に助けにいくぞ、という意識が高まっています。

住居と雇用の問題を いかに解決するか

 陸前高田市として市民に求められているのは、大きく2つ。雇用の問題と住居の問題だと思っています。

 雇用の問題への対策は、短期的には震災で失業してしまった人たちの職を生むこと。企業誘致もその一つで、食事宅配のワタミタクショク株式会社のコールセンターを、先方からの申し出により作ることが決定し、70名を雇用することになりました。また、6月頃からの稼働になりますが、神奈川の株式会社グランパの植物工場の建設も決定しています。陸前高田では、農業は漁業に次ぐ基幹産業ですが、今まで農業に携わってこなかった人たちが一から始めるとなると、自営業を始めるということですので一大決心が必要です。植物工場のようなものは新しい農業の形ではないかと期待できます。これから土地の造成とハウスを建て始め、6月頃から操業開始。30名程度の雇用を見込んでいます。

 中長期の雇用としては次世代が働ける産業を育てていくことが大切です。この地域はもともと仕事がなく若い人が残らない……残れない地域です。この状況を放ったままでは復興は叶いません。今はまだ特定できているわけではありませんが、長い目で見たときには、陸前高田らしい産業を興す必要があると思います。三陸沿岸は漁業、林業、農業などの一次産業が主流ですが、それに関わる加工や商品化する部分など……どんな産業が当市にふさわしいのか議論していくべきです。

課題は土地探し 復興のスピードを意識

 目下もろもろの課題は土地探しです。工場を建てるにしても、高台移転にしても場所が必要。一番欲しいのは造成の手間がかからない、平らな土地ですが、そういう場所にはすでに仮設住宅が建っているため、実質残っていません。あvとは山を切るくらいしか選択肢がないのです。この仮設市役所の前も山ですが、買収にかかっていて、ここをならして公営住宅を300戸ほど建てたいと思っています。ただ、こういう場所が何十カ所も必要です。

 浸水地を使うと考えるなら、地盤沈下を元に戻すのにも時間がかかり、防潮堤を作るのにも5年かかるでしょう。いま申し出てくれている企業も5年は待ってくれないでしょうから、山を切って造成する方が早いですよね。こういった所は、やはりスピードが求められると思います。

被災民が希望を持てるモデルケースを作っていく

 昨年、被災した方々は避難所から仮設住宅に移りましたが、次のステップにいつ進めるのか、不安に感じていらっしゃいます。何年かかるにしてもいずれは出て行くわけですが、そのときに、どういう場所に、どういう条件で、いつ出て行けるのか……。たとえば、もともと住んでいた土地がいくらで売れるかが決まらなければ新しいところに移ることができませんが、その見通しがなかなか立たず、我々も明確に答えられずに、心苦しい部分です。

 我々も皆さんを移転させるには、どれくらいの土地が必要で、公営住宅がどれくらい必要かを、アンケートをとったりしながら見繕っていますが、どうしても時間がかかるのです。工夫して、少しでもスムーズに進められるよう努力しますが、3000人いる地権者との交渉や土木工事が一晩で終わるはずもありません。また、1000戸は必要だろうと予測される公営住宅も一気にできるわけではありませんので、少しずつ前に進めるしかないのです。

 今はまだ見渡してもがれきしかなく、何も希望が見えないかもしれませんが、小さくても一つの成功事例が生まれれば、それが市民を勇気づけます。8年間ある当市の震災復興計画の中で、地域住民から見たら希望になるようなモデルケースを、少しずつ積み重ねていくことが大事だと思っています。

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