丹波史紀(たんばふみのり)さん
福島大学准教授・災害復興研究所研究員
ふくしま連携復興センター代表理事
福島大学行政社会学類准教授。震災以降は、大学の枠組みに捉われず、多方面で災害の実態調査を行うとともに、それをもとにした行政機関への政策提言を行っている。
福島県は放射能汚染という固有の課題を抱えています。他県で行われているのが被災後の復興であるとするならば、福島に求められるのは今なお被災し続けている中での復興になります。人口200万人弱の福島県で6万人もの県外待避者がおり、それが日々増加しているのが現状なんです。
課題解決を難しくしているのは、放射能が目に見えないだけでなく、放射能にどう対応すべきかという方針も見えないこと。行政もNPOも最終的には個人の判断に委ねるという姿勢にならざるをえません。被災地に住む人々にも、支援する人にとっても二重の意味で見えない課題なんです。
そうした中、震災から1年が経過することで生まれてきた変化があります。県外待避する子供が増えている中で教育環境を維持できるか、県外待避しながらも長時間通勤で仕事を続けられるかなど、残る側にも待避する側にも様々な課題が発生します。昨年の暮れぐらいから目立ってきたのが、待避すべきか否かの議論に力を割くよりも、現実の課題に対して実際にできることに知恵と労力を割くという変化です。支援者はこうした目に見えはじめた動きをしっかりと捉え、継続して共有していくことが求められるのです。
復興に特化した行政 政策の大学院を開設
震災の復興への取り組みは被災地にとって必要なだけでなく、今後の日本、さらには世界にとって学ぶべき重要なケーススタディとなります。今年4月、福島大学では、東日本大震災の経験を活かし今後災害復興の要となる人材を輩出するべく、災害復興に特化したサテライト大学院を開設します。開設に先だった記念フォーラムでは、ノーベル経済学賞受賞者のアマルティア・セン氏が記念講演をされたことからも、いかに世界が注目しているかが分かります。
復興のためには、被災者の課題意識に加えて、仕組みを生み出していける人材の確保が不可欠です。人は仕事でこそ成長しますから、行政や大学などの組織は、福島の課題を整理し、広く発信することで、多くの優秀な人材を集める役割をになうべきです。
しかし、外の人材を集めるだけでは完結しません。最終的に復興を成し遂げるには、内で育った人材だからです。遠回りのように感じるかもしれませんが、今から人材を育てる仕組みを作っていくことが結局は復興の近道であると考えています。
世代間をつなぐ 育成のシナリオづくりが鍵
放射能の影響は今後30年以上続くわけですから、福島の課題解決のための人材育成は世代を超えた長期的な視点が必要です。
今後5年~10年のスパンでやらなければいけないことを考えますと、まず必要なのは各世代ごとの人材育成の仕組み作りです。特に、今後を担う若い世代については、少子化に加え県外の待避人口も多く絶対数が少ないわけですから手厚い支援が必要になります。
20代、30代は既に復興の現場で活躍している人材をロールモデルとし、同世代に広げていけます。10代以下については親の影響から、仕事や社会に対して不安を抱えてしまうケースがあります。今後被災地に留まるか否かに関わらず、仕事や社会に対して意欲を持てる就業体験等のプログラムが必要と考えています。
世代ごとの人材育成の仕組みの次に、世代間をつなぐ育成のシナリオづくりが必要になってきます。30年後には、行政においても企業においても今の20代の若者が意思決定をしているわけです。そのためには、世代を越えてロールモデルを共有していく必要があります。被災後1年で様々な成果が出てきていますが、まだまだ同じ世代同士が集まって個別に成果を出しているケースがほとんどです。今後、個々の活動の連携が生まれると、世代を越えた成長の機会が増えていくと思います。これに関し、大学としても役割を果たしていきたいと思います。
当事者の課題意識から生まれた活動が、雇用と教育の場を産み、それが連携していくことで世代を越えて生活が成り立つ地域づくりができること、それが復興なんだと思います。
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